第37話:静かな断罪
「なんだ……!?」
騎士たちが即座に外へ走る。
ルカもその後に続く。
広場で、一人の男が暴走していた。
上半身が膨張し、目は真っ赤に充血。
禍々しい魔力が漏れ出している。
「呪具の……暴走」
セズが歯噛みする。
「貴様ら、周囲の住民を避難させろ!コイツは俺が止め――」
「首だ」
「……なに?」
ルカが男の首元――膨らんだ肉に埋もれかけたペンダントを指差した。
「そこから、“嫌な気配”がしてる」
「誰が貴様の言葉など――」
「言い争ってる場合か」
ルカは一歩前に出ると、静かに右手を掲げた。
その掌に、闇が蠢く。
「Shade Bind」
低く呟くと、男の足元から影が這い上がり、一瞬で四肢を絡め取った。
暴れていた体が、その場に硬直する。
その隙に、ルカのもう一方の手が闇を集めはじめる。
影が槍の形を取り、鋭く凝縮される――
「Dusk Lance」
狙いは一つ。
首元にぶら下がる、あの禍々しいペンダント。
風すら切らず、影の槍は静かに、だが正確に空を裂いた。
金属音もなく、ペンダントは真っ二つに裂ける。
禍々しい魔力の奔流が霧散し、男の膨張していた体がしぼみはじめた。
がくりと膝をつき、男はその場に崩れ落ちる。
静寂が、その場を支配した。
「な……っ」
セズが目を見開いたまま、動けない。
「行こう、フィーラ」
「あ、う、うん」
ルカは踵を返してその場を去ろうとする。
「待て!」
セズの声が背後から飛ぶ。
「……貴様、一体何者だ」
「……話すことはないと言ったはずだ」
ルカの言葉に、セズが剣に手をかける。
「とぼけるな……」
「やめて!」
フィーラが叫ぶ。
「今はそんな場合じゃないでしょ!? あなた、騎士団の人なんでしょ!? まずは、この混乱をなんとかしないと……!」
その言葉に、セズは渋々、剣から手を離した。
「くっ……次は、話してもらうぞ」
そう言い残し、セズは隊員たちに指示を出し始めた。
ルカとフィーラは、その隙に姿を消していた。