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OverDrivers  作者: jau


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37/37

37話 繋がる星々-3 死を告げる紅き飆

「若き龍人、そしてゼニアよ」

「!」


 時は、少し前に巻き戻る。

作戦会議の卓上で、カタストは二人を名指しする。

ゼニアはともかく、ジェネは身体のダメージもある。

その上での指名とあれば。それは、特別なことを示すものだ。


「お主らには、特別な使命を与えたい。隣の宅だ。ついて参れ」

「俺に? ……ああ」

「うん」

「あ、私も行く!」

「俺も行こう」


 頷いた二人にリリア、そしてリーンも続いて、外へと向かうカタストの背を追う。

言葉通り、その足取りは隣の家へと続いた。

カタストが開けた扉の先は、何も変哲もない一軒家。

だがその殆どが、所以も用途もわからない大量の機械で埋められていた。

かろうじて人一人通れる程度に残された通路をたどりつつ、リリアはその背中に問いかける。


「ここって博士たちの家?」

「うむ。手慰みに色々と作っておるのでな。

 どれもこれもガラクタ同然だったが……偶然にも、このような機が回ってきたわ」


 答えながら、カタストはその一室へとたどり着く。

そこもまた無数の機器が大半を埋め尽くしている状況であったが、

開けた中央にある机へ向け、カタストはさらに進んだ。

そしてその机上、鎮座する謎の機器へと手をやる。


「我が発明品、6502号。精霊情報統合管制機ホログ・オーバーローダー・アイン

 先に配ったバッジの親機でもある」


 説明と共に、彼はその装置のスイッチを入れる。

同時に各部に命が宿ったように輝き始め、やがて。

その装置の各所から、様々な色に輝く光が放たれる。精霊たちだ。


「少女よ、『レギン』を出してみよ」

「え? うん」


 操作の傍ら、カタストから投げかけられた声に答えて、

リリアは腕輪の着けられた左手を胸の前まで上げる。

それを認めると、彼は更に操作を続け、そして力強く宣言した。


「データ投入完了。表示だ!」

「……わっ!?」


 カタストが押し込んだボタンに反応して、

機械に浮かんでいた様々な色の精霊が、規則正しく整列していく。

そのまま、精霊たちは輝く身体で立体的な形成を始める。

それが何の形を成しているのか、一同が理解するまでにそう時間はかからなかった。


「立体地図……!」


 出来上がったそれを見て、リーンが呟く。

空中に投影されるように浮かび上がった光は、

先に見たベリオンの構造を立体的に再現していた。


「そうだ。そして先程のバッジと通信しその位置を示す、管制機でもある。

 身に着けていれば、この管制機によって位置が常に共有できるというわけだ。

 秘匿された施設へ人を分けての潜入とあれば、役に立つだろう」


 説明とともに、

カタストは投影された光の中でも目立つ赤い光の群れを指差す。

ベリオンの投影図から離れた箇所で輝くそれらが、バッジの信号なのだと伺えた。


「ベリオンの位置が特定でき次第、最適化を実施する。

 その後は正常な位置情報を表示できるはずだ。

 バッジの通信連絡機能により連携すれば、高度な作戦を実施できよう」

「こ、こっちも何か出てるんだけど!?」


 その最中。違う方に目を向けていたリリアが驚きと共に問いかける。

振り返れば、リリアが着けたその腕輪からも立体像が映し出されていた。

その形は、管制機から映し出されるものと同じ物だった。

リリアの問いに、カタストは頷いて答える。


「うむ。『レギン』にも立体投影機能を用意しておるのでな。

 ここで管理しておる情報を受信し、独立して出力するという理屈だ。

 今回はこちらから強制的に実行したが……

 このイメージを持てば、以降はお主の意志によって起動・停止できるはずだ」

「へえ……!」


 カタストの言葉を受けて、リリアはそのように意志を念じてみる。

その答えも早かった。彼女の意志にフレキシブルに反応し、立体像が消える。

そしてすぐ、再び浮かび上がった。

これもまた、リリアが逆に念じた意志に従ったものだった。


「ほんとだ。すごい便利!」

「別途『レギン』へデータを登録すれば、平凡な地図表示機能としても使用可能だ。

 ククク……才能のみならず、この気配り! つくづく自分が恐ろしいわ……!」


 リリアの歓声に、何時も以上に誇らしげにするカタスト。

