自由の背中
事件から六日目の朝。
王都東門に六つの影が並んでいた。
「よぉし、集まったな! じゃあ出発すっか! ダラダラしてっとザイランの野郎に見つかっちまうからな」
第十部隊 隊長
"世界最強の自由人"
〈レイヴン・バーンズ〉
無造作に伸びた黒髪、年季の入った長衣、腰にぶら下がる棒切れのような刀。
豪快で自由奔放、だが世界最強と謳われる男。
「まぁ……隊長が一番遅かったんすけどね」
第十部隊 副隊長
"氷眼の死神"
〈オーフェン・ウッドロック〉
青白い髪をなびかせる青年。無感情に見える目元と低いテンションの声。
その実、冷静沈着で副隊長としての実力も申し分ない。
「おい新人! 一応言っとくけどな、オレのほうが先輩だからな?」
"不良治癒師"
〈カマル・キリング(通称:カマキリ)〉
派手な剃り込みの入った金髪坊主にダサいサングラスでオラつく男。
見た目に反し、健康志向だという。
「バーカ、その坊やは第三とこの副隊長だ! てめぇの方が格下なんだよ!」
"金腕の調教師"
〈レダ・ファイブスター〉
黄緑のストレートロングにバケットハット。派手なピアス、左腕は金色の義手。
煙草を咥えたその姿は、姉御肌という言葉が似合う女性だった。
「ハイドラです!よろしく、お願いしますね!」
"爆撃砲台"
〈ハイドラ・ジオヘイム〉
ベージュのおさげ髪。この部隊には似合わない、真面目そうな少女。
むっちりとした太ももには「09」の刻印があり、それを赤と白のリボンでバッテンするように隠している。
魔術騎士団第十部隊。
たった五人のその部隊は、王国でもっとも規格外な、自由奔放の集まりだった。
◇
出発して数刻、風がなびく草原地帯。
ルカが横に並び、レイヴンへと問いかけた。
「なぁ……どこを目指してるんだ?」
「あァ?ああ、そういや言ってなかったな。 ま、早い話が……リュミアの敵討ちだ」
とても軽い口調だった。
しかし、そこに冗談の気配はない。
「……でも、どこに行くんだよ。あてが……」
「あるっちゃ、ある」
ニッと笑うレイヴン。
だが、それ以上は教えてもらえなかった。
突然、レイヴンが足を止めた。
そこは何もない、ただの草原。
「さて。ルカ、お前、自己紹介がまだたったな」
「……? いや、門のところでしたと思うけど」
「バカちげーよ。力見せたかって言ってんだよ!」
ルカはピンと来なかった。
レイヴンがレダに合図を送る。
レダは「あいよ。」と呟き、義手から魔道具を取り出して地面に叩きつける。
すると魔方陣が閃き、どろりと何かが現れた。
それは腐肉を這わせた巨大な蛙の魔物。
〈バスドロッグ〉
――封印されし猛毒魔獣が、唸り声を上げる。
「さ、やってもらおうか」
一瞬、ルカは戸惑った。
「……は?」
無警告。しかも相手は魔獣。
戦闘は、始まっていた。
バスドロッグが咆哮を上げ、巨体を揺らす。
その口が大きく開いた瞬間、ヌルリと伸びた舌がルカの顔面目掛けて飛んできた。
攻撃を避けつつ咄嗟にレダへ視線を向けたが、彼女はニヤニヤと笑って見ているだけ。
「ちっ、わかったよ……!」
すぐさま魔力を練る。
足元に黒い魔力が渦巻く。
夜の底から這い出すようなその気配に、第十部隊の面々がわずかに目を細めた。
《Shade Bind―シェイド・バインド―》
詠唱と共に、地面から複数の黒鎖が噴き上がる。
バスドロッグの両脚に絡みつき、地を抉る勢いでその動きを止めた。
ドスッ、と音を立てて舌が伸びる。
ルカは冷静に一歩引き――
《Crush Vein―クラッシュ・ヴェイン―》
空間に滲んだ黒の波紋が、バスドロッグの体を一瞬で包み込む。
瞬間、魔物の動きがガクンと鈍り、痙攣のような硬直が走る。
「……もう一発」
ルカが右手を振り上げると、濃密な闇が槍の形を成して宙に浮かんだ。
《Dusk Lance―ダスク・ランス―》
黒槍が唸りを上げて一直線に飛ぶ。
バスドロッグの肩口に突き刺さり、爆ぜるように黒煙が舞い上がった。
苦悶の咆哮。
巨大な肉体が後退し、地面を抉る。
だが、完全に沈黙する前に――
「よっしゃ、こんなもんだろ」
レイヴンが満足げに声を上げると、レダが指先を鳴らして魔獣を制止。
「わぁ〜、すごぉい……!」
ハイドラが拍手する。
「けっ、別に普通だろ」
カマキリはそっぽを向きながらも、ちらりとルカを見ている。
一目置かれるであろう結果だった。
だがレイヴンは腕を組み、しばらく沈黙したあと、口を開いた。
「この前やった時も思ったけどよぉ……ルカ。てめぇの魔法、なんつーか……“借り物”みてぇだな」
核心を突かれた。
ナカトとの契約。黒い力。フィーラ以外には話していないはずだった。
ただの勘?もしくは既に何か知っている?判断がつかない。
何を言うべきか、隠すべきか話すべきか。
ルカは無意識に警戒心を強めた。
「訳アリって顔だな。でもな……」
レイヴンが振り返り、ニヤリと笑う。
「こいつら全員、大なり小なり訳アリだ。ま、気楽にいこうや!」
その言葉に、先程の警戒心が嘘のように溶けた。
ゲラゲラと笑う世界最強の男。
その男の背中に、ルカは少しだけ、憧れのような感情を抱いた。
旅は、まだ始まったばかりだ。
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