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プロローグ
私があの人に出会ったのは、
まだ“世界は正しい”と信じていた頃だった。
祈れば救われる。
善き行いは報われ、神はすべてを見ている。
誰もが、疑うことなくそう信じていた。
教会は清き場所であり、
王族、貴族は民を導き、
騎士は力ある者として尊敬されていた。
それが、この国の“常識”だった。
……けれど、それは幻想だった。
祈りは、ときに呪いへと変わる。
光は、誰より深く闇に堕ちる。
信じた者に裏切られ、
救いを求めた者ほど、絶望の底へ落ちていく。
私はそれを見た。
誰よりも優しかったあの少年は、
この旅の終わりに、何を願ったのだろう。
――これは、
祈りに裏切られた少年と、
かつて神だった存在が交わした、
“堕ちていく契約”の記録。
けれど私は、
その果てにこそ“救い”があったと、信じたい。