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堕神契約―祈りを奪われた少年は、裏切りの神と世界を呪う―  作者: 苗月
序章

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狂者達


 騎士団本部・戦闘訓練室。


 王国最強の自由人〈レイヴン・バーンズ〉

 そして副隊長に任命されたばかりの若き騎士〈ルカ〉


 二人の前哨戦を見ようと、各部隊の面々が静かに見守っていた。


 開始前、ふと呟く声が聞こえた。


「なぁオーフェン、お前……アイツに勝てるか?」


 隣に立つ部下に、レイヴンが何気なく問いかける。


「そりゃまぁ……腕三本あれば余裕っすけど」


「あっそ。じゃあ俺は?」


「まぁ……腕一本あれば」


 ふっと笑ったレイヴンは、ゆっくりと刀の柄に手を置いた。


「よぉし。今日は右腕一本!」



 そして始まった。


 音すら置き去りにするような初撃――

 ルカは直感的に足元へ魔力を走らせる。


《Shade Bind―シェイドバインド―》


 地を這う闇が、鋭くレイヴンの足を絡めようとする。


 しかし。


「遅ぇ」


 その言葉と共に、レイヴンの姿が霞のように消える。

 刹那、背後から重い衝撃。

 ただの体当たり。それだけで空気が砕けた。


 吹き飛びながら、ルカは魔力を込めて叫ぶ。


《Crush Vein―クラッシュヴェイン―》


 脳を痺れさせる術がレイヴンに届く。

 しかし男は笑っていた。


「……おっ、ビリっとくるねぇ!」


 動きも、構えすらも崩れない。

 全く同じ速度、全く同じ圧で、レイヴンは真っ直ぐ歩いてきた。


 ――速い。読めない。

 いや、“読ませない”。


 《Black Echo―ブラックエコー―》


 鼓膜に刺すような音波が空間を震わせる。

 今度こそ、足を止めさせた……かに思えた。


 だが次の瞬間、レイヴンの刀が闇そのものを“斬った”。


「っるせぇな、なんだこれ」


 黒い音の波紋が、斬られて消えていく。


 (そんな……!)


 全ての技が、通じない。

 それでも――踏み込んだ。


 ルカは魔力を最大限に集中させた。


《Hex Blade―ヘックスブレード―》


 能力封印を伴う漆黒の刃を、真正面からレイヴンへ叩きつける。


 その瞬間――


 ガンッ。


 乾いた音が響いた。


 レイヴンは、左手一本でその刃を受け止めていた。

 刀ですらない。素手で。


「いいねぇ。ちゃんと“殺し”に来たな」


 そしてそのまま、右足で腹を薙ぎ払うように蹴り飛ばす。

 ルカの身体が宙に舞った。


「でもよ――」


 ルカが地面に叩きつけられる寸前、レイヴンがふっと肩を竦める。


 そして彼の刀が一閃。

 その“斬撃”が空間ごと、術式の残滓ごと両断した。


「ここが戦場なら、お前死んでたぜ?」


 周囲の騎士たちは、息を飲むことすら忘れていた。


 ルカは何が起きたか理解する前に、気を失っていた。


 レイヴンは背中を向けたまま言う。


「悪くなかったぜ。だが次はもうちょいマシな殺気持って来い」


 静まり返る訓練場。


 その場にいた全員が、レイヴンという存在の“格”を痛感していた。



 そして。

 ぽつりと呟くように、オーフェンが言った。


「最後、左手と右足使ってたんで……だめです」


「……マジかよ」


 レイヴンが、やや真顔になった。



 


 ――とある廃教会。

 既に崩れかけた祭壇と、苔むした礼拝室の奥に、今も異様な気配が満ちていた。


 そこに、ひとり、またひとりと集う者たちがいた。


「……お待たせ。みんな、揃ってるかしら?」


 現れたのは、漆黒のドレスを揺らす妖艶な女――〈ネフェルティア〉

 蠱惑的な微笑みと共に、背後に控える少女――〈ミリア〉を連れてゆっくりと歩を進める。


 その姿を見て、教会の長椅子に胡座をかいていた少女が噛みついた。


「遅ぇよ、ババァ! ……いつまでお高くとまってんだよ」


〈アンジュ〉

 長く伸ばした白い髪に、金の輪を模した髪飾り。

 だがその見た目に反して、口は悪く、態度も粗雑。

 天使のような服を着ながら、まるで悪童――


「お、お姉ちゃん……やめなよぉ。怖い人、いっぱいいるんだよ……?」


〈イヴィル〉

 赤黒いショートヘアに角形の髪飾り、悪魔の衣装を纏った少女。

 瞳は涙をためて揺れ、その声も細く掠れている。

 だが手に携える漆黒の弓には、ぞっとするような魔力が宿っていた。


「はぁ?ビビってんじゃねぇぞ、ボケがっ!」


「ご、ごめんなさい……」


 二人はいつも一緒。

 天使と悪魔のような双子として、組織内でも特異な存在だった。


「……いやはや仲が良いですねぇ。

 その信頼がいつか崩壊すると思うと……ああ、そういう瞬間が、一番……おおぉ……」


 低く湿った声が、祭壇の影から這い出るように響いた。

 〈クラーク〉

 異様に痩せ細った体をゆったりとした法衣で隠し、猫背で立つ男。


 皮膚は病的に青黒く、目は異常なほど潤んでいた。

 穏やかに語るその声の裏に、狂信的な嗜虐の光が見え隠れする。


「あぁ……ところで、"完成品"の成果は……いかがでしたか?

 皆さま、ちゃんと痛がって、ちゃんと泣いて、ちゃんと壊れてくれましたか?」


 誰も答えない。

 代わりに、背後の扉を無造作に蹴破って入ってきた男が声を上げた。


「いやぁ~! 俺も見たかったなぁ、彼らの断末魔!! マジで残念!」


 赤髪をかき上げながら笑うのは、筋骨たくましい青年――

 〈リーヴェルト〉

 一見すると人懐こく、爽やかな好青年のようだが……その眼差しだけは異様に濁っていた。


「でもさ、次があるってことでしょ? ね? 次はもっと楽しいの、お願いしマース!」


 その軽薄な調子に、ミリアは無言で目を細める。


 ネフェルティアは肩をすくめ、小さく笑う。


「それで結果は? 『結果は?』」


 〈ダブル〉が髑髏の仮面越しに、二つの異質な声で問う。


「……イオルドたちも、蛆虫なりに頑張ってくれたわよ。 おもちゃの一つが壊れちゃったけど――まぁ、それも想定内」


 椅子に優雅に腰掛けると、彼女は視線を全員へと向けた。


「それと、ボスがね。……ちょっと面白い“素材”を見つけたらしいの」


 それぞれの表情が、わずかに動く。

 アンジュはニヤリと笑い、クラークは手を震わせて恍惚とし、イヴィルは小さく首をすくめた。


「近いうちに、“祝福の儀”を行うそうよ。今度は、とびっきり特別な相手でね。」




 空気が静かに引き締まる。



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