飛び出す自画自賛も、しかしこの技術力からすれば過ぎたるものでもない。

グローリアの文明の結晶たる海上要塞ベリオン、それにすら見劣りしないほどに。

それは間違いなく勇気の後押しであり、応援といえるものでもあった。


「……それに」


 それを、心の奥で熱く抱きしめて。

彼の態度に苦笑しながらも、そしてリリアも目に力を込めて続ける。


「……私ならいつでも、みんなの居場所がわかる、ってことね!」

「その通りだ! 有る限りの手段を提供しよう。皆を救ってみよ!」

「うん!」


 もはや普段通りとも言えるような、リリアの強い意志の眼差し。

それに応えるように、カタストも誇らしげに返した。

対するリリアの頷きを、受けて。


「……で、終われれば良かったのだが」

「へ?」


 しかしそこで。

その満ちていた覇気に突如、陰りが生まれる。

落ち着き、あるいは沈静化を表すように机の隣の椅子に着席するカタスト。

そして、この急変の所以を口にしていく。


「この発明品にはひとつ、大きな欠陥があるのだ」


 彼の語った、大きな欠陥。

しかしそれは、言葉よりも先に。


「……あれ? 消えちゃった?」


 突然、力を失ったかのように停止する管制機。

その動作こそが、カタストの真意を表していた。

それを追うように、口を開く。


「この通りでな。これ単体では、とにかく動力が保たんということだ。

 元より精霊を身に纏うお主だ。『レギン』についてはそれを使うだけでよかったが、

 独立した機器となるとそうはいかん。精霊を集め、調律する必要がある。

 ワシなりに精霊を誘引する簡易的なバッテリー……動力源を作りはしたが。

 半日ほどの補充時間に対しての稼働時間が、今の有様というわけだ」

「半日で……か。実用性には欠ける、ということか」


 リーンの言葉に、重く頷くカタスト。


「全く不本意なことよ。このワシが失敗作など……

 だが、その目処が立つことになった」

「ああ。 ……話が読めてきたぜ」


 しかし話の流れを転換させると共に、カタストは振り返る。

その先に、ジェネを見据えていた。その意図は、彼もまたすぐに理解した。


「うむ。精霊を集め、この機器を動かす動力として調律させる。

 その役目を、お主に託したい」


 そして。それはすぐに言葉として明示される。

彼の技術力では成し得なかったそれを、ジェネの力に任せるという事だった。

精霊術に長け、彼らとの親交も長く深い彼だからこそ、

任せられる役目であるのは言うまでもない。

そしてそれは、ある意味救いでもあった。


「ああ! 何でもやってやるぜ!」


 殆ど即答で、ジェネは威勢よく言葉を返す。

激戦を前に戦えない身であるのは、理解しているにしろ。

しかしそれは、間違いなく引け目でもあった。そこに託された使命に、断る理由はなかった。

迷うことのない言葉に、カタストも笑って頷いた。


「うむ。頼んだぞ。

 それから、ゼニアよ」

「はい」 

「龍人にとっては馴染みのないものだろう。扱い方についてはお主が教えよ」


 続いて、ゼニアにも指示をするカタスト。

だが、その返事は意外にもすんなりと返っては来なかった。


「……」

「不服か?」


 言葉を受けたゼニアは俯いて、何かを考えているようだった。

そんな彼に、カタストはその心中を確かめる。

もう少し考えて。そして彼は、口を開いた。


「ジェネを助けることに、文句はないけど。

 でも、戦える身だから。皆の力になりたいよ、博士」

「!」


 それは、彼もまたジェネと似た思いを抱いていたと言う事であった。

激戦になることが予想できているからこその、献身。

その言葉と視線を受けるカタスト。その気持ちを慮るように一度頷いて、しかし。


「その気概があることはよい。

 だが今回の敵は話を聞く限り、妙にきな臭い。

 研究所の奴らと関係がないとは限らん。お主は前に出るべきではない」


 カタストは、彼を説き伏せることを選んだ。

その理由が、そのまま説得のための言葉へと使われる。

元々脱走した研究所との関係を、どうやらカタストは睨んでいるようだった。


「でも……」

「ワシには遥か遠く及ばんとはいえ、奴らの技術力も侮れん。

 ここを察知され、狙われないとも限らん。

 まだ満足に戦えぬ龍人を守るため、どちらにせよ戦力は要る。

 ここで待つことは、力を腐らせるという訳では無いのだ」


 まだ不服な彼に続けて、カタストはこの役目の更に深い意味を説いていく。

あくまで可能性の話ではあるにせよ、

それはここに居る確かな理由になりうるものだ。


(……戦うことになる、って事もあるのか)


