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堕神契約―祈りを奪われた少年は、裏切りの神と世界を呪う―  作者: 苗月
序章

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暴走の兆し(3)

リネールの宿屋『三角帽亭』。

 その一階の食堂に、ルカとフィーラは並んで座っていた。

 人通りの多い昼下がり、客の声と食器の音が賑やかに響く中、二人の空気だけが異質に沈んでいる。


「……どうしよっか」


 フィーラがぽつりと呟いた。


「どの噂も曖昧だし、手がかりってほどのものがないよ」


 ルカは答えず、ただ水を一口飲む。

 情報が集まらない。

 “呪具”という存在に辿り着くには、まだ足りない。


 そのとき。

 店の扉が開き、軽く鈴が鳴った。


 入ってきたのは黒髪の男。

 堂々とした態度と、目に見えるほどの気迫を纏った青黒の制服。  

 その後ろには、茶髪の男――副隊長フィノと、数人の部下が控えていた。


 魔術騎士団――第五部隊。


 ルカは瞬時に顔を上げた。

 目が合う。


 黒髪の男――セズ・クローネ。

 その目が、静かにルカを見据えた。


「間違いない、あれが……」


 フィノが小さく呟く。


 セズはそのまま、ゆっくりとルカに歩み寄った。


「この宿に、“黒い服の少年”が滞在していると聞いてな……。事件当時のこと、話を聞きたい」


「……特に話すことはない」


 ルカの返答は短く、冷たい。

 それを受けて、セズは一歩、前に出た。


「勘違いするな。これは質問じゃない。――尋問だ」


 その言葉と同時に、空気が張り詰めた。

 まるで目の前で剣を抜かれたかのような威圧感。


 ルカも立ち上がる。


「や、やめてよ、二人とも!」


 フィーラが慌てて二人の間に割って入った。


「私たちは何もしてない!ただ、たまたま居合わせただけで――」


「……呪具が“正確に破壊されていた”。それについて、どう説明する?」


 フィーラの制止を無視し、セズは言葉を続けた。


「呪具……?」


 ルカが眉をひそめると、すかさずフィーラが割って入る。


「ホントに、何も知らないってば!」


 空気が重い。

 ルカとセズは互いに視線を逸らさない。


「答えるつもりがないのなら……」


 セズが背中の剣に手を伸ばした――次の瞬間。


 外から騒音と悲鳴が飛び込んできた。


「なんだ……!?」


 騎士たちが即座に外へ走る。

 ルカもその後に続く。


 広場で、一人の男が暴走していた。

 上半身が膨張し、目は真っ赤に充血。

 禍々しい魔力が漏れ出している。


「呪具の……暴走!」


 セズが歯噛みする。


「貴様ら、周囲の住民を避難させろ!コイツは俺が止め――」


「首だ」


「……なに?」


 ルカが男の首元――膨らんだ肉に埋もれかけたペンダントを指差した。


「そこから、“嫌な気配”がしてる」


「誰が貴様の言葉など――」


「言い争ってる場合か」


 ルカは一歩前に出ると、静かに右手を掲げた。

 その掌に、闇が蠢く。


《Shade Bind》


 低く呟くと、男の足元から影が這い上がり、一瞬で四肢を絡め取った。

 暴れていた体が、その場に硬直する。


 その隙に、ルカのもう一方の手が闇を集めはじめる。


 影が槍の形を取り、鋭く凝縮される――


《Dusk Lance》


 狙いは一つ。

 首元にぶら下がる、禍々しいペンダント。


 風すら切らず、影の槍は静かに、だが正確に空を裂いた。


 金属音もなく、ペンダントは真っ二つに裂ける。

 禍々しい魔力の奔流が霧散し、男の膨張していた体がしぼみはじめた。


 がくりと膝をつき、男はその場に崩れ落ちる。

 静寂が、その場を支配した。


「な……っ」


 セズが目を見開いたまま、動けない。


「行こう、フィーラ」


「あ、う、うん」


 ルカは踵を返してその場を去ろうとする。


「待て!」


 セズの声が背後から飛ぶ。


「……貴様、一体何者だ」


「……話すことはないと言ったはずだ」


 ルカの言葉に、セズが剣に手をかける。


「とぼけるな……」


「やめて!」


 フィーラが叫ぶ。


「今はそんな場合じゃないでしょ!? あなた、騎士団の人なんでしょ!? まずは、この混乱をなんとかしないと……!」


 その言葉に、セズは渋々、剣から手を離した。


「くっ……次は、話してもらうぞ」


 そう言い残し、セズは隊員たちに指示を出し始めた。


 ルカとフィーラは、その隙に姿を消していた。





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