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そういう仕組み

8/16 22時 誤字報告、たくさんありがとうございます。

大変助かります(*^^*)

 私が祈ると女神様の像が光輝き、その場にいる人々の病が全て癒えます。


「ううっ、ありがとうございます。女神様」

「これでまた、働くことが出来ます」

「子供を助けてくださり、感謝します」


教会では、その奇跡に人々が涙を流し、多くの謝礼がもたらされていました。


それは女神の癒しなので、祈った私には関係ないと神父に言われ、感謝されることもなく育ちました。




「ほら、今日のご飯だ。お前はもう地下に戻れ」

「はぁはぁ、ありがとうございます」


固くなった黒パンを投げつけられて、最近疲れやすくなった体を引き摺りながら、私は地下の部屋へ戻ります。私が外に出られるのは、女神様の像を光らせる仕事がある時だけです。


物心ついた時から地下が自分の場所で、足には大きな枷と重りが付けられ、自由に外に出られません。


柵がないので牢屋ではないですが、痩せっぽちで重りがある状態では、部屋の中を僅かに動くだけで精一杯です。(ほとん)どの時間を、教会で見た嬉しそうな人々の様子を思い出して眠るのでした。この時だけ私は、笑顔でいられたのです。



そこは教会の物置の下にある、野菜を保存する(むろ)のような場所でした。光さえ差し込みません。

あるのは石造りの寝台と厠だけで、壁もまた石で囲まれていました。


元々の一枚岩をくり抜いたのでしょう。

その上を申し訳程度の小屋を建て、(むろ)を隠した状態のようです。



体は垢やフケと埃で汚れ、衣類もズタ袋の穴を開けたものを被せるように着せられました。


こんな生活なのに病気一つせず、淡々と日々が続いて行きます。ただ前よりも、疲れやすくなってきました。

動くことは少ないので、寝ていれば解らないのですが、女神様の像を光らせて民の癒しを願うと、息切れするようになってきたのです。肌の張りも、なくなったように感じました。



ある日教会の神父家族が、数日の旅行に行くことになりました。表向きは視察の旅ですが。



そこには1日1つずつ食べるようにと、固いパンが7つ置かれました。


私はお礼をして受けとりました。

私の存在はその神父しか知らないので、食料を纏めて渡したのでしょう。





神父がその地を離れ、数日間大雨が続きました。

地下を隠すだけの物置は雨盛りがひどく、部屋を少しづつ浸水させていきます。

戻った神父が地下で見た私は、浸水した雨水で溺死状態でした。


『ああ、やっと呪縛が解けた。体が軽くなったよ』



声にならない嬉しそうな感情が、神父の頭に響きます。

「何だ、今のは?」


混乱する神父に、さらに別の声が禍々しく響きました。

「次はお前の番だね」

「だ、誰だ! 何をする気だ! 離せ、ウワーッ」



その瞬間から、神父は家族の前から姿を消しました。


「父上、何処ですか?」

「貴方、返事をしてください」


行方を探す家族の前に、二度と神父は現れません。

同時のように、女神様の像が奇跡を起こすことはなくなり、教会は寂れ人が来なくなりました。


元々神官等ではない神父の妻と子は、ここを去ることになりました。

今までに神父が溜め込んだ金貨は、家族にも隠していたので手がつけられず、今も銀行に眠っています。

妻子は懸命に働き地に足をつけ、今も神父の帰りを待っているのです。




◇◇◇

「出せー、この野郎! 誰だか知らないが、容赦しないぞ!」


神父は暗闇に放り出され、怒りから喚いていました。

もう何日経ったか解らないほど、不確かです。


「なあ、もう、出せよ。出して下さい。家族も待っているんだ。頼むからさあ!」


その問いに、あのときの声は応えます。


「なんだ、お前。自分がした約束を覚えていないのか?

もうお前が戻れる場所なんてないぞ!」


薄明かりで目が慣れ、自分の格好が見えてきました。

奇しくも彼が(むろ)で目にしてきた子供のように小さく、出で立ちも同じような感じなのでした。


ズタ袋の服に足枷と重りが付けられていて、更なる混乱を生みます。


「ど、どうして、この姿に? 何故だ?」

泣きそうに顔を歪め、見えない声の主に語りかけました。


すると見えない誰かは言います。

「お前は賭けに負けたんだよ。あれだけ欲望に負けないと俺に誓いながら、私欲に堕ちた。だからこれは罰だよ。お前が粗雑に扱った、あの子供姿の者と同じ暮らしをする罰さ」


「あ、あぁ、なんで、今頃になって?」

「今頃? 何馬鹿なことを? 俺はずっと楽しかったよ。お前を見るのがね。フフッ」



そう、(神父)は遠い昔、神に願ったのを思い出していました。


「どうか私達を助けてください、神様」


医師もいないこの場所で流行り病が続き、多くの人が倒れて死んでいきました。神父である私は、祈るしか道が残されていなかったのです。


そしてその時、見えない誰かはこう言ったのです。

「お前の望みは聞いた。けれど条件が一つある。

お前は今後、いくら豊かになろうともその心を忘れず、民に尽くしていけるか?」


愚問でした。

そのままならば、明日にも自分は死ぬでしょうから。

だから即座に「民の為ならば、この身を尽くします」と誓ったのです。



その後空から、目映い光が土地全体に降り注ぎ病が治癒していきました。そして健康体に戻った後は、みんなで力を合わせて田畑に実った麦や野菜を収穫して、生活を立て直したのです。


その時に見えない誰かが言ったのです。

彼が連れてきた子供が、この奇跡を起こしたのだと。そして彼と契約したのは(神父)になるから、契約者以外の人にはその姿は見えないと言うのです。 

「その子供と協力して、この地を救え。そしてもう十分なら俺を呼べ。または約束を違えた時は…………。

まあ、愚問か? お前は約束を守るだろう?