 それはあるいは、ジェネも含めて。

彼らへ気遣いとも言えるものであったかもしれない。

決して、消去法的に作られた役目ではないと。


「……はい」

「お主の蘇りし熱き思いは、ワシが引き継ごう。

 獅子奮迅の働きをしてくれるわ!!」


 それは、彼に納得を作るものではあったか。

ようやく縦に首を振った彼に、威勢よくカタストが笑う。


「私もだよ。ジェネのこと、よろしくね」

「うん」


 同じ思いを口にしつつ、リリアは自身よりもさらに小さいゼニアの頭を撫でる。

幼い風貌に不憫な境遇の中、蘇った感情。

それを今、真っ直ぐに自分と同じ方向に向けてくれていることが嬉しかった。


「しかし。お主はとにかく豪胆だな、少女よ。

 あれほどの戦力に、しかも一番槍を切って出るというのだ。

 多少の恐れがあってもよいだろうに」


 その最中、カタストの言葉は突如リリアへと向いた。

それは褒めているような口ぶりで、しかし彼女を試すかのように。


「危ないのは皆一緒じゃない。

 それでも、みんな一緒に戦ってくれるんだもの。

 それにね。ずっと前から感じてたことが、最近わかったの」

「ほう?」


 そしてリリアもまた、その返答に迷うことはなかった。

その話の続きを、カタストが促す。

 

「自分でもね、危ないことばっかりしてるなぁって思うんだけどさ。

 あんまり怖いって思ったことなかったんだ。

 別に怖いってことが分からないわけじゃないのに……

 でもどうしてそうなのか、自分でもわからなかったけど」


 リリアが語るのは、これまでの戦いの中での自分への疑問だった。

人より勇敢、あるいは無鉄砲なのは自覚していた。

あるいは育ての親である義理の祖父母、隣人だったネルやニーコの言葉からも。


「村を出てからはもっとやることも激しくなって、

 死んじゃうかもしれないような事だってやって、でも、怖くなんてなかった。

 だから、理由があると思ったの。私が、どうしてそうなのか」

「それを、どう結論づけた?」


 それでも。

まるでその先がわかっているかのように、さらに促すカタスト。

笑みと共に、リリアは宣言するように返した。


「誰かのためなら、怖くない!」


 返った答えは、満足に足るものであったか。

カタストはにやりと笑い返して、それを迎える。


「よき総括だ。まさしくその星の下に生まれし者よ」


 そして称えた。彼女のその在り方を。

不敵に笑うカタストの目は、やけに輝いているように見えた。

それに反応した者が、もう一人。


「わっ!? リーンさん?」

「……」


 リーンの華奢な右手が、リリアの頭をやや乱暴に撫でていた。

リリアの声にも普段通りの寡黙さで返して、その本心が伝わることはない。

ただ胸の中でのみ、それを言葉にした。


(だからこそ、危うい。俺がいるのは、その為だ)


――


「それでは、会議室へ戻るとしよう。

 ワシは少しこやつを調整してから向かう」

「うん!」


 そう言ってリリアたちを送り出して。

一人になった部屋の中、カタストはしばらくそのままで居た。


 だから、誰も。その豹変に気づくことはなかった。


「……フン」


 貼り付けていたような表情が解かれるとともに。

場の空気が、一変する。

先ほどまでの親しげな彼の雰囲気は、一瞬にして霧散してしまった。


「好好爺の真似も疲れるわい。

 まあ、たまにはこういう立場も悪くはないがな」


 彼はそのまま、部屋の傍らに無造作に置かれた機器を見据えて手を伸ばす。

いくつか押したキーに反応して展開された画面。

手先による嵐のようなタイピングに応じて、その中に映る滝のように流れていく文字を、

ずっと鋭くなった目で見つめていた。

それが止まった時、カタストは誰にというわけでもなく呟く。


創世光(ジェネシオン)の反応は無しか。

 だが最早、こんなものは当てにならん。

 何よりワシの勘が告げておる」


 そのまま自分だけに分かる言葉を繰り出していくカタスト。

真意はともかく、どうにも。意図した結果ではなかったようだ。

しかしその口元には、満足そうに笑みが浮かぶ。


「あの特異なる力。強く貴き精神。

 そしてそれに突き動かされ、渦巻いていくこの状況。

 まさに、あの娘を中心に世界が動いておる。やはり、あ奴こそが……

 クハハ、まさに僥倖という他ないわ!

 ()()ならず()()!! このような場に立ち会えるとは!!!」


 語る言葉に籠る力。それは、彼の真意……いや、野望が滲み出るかのようだった。

また小さく操作すると端末は光を失い、画面もまた消えていく。

そしてカタストは、何もない上方を見据えて笑った。


「のう。見ているのだろう?

