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堕神契約―祈りを奪われた少年は、裏切りの神と世界を呪う―  作者: 苗月
序章

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開かれた罠


 ――王都。


 その巨大な門が視界に入った瞬間、ルカとフィーラは無意識のうちに足を止めた。

 空へと聳える城壁。魔力障壁が淡く光を放ち、出入りする人々の間にぴりりとした緊張感と熱気が混ざっていた。


 風情ある石畳の街道の先に、光と影が折り重なるような壮麗な都市の姿が広がっている。

 荘厳さと賑わい――古と現の空気が同居する王都の風景に、ふたりは思わず見入った。


 門番たちが何やら小声で話しているのが耳に入ったが、内容までは分からず、ルカたちは深く気に留めることなく、群れに紛れるように王都の中へと足を踏み入れた。


 初めて訪れるこの大都市で、まず何をすべきか。

 買い出し、宿探し、そして鑑定士探し――頭を抱える要素は山ほどある。


 人の多さに押されそうになりながらも、はぐれぬよう、ふたりは自然と手をつないだ。


 やがて、少し開けた広場のような公園に辿り着く。

 街の喧騒が幾分遠のいた木陰のベンチに腰を下ろし、ようやく一息をついたそのときだった。


「お困りですか?」


 背後から、軽やかな声が降ってきた。


 振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。


 金色の長い髪を無造作にまとめ、つばの広い帽子を目深に被っている。

 装いは地味な町娘風だが、その雰囲気はどこか浮いていた。

 不思議と視線を逸らせなくなるような、印象的な存在感。


 少女は〈セレナ〉と名乗った。


「王都は初めてですか? 宿はもうお決まりですか? これからのご予定なんかも、もし良ければ!」


 にこやかな表情で、矢継ぎ早に言葉を投げてくる。


「え、あの……はい、今日着いたばかりで、宿もまだ……」


 フィーラが戸惑いながら答えると、セレナの顔がぱっと明るくなる。


「それは良かった! ちょうどいい宿、紹介できますよ!」


 言うが早いか、彼女はふたりの手を取って立たせると、「こちらです!」と元気よく歩き出した。


 半ば引きずられるようにしてついていくルカとフィーラ。

 人通りの多い大通りを外れ、徐々に裏路地へと入っていく。


 いつの間にか、あたりの喧騒は遠ざかっていた。


 人通りもまばらになり、建物の陰が長く伸びる路地。

 どこか物寂しい、薄暗さが漂う。


「……ここです!」


 セレナが指さした先には、

《蛙のみぎあし亭》

 と書かれた小さな木の看板がかかっていた。


「な、なんか名前が……」


 フィーラが不安そうに呟く。

 だがセレナはまるで聞こえていないかのように、「どうぞどうぞ〜2名様入りまーす!」と勝手に扉を開け、中へ招き入れていく。


 店内はひんやりとした空気に包まれ、やけに静かだった。

 昼間というのに客の姿はなく、重苦しい沈黙だけが満ちている。


「おい、ここ……本当に大丈夫なのか……?」


 ルカが不穏な空気に眉をひそめ、振り返る。



 だがそのとき。


 どこか愉快げに微笑みながら、扉の外に立つセレナ。


 バタン、と背後の扉が閉められ

 同時に、鍵のかかる音が響いた。


「くそっ……騙されたか」


 ルカが息を呑んだ瞬間だった。


 店の奥や梁の影から、複数の人影が音もなく現れる。


 全員が黒いマントを纏い、顔を仮面で覆っている。

 その中でも、中央に立つ“赤い仮面”の者が際立っていた。


 沈黙のまま歩み寄る赤い仮面。

 次の瞬間、殺気を帯びた一撃がルカに襲いかかる。


 ルカは即座に防御姿勢を取り、辛うじて防ぐが、その隙を突かれる。


 フィーラが後方から拘束され、連れ去られる。


 一瞬の出来事だった。


「フィーラッ!」


 駆け出そうとするルカの前に、再び赤い仮面が立ちはだかる。


 しなやかで無駄のない身のこなし。

 手にした短剣は巧みに操られ、動きに迷いがない。


 その腕前は、完全に訓練された戦闘者のものだった。


「……だったら」


 ルカの身体から、漆黒の魔力が立ち昇る。

 部屋の空気が一変し、緊張が走る。


 ―逆祈願―


 闇の魔力が空間を支配し、敵たちは一斉に距離を取る。


「やめな。……俺が死ねば、あの子もタダじゃ済まねぇぞ」


 低く、女の声が響く。

 荒っぽい口調だが、その声は静かでよく通る。


「目的は何だ?」


 ルカが問いかける。


 すると、仮面の者のひとりが足元へ紙を滑らせるように投げた。

 地図だった。


「一時間後、ここへ来な」


 それだけを残し、彼らは一斉に煙のように姿を消した。


 まるで最初から存在していなかったかのように――


 静まり返った部屋に、ルカの呼吸だけが残る。


 拳を握りしめ、震える指先。


 その瞳に、燃えるような怒りの色が宿っていた。



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