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堕神契約―祈りを奪われた少年は、裏切りの神と世界を呪う―  作者: 苗月
序章

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21/120

崩れゆく境界

旧港区・倉庫街では、第五部隊の突入作戦が始まっていた。


「突入開始!」


 セズの号令と同時に、騎士たちが倉庫の扉を蹴破る。


 内部には、闇の商人たちと、その護衛に雇われた傭兵たち。


「くそっ、騎士団だ!」


 叫ぶ傭兵が剣を抜く。次の瞬間、空気が裂けた。


 フィノが地を滑るように前進、双剣が風のように閃いた。


 斬撃とともに敵の武器を弾き飛ばす。


「生け捕り優先! 殺すな、無力化しろ!」


 セズが風を纏った大剣で敵陣に突撃する。

 大剣の一薙ぎで、数人の傭兵が吹き飛ばされる。


「くそ、バケモンかよ……っ!」


 傭兵たちが呪具を取り出し始める。


「呪具を使わせるな!!」


 騎士団員が叫ぶが、その直後、紫光が爆ぜる。


 瞬間的に放たれた炎の塊が壁を焼き、周囲の木箱が炎上する。


 セズが風の盾を展開し、周囲の仲間を守る。


「悪人どもが!」


 叫ぶと同時に、セズの大剣が旋風を纏い、呪具を持った傭兵を吹き飛ばした。



 ◆



 ファレル家の屋敷、地下室。


 モーディ=ファレルは黒革の袋から、それを取り出した。


 “特別製の呪具”。

 それは脈動していた。

 心臓のように、呼吸するように、意思すら感じさせる不気味な球体。


 魔術的封印を解除し、ゆっくりと胸元へ押し当てる。


「これが……俺のすべてになる」


 皮膚が焼ける音。呪具が肉体に沈み込んでいく。

 激痛のはずなのに、モーディは笑っていた。


「力が……入ってくる……俺を、笑ったやつらを……すべて、跪かせてやる……」


 その瞳には、もう理性はなかった。


 自ら抉った胸の中心。

 そこに、黒く脈打つ球体が、じわり、じわりと沈んでいく。


「……っ……が……ぁ……っ……」


 吐く息は濁り、目は見開かれ、震える手が虚空を掴もうとしている。

 肉が焼ける臭いと、血の味。感覚はすでに、自分のものであるか怪しい。


 それでも、彼は拒まなかった。


 これは“力”だ。代償など、問題ではなかった。


 過去の言葉が脳裏に浮かぶ――

「没落貴族め」

「犬にしてはよく喋る」

「ファレル家? もう終わった名だろう」


 唇が吊り上がる。


「……笑え……好きなだけ……その顔を……今度は俺が、踏みにじってやる……」


 心臓と同調するように、呪具が脈打った。

 黒紫の魔力が地下を満たし、上昇。


 次の瞬間――


 ズドン。


 地上の空気が弾けたような衝撃。

 屋敷の一角が吹き飛び、黒紫の瘴気が空へと立ち昇る。



 ――



 情報を元にルカたちは、ファレル家の外壁近くまで来ていた。


 路地を歩いていたルカとフィーラが、その爆音に足を止めた。


「……なに……今の……?」


 フィーラの声が震えていた。


 ルカも言葉を返さない。


 吹き上がる黒煙の中心、空気がねじれ、光が歪んでいる。


 視界の端が妙に重い。

 心臓の鼓動が、一瞬だけ乱れる。


「……っ……っ……」


 何かが“いる”。

 そう感じさせるには、十分だった。


 フィーラが一歩引く。


「ルカ……」


 声が小さくて、頼りなかった。


 ルカは一歩、前に出た。


 魔力が少しだけ、足元の影に反応する。

 何が起きているのかは、まだ分からない。


 だが、あの瘴気の中心に“危険”があることだけは、間違いなかった。





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― 新着の感想 ―
追い付く事に成功。 モーディと良く分からん女.... 一体どうなるのだろうか....
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