 ()()()も、そうは思わぬか?」


 その言葉は、誰に向けたものであるかは分からない。

声をかけた先からの返事もない。

それは問いかけの形でありながら、まるで独り言のようで。


 だがその視線は。

確かに()()へ、向いていた。


――


 そして今。

カタストが失敗作と評した管制機は、動き続けている。

目を閉じて手をかざす、ジェネの力によって。


「ジェネ、大丈夫?」

「ああ、なんて事はねえ。集めるってのは基本中の基本だからな」


 彼の意志に沿って、精霊たちは渦巻きながら機器へと集まっていく。

ゼニアの視線の先、輝く立体地図には幾つもの赤い点が重なって浮かぶ。

乗り込んだ仲間たちの位置だ。その奮闘が、この赤点から伝わっていた。


『ジェネ、聞こえるか!!』


 その最中、管制機からまた違う色の声が響く。レオのものだ。

直ぐ様ジェネも声を返した。この役割を果たすために。


「レオ!」

『俺達も潜入に成功した! 状況はどうだ!?』

「作戦通り進んでる、順調だ! そっちも予定通り頼むぜ!」

『了解! 現在位置を……』


 士気の高さが伺い知れるような、威勢のいいレオの声。

しかしそれが突如、途切れる。

途切れ方から黙り込んだ、というわけではないのはわかった。


「……? どうした、おい、レオ?」

「一体何が?」


 即座に聞き直すジェネだったが、返答はない。

慣れない機械ではあるが、異変が起きたことだけはわかった。

それは隣のゼニアの態度からも明らかで、もう一度声をかけようとした、その時。


「……!?」

「何だっ、これ!?」


 異変は、一瞬にして視覚に届くものとして現れた。

管制機によって空中に映し出される立体地図、それを構成する精霊たち。

それが、まるで嵐が吹いたように乱れ、赤に染められていた。


――


 一方、海上にて。

小舟と幻影による陽動を行っていたカタストらの、

その状況も変わりつつあった。


「砲撃が落ち着いてきましたね……!

 甲板上にも十分な混乱が与えられたということでしょうか?」


 露骨に落ちた、船への攻撃の密度。

それは、状況の進行を意味するものでもあった。

通信を通して知っている潜入の成功。そして彼らの陽動という役目からすれば、

それは、吉兆として映るものであった。


「最初の作戦は成功、ってことかしら?」

「うむ。そろそろ我々も海上要塞への侵入を……」


 手元の画面へと視線を落としていたカタスト。

だがその言葉が、不自然に切り上げられる。

まるで突然途切れたかのような言い方に、不思議に思ってアカリが尋ねた。

 

「カタスト博士、何か……」

「構えよッッ!!」


 それは、結果から言えば。

ほんの僅かに残された、カタストの逡巡のための時間だった。

その内容を言葉にする時間も、残されていなかったから。


「妖精よッ!!! 後は頼んだぞッッ!!!

 発明品2333号、"超緊急脱出装置エマージェンシー・エアホッパー"ッッ!!!」


 叫び声と共に迷いもなく、彼は一直線に手元のボタンを叩き押す。

同時に、突如船に大きな揺れが巻き起こった。

説明もない中、混乱が船上に広がる。


「ふぇ、何っ!?」

「カタストはか……きゃああああああああああっ!!!?」


 いや、それも仕方なかった。そうするだけの時間も、残されていなかったから。

次の瞬間、船の床部分から大きな衝撃が走る。

そこに現れたのは、まるで冗談のようなただ単純に巨大なバネ。

それが、船に乗っていたネルを、アーミィを、レオナを、アカリを。遥か上空まで吹き飛ばした。


――ただ一人、先頭に乗っていたカタストの座席のみを除いて。


「カタスト博士、何をっ……っ!?」


 打ち上げられた先で、思わずカタストへの文句を口にしようとしたネル。

しかし、それもまた不意に言葉を失ってしまった。


「……っ……!!」


 その視線の先。

ベリオンから伸びた、赤い光の奔流が。

カタストの残る欺瞞の消えた小船を、その濁流の中に飲み込んでいた。


「そんなっ……!」

「カタスト博士ーっ!!」


 状況を理解して、口々に出る彼を案じる声。

だが打ち上げた慣性の乗った身体は、彼の元から離れていくばかりだ。

それこそが、彼の遺したこの行動の意図だと言うように。

そして遺した言葉は、もう一つ。


「……でりゃあああああああああ!!!」

「ニーコっ!!」


 空中に放られた彼女たちを掬うように、海上の空を奔る大きな烈風。

僅かに遅れて、その主たるニーコが姿を現した。

自由落下に移る前に彼女たちの身体を風で捉えて、顔を合わせる。


「来てやったぜ! じーさんの合図があったからな!

