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堕神契約―祈りを奪われた少年は、裏切りの神と世界を呪う―  作者: 苗月
序章

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次なる鼓動

 朝のフロリエルには、ひんやりとした風が吹いていた。

 街を包む柔らかな空気の中、教会の前に立つルカとフィーラの姿があった。


 フィーラは教会を見上げ、しばらく黙ったまま佇んでいた。

 この地が故郷だったわけではない。けれど、ここで出会い、喪い、決意した。

 それは間違いなく、自分の中で何かを変えた場所だった。



 「……不思議だね」



 ぽつりとフィーラが呟く。



 「短い間だったのに、すごく長くいた気がする。いろんなことが、ぎゅっと詰まってたからかな」



 その髪には、白と淡紫のフローカの花を象った髪飾り。

 朝陽を受けて、わずかに揺れていた。



 「……行こっか」



 ルカは黙って頷いた。

 言葉は要らない。

 ただ隣にいるだけで、想いはきっと伝わる。


 二人は振り返らず、静かにフロリエルをあとにした。





 王都 ルスタ──


 騎士団本部の団長室。

 分厚い扉の奥、重たい空気の中で、ひとつの報告がなされていた。


 魔術騎士団・第五部隊隊長、セズ・クローネが静かに頭を下げる。



 「……リネールでの一件、報告は以上となります」



 報告を受ける男。


〈ザイラン・ヴァレスト〉


 魔術騎士団・第一部隊隊長、そして団長を兼ねる強者。

 金髪を丁寧に撫でつけ、鼻筋の通った細身の眼鏡。

 その姿からは、冷徹な気配と圧倒的な威圧感が滲んでいた。



 「…つまり、何も分からずじまいということか」



 その声は低く鋭く、沈黙が室内に重くのしかかった。



 「……申し訳ございません」



 セズが再び頭を下げる。



 「これは明日の定例会議に回せ。情報の擦り合わせ次第では何か分かるかもしれん」


 紫のショートヘア。キリッとした顔立ち。

 表情から堅実さと忠誠心が伝わってくる女性。

 横で控えていた副官の〈ラナ・シトラ〉が、すぐに反応する。



 「かしこまりました」



 ザイランは資料から視線を上げると、鋭い目でセズを見据えた。



 「セズ──お前を第五部隊の隊長に推薦したのは、私だ」


 「…はい」


 「私を、失望させるなよ」


 「……はい」



 セズの拳が、静かに震えていた。





 王城・高台の回廊。


 石畳の床に、淡い光が差し込んでいる。

 誰もいない静かな場所で、一人の少女が窓辺に立っていた。


 金色の髪が、光を受けて柔らかく揺れている。

 その横顔には静けさと温かさがあり、まっすぐに何かを見つめていた。


 ──第一王女 セレーヌ・エルステリア


 その眼差しはまるで、遠くにいる誰かの姿を捉えているかのようだった。





 旅立つ者。

 動き始める者。


 物語は、静かに次なる局面へと歩みを進める──




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