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堕神契約―祈りを奪われた少年は、裏切りの神と世界を呪う―  作者: 苗月
序章

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旅の始まり

街道を歩くふたりの間に、会話はなかった。


ルカは淡々と前を歩き、フィーラは少し後ろをついていく。


途中、休憩がてら小さな草原に腰を下ろしたとき。  ふとした拍子に、フィーラが問いかけた。


「ねえ、ルカさんっていくつなの?」


「……十五」


「えっ、一つ年下!? あ、じゃあ……」


フィーラは口元を押さえたまましばらく悩み、結局照れくさそうに笑って言った。


「……ルカ、って呼ぶね」


返事はなかったが、ルカも特に否定はしなかった。



その夜、ふたりは小さな宿に泊まった。

部屋は一つしか空いていなかった。少し気まずい。



窓の外に月が浮かぶ。


フィーラは質の悪いベッドの上、毛布を抱えながらぼそりと呟いた。


「ねえ、明日は……どこに行くの?」


ルカは、答えなかった。

ただ、廃れ気味のソファーに寝転び、目を閉じたまま天井を見つめていた。


その沈黙に、フィーラもそれ以上何も言わず、そっと毛布にくるまった。


眠れない夜。


誰にも届かない想い。

それでも、ふたりはまだ“隣にいた”。


旅の始まりには、それだけで十分だった。




やがて二人はとある街に辿り着いた。


 街道の先に、巨大な影がそびえていた。


 砦のような外壁に囲まれた街。高く積まれた石壁には、光の紋章が刻まれている。


 ルカの足が止まる。


 そこは──レオナード家の領地。


 自分が“捨てられた”家。

 “復讐”が始まる場所だった。


「うわぁ……すごい街!」


 隣で、フィーラが目を輝かせている。


「美味しいパン屋さんとか、あるかな……?」


 無邪気な声。けれど、ルカの心は別の方向を向いていた。


「……ここから先は、ひとりで行く」


「……え?」


 フィーラが小さく瞬きをした。


「私、何かしちゃった……?」


「そうじゃない」


 視線を伏せたまま、ルカは続ける。


「俺がこれから向かう場所は、綺麗なものじゃない」


「ちょっと!!」


 突然、鋭く強めの声が飛んだ。


 驚いたルカが振り向くと、フィーラが仁王立ちしていた。


「こんなか弱い田舎娘が、あんな大都会にひとり放り出されて、生きていけると思ってるわけ!?」


 顔はふくれていて、でも声はしっかりしていて――堂々としていた。


「…いや、えっとぉ……」


言葉に詰まる。


「だいたいねぇ!!」


「ッ!!」


 ルカの体が反射的に少し硬直する。


 少し息を吐いて、笑った。

 その笑顔は、照れ隠しとほんの少しの強がりでできていた。


「確かにここまで…無口だし、無表情だし、何考えてるか分かんないし………ドキドキワクワクって感じの“大冒険”じゃなかったかもしれないけど」


 静かに、でも強く、彼女は言った。


「……私は、ついていく。そう決めたの」


 その言葉には、冗談も甘えもなかった。

 ただ“覚悟”だけが、しっかりと込められていた。


 ルカは、しばらく黙っていた。

 それから、小さく目を伏せる。


「……わかった、好きにしろ」


 それは、肯定だった。


 街の灯が、夜空に浮かび上がっていた。


 “終わらせるため”の一歩を踏み出した。



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