 ところで、じーさん居ねえけど……どうした?」

「……カタスト博士は……」


 彼女がカタストの言葉を合図にしていたのであれば、当然の疑問ではある。

だがそれは今、彼女たちに深い影を落としているそのものだ。


「……後は頼んだって、そういうことかよ……!」


 暗いネルの様子に、ニーコもその意味を理解し始めた、その時。


『聞こ…るか、若人た…よ………!!』

「!!」


 全員のバッジを通して、カタストの声が響いた。

機器のダメージが故か、あるいはジェネ達のような通信の障害か、

ノイズが多分に混じったそれは、やはり無事ではないことだけは分かった。


「カタスト博士! 大丈夫ですか!?」

『……ふむ、スピーカーが逝っておるな。

 聞こえておるかも定かではないか。だが恐らく、お主らは無事だろう』


 即座に彼を案じたネルだったが、

通信の先から聞こえる言葉はそれが届いていないことを示していた。

否応なく強くなる、心配と不安。

しかしその反面、カタストはより威勢よく言葉を続けた。


『では、聞こえるならば聞くがいい!! ワシは大したことはない、気にするな!

 それより振り返るな! 進め、邁進せよ! 望んだ未来を掴んでみせよ!!

 お主らならば、出来るはずだ!!!』


 それは、強い激励だった。

強大な敵に挑む彼らへ、これ以上無いほどに背中を押すための。


『超えてみよ! この災厄の烈光さえも!! ワーハッハッハッハッッ……』


 その最後は、高笑いさえして見せるカタスト。

そして途切れるように、通信は終わる。機器の限界か、ジェネ達のような通信の不通か。

もしくは、彼自身の限界か。

それも心配の一因になりえるものではあったが、それを先の彼自身の言葉が止めていた。

省みることなく、前に進めと。


「へっ。意外と元気じゃん、じーさん」


 最後まで高笑いで締めたカタストへ、ニーコは苦笑する。

強引な激励は、この場の皆に前へ向かわせる決断をさせていた。


「行きましょう、ベリオンに。

 たとえカタスト博士を救助するとしても、あの砲撃を止めないと!」

「ええ! いよいよ私の出番です!」

「うん!」

「よっし、行くぜっ!!」


 そしてニーコの気合と共に、彼らを掬っていた風が再び勢いを持ち始める。

形成されていく竜巻。今度はベリオンの甲板上へと、一直線に伸びていった。


――

「ぐうっ……!」

「が、あ……」

「おいバイソン、しっかりしろ!」


 ベリオンの甲板上の状況は、リリアを送り出した時から大きく様変わりしていた。

激しい戦闘を繰り広げていたはずのカゲツと、ゲイルチームのドルムとバイソン。

いずれも小さくない傷を負っている彼ら。

しかしそれは、互いの攻撃で負ったものではなかった。

今彼らは並んで、同じ一つの方向を見る。


 おそらくは、その攻撃に巻き込まれたか、あるいは意図的なものだったか。

倒れた無数の平船員たちの中心。

その先にいた戦士が、海の側から振り返った。


「これで、鬱陶しい小虫も死んだ。あとはお前たちだけだ」


 胸に刻まれた、ガストチームの標章。

冷徹な女性の声。だが、マリアンとはまた違う色の声。

左腕に残る、赤い光の残滓。先程まで海を向いていた理由が、そこにあった。

怒りとともに、ドルムは彼女を睨みつける。


「元からそのつもりだって事か、レナ……!」

「愚問だな。ここまで来ればもうゲイルチームも……いや、防衛隊も最早必要ない。

 そして、グローリアもな」


 その敵意に対して、対抗するように向けられる殺意。

再び、その腕に赤い光が宿っていく。言うまでもない、攻撃の前兆だ。


「させるかッ!」

「フンッ!」


 ただ見ているだけではない。素早く拳銃の引き金を引くドルム、

そして小刀を投擲したカゲツによよる牽制の一撃が放たれる。


「無駄だ」


 だが、それはレナへ届くことはなかった。

小さく零した言葉に呼応するように展開した赤い光が、

障壁となってそれらを防いでいた。


「どうなってる!? 何だ、あの装備……!?」


 同じ防衛隊のドルムでさえ知らない、未知の装備。

だが放たれた巨大な光線、そして今のこの防御壁。

