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堕神契約―祈りを奪われた少年は、裏切りの神と世界を呪う―  作者: 苗月
序章

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69/120

敗北

血の匂いが、路地裏を満たす。


 シュナイザーの亡骸を踏み潰しながら、その巨躯がゆっくりと顔を上げた。


「ロデオ・バロック……」


 ハイドラが小さく呟き、冷や汗をひとつかいた。


 潰れた頭部から、ぶちぶちと血が漏れ、脳漿が足元で泡立つ。

 ルカは呻きながらも構え直すが、肩は深く裂け、呼吸も荒い。


「次は、お前だな……小僧」


 ズン、と足を踏み出すだけで、大地が揺れた。

 その圧に、ルカの膝が一瞬、ぐらつく。


 それでも、引けない。ここで退けば、意味がない。

 体がどうなろうと、この場を――超える。


《Dusk Lance―ダスク・ランス―》


 闇の槍が唸りを上げて突き進む!


 だが、ロデオは鼻を鳴らし――


「遅ぇ」


 その拳で、闇の槍を叩き潰した。


 ゴッ――!


 魔力の衝撃が路面を抉り、黒煙が弾ける。

 そこを抜けて現れたのは――凶獣のような巨拳!


 ルカは咄嗟に魔力で体を引き、回避しようとするが――


「ガキの遊びに付き合ってる暇はねぇんだよ!!」


 ドゴォッ!


 拳が、横腹を抉った。

 肋骨の砕ける音が響き、肺が押し潰される。


「ッ――か、は……ッ!」


 吐血と共に吹き飛び、壁へ、瓦礫へ――叩きつけられる。


 崩れる視界、耳鳴り。

 立ち上がろうと足を突っ張るが、膝が震えている。


 それでも、ルカは魔力を集めた。


《Hex Blade―ヘックス・ブレード―》


 刃の闇が手に宿り、敵を斬る!


 だが、ロデオの体表は――まるで鋼鉄。

 刃を腕で受け止め、脇腹に蹴りを叩き込んだ。


 ルカはボロ雑巾のように力無く吹き飛ぶ。


「てめぇの刃は軽すぎんだよ!」


(このままじゃ……)


 ……《逆祈願―アンブレス―》……!


 最後の切り札が脳裏をよぎる。

 だが、隙がない。魔力が足りない。

 何より、意識が遠のき始めていた。


 ロデオが近づく。


 その姿はまさに災厄。

 “踏み潰す”という言葉が、今ほど似合う敵はいなかった。


「死ねや、小僧ッ!!」


 拳が、振り下ろされた――


 その瞬間――風が裂ける!


 ハイドラが、光の軌跡と共に駆け込んだ!


「っ……!」


 細腕とは思えぬ力でルカの体を抱き寄せ、跳躍!


 降り注ぐ拳は地を砕き、煙が舞う。


 ハイドラの声が、空気を震わせた。


「すみませんっ、出直しますっ!!」


 ルカを抱えて、路地裏の影へ――退いた。


 残されたロデオは、拳を振ったまま、少しの沈黙のあと……鼻を鳴らして呟く。


「ふん、腰抜けが」


「追いますか?」


 側近の一人がロデオに問いかける。

 だが、ロデオは背を向けて歩き出す。


「放っておけ、興が冷めた」




 霧に包まれた〈静寂区〉。


 古びた家屋。

 入口にはオーフェン、レダ、カマキリが外を警戒するように立っている。


 その建物の奥。

 レイヴンと、一人の老人が相まみえていた。


「久しぶりだな……ジジイ」


「口の利き方は相変わらずだな、バカ弟子が」


 その声音は穏やかだが、背後の家々がきしみ、霧がざわめいた。


 "沈黙の戦帝サイレントキング"

 〈バルバトス・グゥラ・アーケイン〉

 元・魔術騎士団団長。

 その者はレイヴン、ザイランにとって師にあたる人物だった。


 レイヴンは懐から酒瓶を取り出し、コトリと置いた。


「二つ、頼みがある」


 バルバトスは瓶をひと睨みした後、くつくつと笑った。


「珍しく苛ついてるなぁ……いいぜ、話してみろ」


 霧に閉ざされた区画の奥で、何かが蠢き始める。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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