雪
淡い月明りが雪を照らして、私たちだけの道みたいだった。
ゆっこは慣れた様子で雪の上を歩く。
赤い手袋がかわいい。
「こんなに積もってるの初めて見た。雪って積もるんだね」
「なにもこんな時にコンビニ行くことないじゃん」
時々転びそうになる私を横目で見ながら文句を言う。
「雪道を歩くのなんて初めてなんだもん」
「来年には嫌になるよ」
大学というのは不思議な場所で、
色んな場所から人が集まる。
当たり前だと思っていたことが地元特有だったことを知ったり、
他の人が当たり前と思ってることを自分は知らないことを知るのだ。
「雪が積もったら外に出ないの?」
「そりゃ必要だったら出るけどさ。からあげ君を買いには行かないよ」
「でもついてきてくれたから、初めての雪道を歩くのをゆっことできて私はうれしいよ」
重たい雪が降り続けて、コートの上にのる。
雪ってとけずにコートの上に残るものなんだなって初めて知る。
ゆっこは何気なく歩きながら、私が転ばないかハラハラしている。
手袋がかわいくて、マフラーがかわいくて、ニット帽がかわいい。
大学に来てよかったという気持ちが頭にあふれる。
「一緒にからあげ君を買いにきてくれてありがとね。私、ゆっことからあげ君を買いにきたこと、一生忘れないと思う」
「なによそれ」
ゆっこが顔をあげる。雲の切れ目に大きい月があった。
「人間ってさ、このために生きてると思うんだ」
「からあげ君を買いにいくため?」
「そう。ゆっことからあげ君を買いにいくために。みんな、誰かと初めての雪道を歩いて、コンビニにからあげ君を買いにいくために生きてるんだよ」
「そうかもね」
無情にコンビニは近づいてきて、遠目に明かりが見え始める。
みんなが誰かとからあげ君を買いに行けるなら、それは幸せな世界なんだろうな。
こんな瞬間が人生であと何回あるか分からないけど、
その全部にゆっこが隣に居たらいいな。そんなことを思った。