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ウォリックシャー大学の講師資格

4話になります。


 門を通り抜けた先には大通りが伸びていて大通りの左右には商店が軒を連ねていた。大通りを進んだ先の小高い丘のような地形の場所には大きな洋館が建てられていた。


「時間のせいもあるのか……人が少ないな」


 商店は開いているようだったが店先に人の姿はほとんど見えず、大通りを歩く人影は少なかった。リヒトは門の脇にあった馬小屋に乗ってきた馬を預けると両手と背中に荷物を持ち、宿屋へ向かうために大通りを歩き始める。リヒトは常に視界の端にはメルの姿を捉えておき、視界外へ行きそうになったら足を止めてメルを近くまで呼び戻した。


「さっきは疲れたとか言ってなかったか?」


「言った? 言ってないんじゃない? 私、覚えてないし」


「……まあいい。ともかくまずは宿だ」


 リヒトは荷物を肩に担ぎなおす。


「もうちょっと街中を探検したいけど……荷物が重そうだし仕方ないね」


「重そうだと思うなら手荷物の一つくらい持つか?」


「子供なので重い物は持てないのよー」


 陽気なメルの声が響いたのか、余所者が珍しいのか、リヒトは宿までの道のりで商店の奥や閉められた窓の隙間などから多数の視線を街中から感じた。

 街全体の雰囲気も天気は晴れだというのにどこか暗さを感じていた。

 目的地である宿屋に着いたリヒトは受付を終えると大学が予約していた部屋に入る。

 宿屋のニ階に用意された部屋にはベットが二つとクローゼット、丸テーブルと椅子が備え付けられていた。

 観光客が少ないであろう都市にしては揃えられている内装にリヒトは大学側で調査する講師がなるべく快適に活動出来るようにと準備をさせたのだろうと察した。

 メルがリヒトの足元を駆け抜けて部屋に駆け込んだ直後にベットの上に飛び込んだ。


「ふかふかベットだぁ」


「気に入ったようでなにより」


「すぐに街に出るの?」


「そうしたいが先行して街に入っている連絡員が来るはずだからしばらく待ちだ。ダヴィッソンへの到着時刻は告げているし、向こうから接触があるはず」


「その人はどんな人?」


「この地方にあるウォリックシャー大学分校の助手と聞いてる。土地勘があるからと選出されたんだろ」


「美味しいご飯が食べれるお店を教えてくれるかな」


「助手の趣味がグルメなら教えてくれるんじゃないか?」


 リヒトは窓を少し開けて外の様子を探る。見える範囲では怪しい様子はなく、街中で感じていた視線も無くなっていた。

 旅の疲れを癒やしながら部屋で連絡員を待っていたリヒトだったが、一時間経っても連絡員は部屋を訪ねてこなかった。メルが我慢の限界に達してベットから飛び降りてリヒトに詰め寄ってくる。


「ねぇ、まだ部屋に居なきゃ駄目!? このままだと暗くなっちゃうよ!」


「それは俺も困るんだよな」


 暗くなると今以上に街中の人通りが少なくなり、聞き込みが出来なくなる。それは調査進捗に大きな遅延を発生させる事態だった。


「これ以上は待てないか……何かあったのかもしれない。聞き込みと同時に調査員を探そう」


「そうと決まったらすぐに行こう!」


 メルはベットから飛び出すとリヒトの静止を聞かずに部屋を飛び出していった。


「犬猫でも、もう少し落ち着いてるはずだが……」


 リヒトはため息を付きつつ、手荷物を持ってメルの後を追って部屋を出た。

 宿屋を出たところで待っていたメルと合流したリヒトは一度ダヴィッソンの都市の入り口まで戻り、周辺に居た人達に声をかけるが皆、リヒトを無視して足早に歩き去って行ってしまう。


「余所者がいきなり声をかけるのはやはり難しいか。大学のみんなはどうやって調査してるんだ?」


「魔術を使ってるんじゃない? 言うことを聞かせるやつ」


 魔術、または魔法は一般的な知識として何も無い空間から水や炎を出現させるなど自然科学では説明出来ない現象を起こせる術であり、それは物語の本の中にのみ存在して実際には存在しないモノとされている。

 しかし、存在しないと思われている魔術をウォリックシャー大学の講師は使用できる。

 使用できるからこそ、ウォリックシャー大学の講師の役職に付くことが出来ている。

 魔術が使用出来ることがウォリックシャー大学の講師としての最低限の資格となっていた。


「そんな気軽に使えるモノじゃない……というかなんでメルはその術を知っている?」


「教授が教えてくれたから」


「教授は……メルの教育上良くないことも教えていそうだな」


 リヒトの脳裏に教授の薄気味悪い笑顔が思い浮かんだ。


「やめた。教授に思考を割く時間が惜しい。魔術か……このままだと時間を浪費するだけだな」


「魔術……使うの?」


「人に命令する系の魔術はリスクがあるし、俺はまだ使えない。だから代わりに道具を使って少しだけ会話をしやすくする」


 リヒトは手荷物の中からフチの厚い眼鏡を取り出した。


「眼鏡? リヒト君、目、悪かったっけ」


「両目共に健康だ。少し遠くの看板の文字くらいは余裕で見える」


「じゃあ、なんで?」


「この眼鏡は魅了の魔術が込められている魔道具なんだよ」


「惚れ眼鏡?」


「どこでそんな単語を……いや、ともかくそこまで強力じゃない。効力は親しみを感じさせる程度。家族や親しい友人くらいだな」


「悪用しちゃ駄目だよ、リヒト君」


「しないって」


 リヒトは魔道具である眼鏡をかけて再び近くを通りかかった男性に声をかけた。男性は声をかけられた一瞬、嫌な顔をしたがリヒトの顔を見ると表情を柔らかくした。


「最近、この街で不思議なモノを見たり変な噂を聞いたりしたことはありませんか」


「不思議で……変なのかぁ」


 男性は少し考え込んだ後、何かを思い出したのかポンっと手を叩いた。


「二年ほど前に流行り病があったのは知っているだろ」


「ええ、大勢亡くなられたと」


「そうなんだ。で、これはまだその時のショックから立ち直れていない住人が見てしまった幻覚だとは俺は思うんだが……居たって言うんだ」


「居た? 何がです?」


「……死んだ人間だよ。流行り病で死んだ人間が道を歩いていたって」


「それは……不思議なことですね。歩いていた死んだ人間は一人だったのですか?」


「いや、人数までは聞いたことないな。驚いている内に姿が見えなくなったって聞いてる。路地の暗い所で見かけたとかで……」


「場所は……どちらで見かけたとか分かりますか」


「場所まではちょっと聞いてないな。悪いね」


「いえ、貴重なお話でした。後、もう一つ聞きたいのですが、私のように聞き込みをしている人が居たと思うのですが、知りませんか?」


「聞き込みをしてた人? 分からないな。そういう人がいれば何かと噂にはなると思うんだが」


「……そうですか。この度はお時間を頂きありがとうございました」


 リヒトは深く頭を下げて男性と別れる。男性が去っていくとすぐにメルが近づいてきた。


「いいお話は聞けた?」


「聞けたよ……面倒くさそうな話が」

 

 リヒトはかけていた眼鏡を外すと目に疲れを感じて目頭を抑えた。

魔術、魔法、言い方はそれぞれですがこの世界は同じものを指しています。

魔法魔術については精神力とか体力を削って使用しております。


後、子供って瞬間瞬間に体力回復して走り回るイメージ。

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