恐るべきものであるのは、明らかだった。

更にそれだけでは終わらない。彼女の右腕から、また赤い光が伸びる。

それは線上に伸び、しなる光の鞭のような形を成した。そして。


「消えろ!」

「ぐあっ!!」

「があっ!!」


 目にも留まらぬ速度で横薙ぎに振るわれたそれが、カゲツとドルムの身体を打つ。

実体を持たぬ光でありながらその一撃は重く、

二人の身体はそのまま背後の壁と叩きつけられた。


「終わりだ」


 倒れた彼らを一瞥して、レナは再び左手を上げた。

防御壁も展開されたまま、止める術もなく左手の光が強まっていく。


 そこへ。

吹きすさぶ、一陣の風。


「……でりゃあああああああああッッ、"アサルト・バースト・ストライク"ッッ!!!」

「がっ!?」


 瞬きの間に。レナの脇腹へ、ニーコの蹴りが突き刺さっていた。

赤い光の障壁を挟んでいたものの、

それを超えて身体に衝撃を与えることには成功したようで、

レナは大きく吹き飛ばされていく。


「……まだ居たか。小賢しい」


 彼女が受け身を取って、自分が居た位置へと目を戻した時には。


「……お嬢様方!」


既にそこに、ニーコと共に移動していた全員が着地していた。

先頭に立つネルが、強い怒りと共にレナを睨みつける。


「ガストチームね。

 その光……貴方がカタスト博士を!」


 その視線に、レナの目も重なった。

ネルの怒りさえも軽蔑するような、冷徹な視線が返される。

だがそれにも、確かな怒りや苛つきが込められていた。対話すらも、嫌厭しているかのような。

立場を思えば、それは今までのリリア達の戦いに対するものだろう。


「これまでもそうだったが、うろちょろと鬱陶しい真似を……

 これ以上、隊長やお姉様の邪魔はさせな」

「"98番"ッ!!」

「ぐあっ!?」


 しかし。会話するつもりがないのは、それこそネルの方もだった。

彼女の言葉を遮る形で、ネルは完全な不意打ちで精霊術を唱える。


「貴様……ッ!」


 怒りを顕にするレナだったが、急激に増した重力によって動きを封じられる。

対するネルはもう一歩踏み出すと、今度は背後の仲間たちへと声を掛けた。


「みんな、先に行って!」

「え!?」


 しかしそれは、好機へ畳み掛ける合図ではなく。

自らを足止めとして、仲間をその先へと促すものだった。

明らかな強敵を前にしたこの選択に、直ぐ様アカリが異議を返す。


「しかし、それでは……!」

「彼女がガストチームなら、

 他のメンバーにも同等の装備があっても不思議じゃない。

 要塞内にはまだ他のメンバーも居るはず……リリアやレオ君たちの負担になるわ。

 だから一人相手に大勢、ここで足止めは喰えないわ。彼女の相手は、私が受ける」

「か、勝てるの……?」


 その理由を口にしつつ、ちらりと脇に目をふるネル。

カゲツ、そしてゲイルチームの二人の様子を見て、続けた。


「大丈夫よ。どうやら状況的に、孤立無縁というわけじゃないみたいだし。

 それに……」


 そしてその瞳に強く、思いを込めて。

 

「それに、有るのよ。いざという時の切り札。

 理由があって、独りじゃないと使えないけど」

「お前、それって……!」


 あえて説明を省いたその言葉に、思い当たる節があるのかニーコが反応する。

視線を傾けて、ネルは笑った。そのニーコの反応も、わかっていたかのようだった。


「ええ、あなたの考えてるとおり。

 後で面倒かけるかもしれないけど……よろしくね、ニーコ。

 ……"39番"!!」


 直後。返事を待つことなく彼女は精霊術を唱える。

前に突き出した槍の先が歪んで、ほんの少しだけ遅れて。

赤い光の鞭が、そこへ叩きつけられていた。


「ちっ! 演算型か……これだけの使い手は珍しいが。

 こんな児戯で、私を止められると思うな」


 その手元には、重力を振り切り既に立ち上がったレナの姿。

時間稼ぎにも、最早余裕は無かった。

得物である槍を構えると、ネルはその意識を完全にレナへ向ける。

そして背中越しにもう一度だけ叫んだ。


「行って、早く!!」

「……わーったよっ。しくじんなよ、ネル! リリアが悲しむからな!


