次なる鼓動
朝のフロリエルには、ひんやりとした風が吹いていた。
街を包む柔らかな空気の中、教会の前に立つルカとフィーラの姿があった。
フィーラは教会を見上げ、しばらく黙ったまま佇んでいた。
この地が故郷だったわけではない。けれど、ここで出会い、喪い、決意した。
それは間違いなく、自分の中で何かを変えた場所だった。
「……不思議だね」
ぽつりとフィーラが呟く。
「短い間だったのに、すごく長くいた気がする。いろんなことが、ぎゅっと詰まってたからかな」
その髪には、白と淡紫のフローカの花を象った髪飾り。
朝陽を受けて、わずかに揺れていた。
「……行こっか」
ルカは黙って頷いた。
言葉は要らない。
ただ隣にいるだけで、想いはきっと伝わる。
二人は振り返らず、静かにフロリエルをあとにした。
◆
王都 ルスタ──
騎士団本部の団長室。
分厚い扉の奥、重たい空気の中で、ひとつの報告がなされていた。
魔術騎士団・第五部隊隊長、セズ・クローネが静かに頭を下げる。
「……リネールでの一件、報告は以上となります」
報告を受ける男。
〈ザイラン・ヴァレスト〉
魔術騎士団・第一部隊隊長、そして団長を兼ねる強者。
金髪を丁寧に撫でつけ、鼻筋の通った細身の眼鏡。
その姿からは、冷徹な気配と圧倒的な威圧感が滲んでいた。
「…つまり、何も分からずじまいということか」
その声は低く鋭く、沈黙が室内に重くのしかかった。
「……申し訳ございません」
セズが再び頭を下げる。
「これは明日の定例会議に回せ。情報の擦り合わせ次第では何か分かるかもしれん」
紫のショートヘア。キリッとした顔立ち。
表情から堅実さと忠誠心が伝わってくる女性。
横で控えていた副官の〈ラナ・シトラ〉が、すぐに反応する。
「かしこまりました」
ザイランは資料から視線を上げると、鋭い目でセズを見据えた。
「セズ──お前を第五部隊の隊長に推薦したのは、私だ」
「…はい」
「私を、失望させるなよ」
「……はい」
セズの拳が、静かに震えていた。
◆
王城・高台の回廊。
石畳の床に、淡い光が差し込んでいる。
誰もいない静かな場所で、一人の少女が窓辺に立っていた。
金色の髪が、光を受けて柔らかく揺れている。
その横顔には静けさと温かさがあり、まっすぐに何かを見つめていた。
──第一王女 セレーヌ・エルステリア
その眼差しはまるで、遠くにいる誰かの姿を捉えているかのようだった。
◆
旅立つ者。
動き始める者。
物語は、静かに次なる局面へと歩みを進める──
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