「勿論です。早速助けて下さり、ありがとうございます」

真摯に礼をすると、その姿は煙のように消えてしまいました。



神父は子供と共に、病を癒し続けました。

その噂は広がり、近隣の村や町にも知れ渡っていきます。

お布施や尊敬も高まり、生活は豊かになっていきました。


数年後。

助けた人の一人と結婚し、子も生まれました。

神父にも結婚は許されていたので、結婚自体は罪ではないのですが、他の女性とも姦淫に耽っていました。贅沢し、横領にまで手を染めて。

地下の子供が逃げないように、粗末な服を着せ、更に足枷と重りまでつけました。


お金だとて、妻子に渡す分は最低の金額だけでした。

それでも2人は感謝を忘れず、快活に生きていました。

(神父)はわざわざ変装し、隣町まで遊びに出掛けていたのに。

それに気づき諭す妻を不満に思いだした(神父)は、勿論通帳などを渡すことはなかったのでした。



預けられた子供は体調を崩すこともなく、成長することもありませんでした。ずっと初めて会った時のままです。

そして自分のことも話しません。

以前に聞いた時、覚えていないと言っていたような気がします。次第に普段の口数も減っていき、遂には返事しかしなくなりました。

そして自分以外に、その子供が見えないのも本当でした。


ただ、初めて会った時のような、輝くような笑顔はなくなり、身綺麗だった姿はなりを潜めていきます。今では浮浪児のような有り様に見えました。

子供は文句一つ言わず、言われたことを熟していきます。


(神父)は忘れていました。

子供は大きな力で、人々を癒すほどの力があるのです。

何故、今まで見くびってしまったのだろうか? と、急に不安を抱いたのでした。



「ああ、あれは罰を科した天使だ。だからお前に逆らえないようにしていたんだ。力を使う度に窶れていたよね。

でもね、お前が真に私欲のない聖人だったなら、あれも大天使になれたんだけどね。まあ、人間に絡んでうまくいくなんて稀だしね。結局お前も、自己の為に余計な力を誇示するのだもの。今回の顛末を聞いて、馬鹿なことをする者(天使)も少なくなるだろうね」



淡々と話す見えない誰かは、(神父)に何かが入っている袋を渡してきました。

「お前は約束を破ったから、その報いを受けて貰うよ。

袋には、お前が天使に渡した物が入っている。

固くなったパンとズタ袋の服に、足枷と重りか。

馬鹿だね。精神生命体に食べ物なんて。

それもこんな不味そうなもんを。

それでも天使に感謝して、それ相応の物をあげていればお前にあげたのに。

足枷と重りなんて、ずいぶんと酷いね。

あの子は俺との約束で逃げられないし、素振りもなかっただろ?

この場合は契約者の気持ちが入るから、あの子も重たさを感じただろうね。ここに来る前の、記憶を奪っておいて良かった。屈辱で消滅したかもしれないからね。

お前は拷問官にむいているかもね。

まあ暫くは、その逆になるけど」



そう言った途端、神父はある国の鉱山に落とされていました。


「ちんたらしてるんじゃないぞ、お前達。働かない奴は飯抜きだ!」

「「「はいっ!!!」」」


神父は子供にされ、記憶があるまま鉱山奴隷となっていたのです。

ここに彼の身内はいないはずなのに、親が奴隷でその子供も奴隷に、ということになっていたのでした。


子供ではノルマが熟せず、満足に食事も貰えません。親も子に構えるほど、甘い状況ではありませんでした。仕方ないので、あの袋を漁ります。すると固くなったパンを見つけました。何故か腐ることもなく、神父は空腹を凌ぐことが出来たのです。ですが、そのパンさえ、いつまでもつことか。

そして鞭打たれ、傷の手当てをしてくれる人も頼れる者もいないこの場所で、いつまで生き延びられるのでしょうか?



人々を癒したのは自らの力ではないのに、自分が神に祈ったから民を救えるのだと、慢心していました。教会に寄せられる全ての感謝も称賛もお布施も、自分の祈りがあったからだと付け上がっていたのです。

力が必要でなくなった時は、そう伝えろと言われていたのに。

人々に失望されることが怖くて、緊急性がない状態でも神からの子供を手放せなかったのです。




契約を守り、真面目に生きれば良かったのでしょうか?

途中で天使を返せば良かったのでしょうか?

そもそも何とかして欲しいと、超越者に祈ったのが駄目だったのでしょうか?

天使への待遇を正当にすれば良かったのでしょうか?


それはもう遅いけど、傲慢にさえならなければ、頑張るあの子(天使)に良い待遇くらいは与えられたことでしょう。


「何も無い時は清廉な男だったのに、堕ちるのが早過ぎる。だからこそ面白いのだけどね。・・・誰もがそうだ。一度味わった快楽(称賛や期待など)は、なかなか忘れられないものだからね」



見えない誰かは、自分を呼ぶ声に時々応じます。

声をかけてくる彼らの生涯を、暇潰しで楽しむ為に満面の笑みを向けながら。




8/17 11時 日間ヒューマンドラマ(短編)42位、19時、18位でした。ありがとうございます(*^^*)


8/18 10時 日間ヒューマンドラマ(短編) 15位でした。

18時13位でした。ありがとうございます(*^^*)


8/19  8時 日間ヒューマンドラマ(短編)、5位。

20時、4位でした。暗いテーマなのに読んで下さり、ありがとうございます(*^^*)


8/21 1時 日間ヒューマンドラマ(短編)3位、11時、2位でした。

ありがとうございます( ´∀`)♪♪♪ やったー♪

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