 そのネルの選択を、結局ニーコが最初に受け入れた。

振り返って船内側を向くニーコだが、しかしアカリはそれも呼び止める。


「ニーコさんっ!?」

「ぼさっとすんな! さっさとジスト見つけて戻ってくんぞ!」


 しかしもう、ニーコは説得という形の言葉も出さなかった。

ただ、ネルの選択に沿うことを示すだけだ。

そしてその姿勢こそが、アカリやアーミィの気持ちも傾ける。


「……わかりました! ネルさん、ご武運を!!」

「どうか無事でね!」

「ご武運を、ネル様!」


 そしてアカリとアーミィ、レオナもその激励だけを残して。

駆け出していく足音を背後に聞いて、ネルは更に槍を強く握りしめる。

渾身の戦意と、決意を込めて。再び、レナと視線を合わせた。


「時間稼ぎのつもりか? それとも単騎で、我らがガストチームを倒せると?

 行かせた奴らも無駄足だったな。

 私の仲間やお姉様、隊長に勝てるはずはない。お前達は終わりだ」


 抗う彼らの姿勢を嘲笑うように、レナは言葉を吐き捨てていく。

身体に纏う、強いプレッシャーを放つ赤い光。

だが気圧されることなく、ネルは更に戦意を昂らせて返す。


「さあ。私も、あなた程の相手と戦ったことはないから。

 でも、確かなことがひとつあるわ」


 大好きな親友のように、あるいは大好きなその目を写すように。

その瞳に、強い意志を乗せて。

静かに、ただ強い思いを乗せて言い放った。


「リリアは、あなた達になんか負けない。

 終わるのは、あなた達の野望よ」

「ほざけっ!!」


――


「……あれ?」


 管制機たる、ジェネ達の機器に巻き起こった異変。

それは、同じ情報を共有する機器……

リリアの着けた腕輪にも、無論影響を与えることになった。

突如乱れた立体地図に、リリアも困惑する。


「どうした?」

「なんか、うまく映んなくなっちゃった。

 博士、聞こえる? ……あれ?」


 その解決法を求めて、次にバッジに声を吹き込むリリア。

だがそこからの返事も無かった。

呼びかけたカタストどころか、他の仲間からも。


「このバッジも、みんなと話せるはずなんだけど……

 なんか、聞こえなくなっちゃった。壊れちゃったのかな?」

「ここはグローリアの叡智が集った大要塞だ。

 妨害か、あるいはさっきのクソ女のあの光のせいか……

 だがもう、考えても仕方ないだろう」


 話を聞いていたアイリスが、いくつかその可能性を浮かべるものの、

深堀りまではしなかった。兎も角、状況を進めることを選んだようだ。

その方向で、彼女は話を進めていく。


「コソコソ探すことができないなら、もう遠回りはなしだ。

 頭を押さえるぞ。ジストの処刑も止められるし、囚われた場所も分かる。

 一石二鳥だ。どうせ司令部は艦橋のどこかだ、登っていけば見つけられる」


 して、代わりに提案されたその作戦は。

正直なところ、あまりに直球であると言っていいもので。


「……」

「どうした? 今更怖気付いたなんて、言うつもりは無いだろうな?」


 思わず呆気にとられたリリアに、重ねて声をかけるアイリス。

実際のところ、アイリスの言葉は正しくはなかった。

それは作戦の方向性というよりは、

彼女からそんな作戦が出たことに対してのものだったからだ。


「いや。クールそうって思ってたけど、

 意外とアイリスって真っ直ぐ行くタイプなんだね」

「悪いか?」


 それを素直に答えていくリリア。

アイリスもややバツの悪そうに応えるが、

リリア自身には、そんな気持ちはもちろん無かった。


「ううん。だって……私も同じように思ってたもの!」


 それは、言うまでもなく。

リリアもまた、単純明快な答えを好む性格であるからだった。


「なら、話は早いな」


 リリアの態度に、ほんの少しだけ口の端を綻ばせて。

アイリスは立ち上がる。行動再開の合図と言えるものだった。

追ってリリアも立ち上がる。


「いちいち道を探していられない。一直線に進めればいいんだがな」

「私が壊していけないかな?」

「分厚い壁だらけだ、力押しは分が悪いぞ。

 ボクの力が万全なら……忌々しい。っと、そうだ」


 今後のことを話しつつ。

その最中に、何かを思い出したようにまたアイリスが振り向いた。


「そう言えば……妙な気配がするな、お前から」

「え? 精霊のことかな」

「いや、違う。

 精霊じゃない……ボクの術によく似た、別のものだ。

 何か持ってるのか?」

「うーん、特別なものは……あ、これかな?」


 思い当たって、リリアは懐の道具入れに手を伸ばす。

そしてそれを、アイリスの眼の前に出した。


「これ、ジストさんのナイフ。知ってる?

