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堕神契約―祈りを奪われた少年は、裏切りの神と世界を呪う―  作者: 苗月
序章

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友の刃(前編)


 ――王都 南方聖堂。


 呪具を通じて暴走した神官たちが、辺りを狂気に染めていた。

 魔力に焼かれ崩れ落ちた建物、破裂して隆起した石畳。

 無数の骸が転がるその中心に、一人の男が立っていた。


 第五部隊隊長

〈セズ・クローネ〉


 屈強な体躯に黒と青の騎士団装。鋭い視線の奥には、獣のような静かな殺気。

 その手に握られた大剣には風の魔力が宿り、唸りを上げながら暴徒と化した神官たちをなぎ払う。


 斬撃の度に風が巻き、血飛沫が弧を描いて舞う。

 断末魔と魔力の爆散が空へと溶けていくたび、戦場は徐々に静寂を取り戻しつつあった。


「――あと、数体……!」


 呼吸を整えながら、セズは剣を構え直した。


 その時だった。


 突如、後方で爆音が響いた。


 爆風と共に立ち上る濃霧――その中から、あり得ない者の気配が迫る。


「なっ……タダラン、だと……!?」


 現れたのは、かつて王女を襲撃し、セズの手によって捕らえられたはずの殺人鬼。


「へへ……隊長ぉ。また会えて嬉しいぜぇ」


 汚れた布を纏った異形の姿が笑っていた。

 右腕は呪具に侵食され、肥大化し、先端は槍のように変形している。


「なぜお前がここに……!?」

「俺ァ運が良いみたいでよ。ママが“お外で遊んできなさい”って……ひひっ」


 異常な言動と共に迫るタダラン。

 その動きはかつてより遥かに鋭く、殺意が剥き出しだった。


 セズは冷静に剣を構え、迎撃に移る。


 巨腕が振り下ろされる直前、大剣を振るい、地面へと叩きつけた。


 轟音と共に巻き上がる爆風が、タダランの突進を逸らす。


「……まともに答える気はないか」


 セズの瞳が鋭く細められる。


《風咬刃―ゲイル・バイト―》


 唸るような風が斬撃にまとわりつき、渦となってタダランの腹を裂いた。


「ぐ、う……っ!」


 苦悶の声を漏らしながらも、タダランは笑いを絶やさなかった。


「へへっ……やっぱ、すげぇな……あんたはよ……」


 膝をつきながらも立ち上がろうとするその姿を、セズは冷然と見下ろす。


「二度目はない。今度こそ……ここで仕留める!」


 大剣を振り上げ、斬り伏せようとした――その瞬間。


 気配が、背後に現れた。


 まるで影のように、静かに、音もなく忍び寄る存在。


 その気配に反応する間もなく、斜め後方から突き出された双剣の一振りが、セズの左肩を深く抉った。


「ッ――がっ……!」


 痛みと同時に跳躍で間合いを取り、肩を押さえる。

 流れ落ちる鮮血と共に、視線の先に現れたのは――


 戦場で幾度も背を預けてきた、あの男だった。


「……フィノ……」


 第五部隊副隊長、フィノ・バッカス。


 誰よりも信頼し、部隊を支えてきた彼が、まさかの――裏切り。


「なぜだ……!」


 叫ぶセズに、フィノはふっと目を伏せ、口元を歪める。


「なぜ、か。……そりゃあ、簡単だよ。“お前が嫌いだから”、だな」


 その目には、かつての誠実さはない。

 代わりに渦巻いていたのは、長年蓄積された嫉妬と憎悪の澱。


「お前にはわかんねぇよな……“凡人の苦悩”なんてよ」


 その声は、静かで、しかし確かな怒りを孕んでいた。


 セズは言葉を失い、苦悶の表情を浮かべる。

 フィノが、そんな思いを抱えていたことに、まったく気づけなかった自分を呪った。


「教えてくれ……何があった?」


「何もねぇよ。……全部、計画通りだ」


 そう告げると同時に、フィノが斬りかかる。


 セズもまた剣を構え、応じる。


 剣と剣がぶつかり、火花が散る。


 背を預け合った戦友同士――

 その絆が断ち切られた瞬間、二人の騎士の運命は、戦火の中で真っ向から交差した。



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