 何でか分からないけど、一回も刃毀れしてないんだって。

 もしかしたら特別な術が掛かってるのかも?」


 ジストも由来と理由を知らぬまま使っていた、あの刃毀れのしないナイフ。

彼が疑わなかったことからリリアも訝しむことはなかったが、

確かに妙と言えば妙なものではある。


「……!」


 して、それは正解だったのか。

アイリスは、目を見開いてそれを見つめていた。

言葉を失うほどに、心を揺さぶられているような様子で。

やがて、ゆっくりとその口を開いて。


「そうか……お前が持っていたか」


 その唇は、僅かにだが震えているようにも見えた。

真意も感情も、とても伺い知れない。

しかしそれを悟る間もなく、今度はアイリスから話が進められる。


「今のボクには、この剣は少し重い。貸してくれないか」

「うん!」


 その申し出を、リリアは快諾する。

謎の多い彼女であるが、その中で唯一確信を持って信頼できるのがジストへの思いだ。

その故は分からずとも、この短剣を託すことに躊躇いは生まれなかった。


「ありがとう」


 リリアの承諾を受けて、彼の名を小さく口にして。

彼女は先程まで使っていた翡翠色の大剣を一度素振りする。

するとどういう仕組みか、翡翠色の刃だけが消えた。


「……ジスト、少し借りるよ」


 そのまま持ち手だけになった剣を右腕の義手に突き刺すように仕舞うと、

彼女は、リリアから差し出された短剣を手に取る。

一度、抱きしめるように小さな胸に当てて。それから、入れ具から身を引き抜いた。


「……知ってるの? このナイフのこと」


 思わず、リリアは尋ねていた。

その態度も口ぶりも、おおよそこのナイフと関わりがないとは思えなかったからだ。

それは、深い話へと繋がるものであったか。

アイリスの表情に、何か迷うような色が浮かぶ。

やがて。小さく暗い声で、彼女は応える。


「……これから話すことは、ジストには黙っていてくれ」


 故は分からない。

だがまるで、すごく後ろめたい悪事を話すかのように。

伏せた声で、彼女は言った。


「よく知ってる。これは、ボクが送ったものだから」

「え!?」


 それは、ジストの核心にも関わるような話だった。

だが驚きに使える間もなく、彼女はそのまま刃に力を込めていく。

ただの膂力の話ではない。魔力とも呼べるような、自分の特異なる力をだ。


「これはボクの力を宿したものだ……これなら、今のボクでも扱える!

 道はボクが作ってやる、混じり空(ヘスペリデス)

 "エリアルセイバー"ッッ!!!」


 そして気合とともに、アイリスはナイフを横薙ぎに振るった。

それは、何か物体を切った一閃ではない。


「……え!? ど、どうなってるの!?」


 またも驚くことになるリリア。

それが切ったのは、その空間、そのものだった。

傷を入れられた空間が、そこを中心にこじ開けられていく。

そこには、明らかにここではない部屋の風景が写っていた。


「さっき見せてもらった地図を頼りに、空間を繋げた。

 この先は艦橋部の一階層だ。

 ここから上に進めば、逃がすことなく奴らに会える」


 向こうからは見えていないのだろうか。

襲撃を受けている状態ではあるが、

警備の役割と思わしき男たちは気が抜けているように見えた。

まさに、敵の喉元へと一気に飛び込むための道だ。

だがそれは逆に言えば、それだけ危険な空間であるとも言えた。


「気合を入れろ、混じり空(ヘスペリデス)

 ここからはもう、力押しだ」

「……うん!!」


 そして一度、頷き合って。

二人は同時に、その中へと飛び込んでいく。

繋がる先は階段の前に立つ男たちの直上だ。

それは、完全に不意を打った形になった。


「でやあっ!!」

「ギャアっ!?」

「はっ!」

「ぎょえッッ!!」


 リリアの精霊を纏った蹴り下ろしと、

アイリスの空間ごと動かした叩き落としが、ほぼ同時に炸裂する。

突如、上方から降り立った少女たちによって

男たちは床に叩きつけられ、一瞬で制圧されてしまった。

実力や装いからも、彼らが防衛隊のメンバーでないことは確かだ。

つまりは。強襲に成功したとはいえ、ここからが本番であるとも言えた。


「よし、行こっ!」

「ああ」

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