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短編

彼女たちは何もしていなかった

作者: 猫宮蒼



 メルルーナ・クラヴィエは男爵令嬢である。

 父は商人として成功した平民で、母は没落寸前の男爵家の令嬢だった。

 貴族と関わるための足掛かりとして金で爵位を得るべく父はそんな母に目をつけて、母も没落し平民となって生活するよりは裕福な暮らしができると父との結婚を選択した。


 そんな、お互いに打算たっぷりな両親から生まれたのがメルルーナだ。


 両親の仲は思っている程ギスギスはしていない。

 ただ、父はまだ野心があるようでここから更に商会を大きくし、いずれは高位貴族や王家とも繋がりを持ちたいようだった。

 夢はでっかく、と言えば聞こえはいいが過ぎた野望は身を滅ぼす気がしないでもない。


 とはいえ、メルルーナはそんな父に何も言わなかった。

 言えるはずがない。


 だって彼のおかげで贅沢な暮らしができているのだから。

 今から父が母とメルルーナを見捨てたりしようものなら、まず間違いなく一気に路頭に迷う。

 家を立て直すことができたのは父の商才あっての事で、父がいなくなればあっという間に貧乏生活まっしぐら。


 母がそれを良しとするはずもないし、メルルーナだって同じ気持ちだった。


 何せメルルーナは前世の記憶を持っていた。

 前世は平和な世界で何不自由なく暮らしていたのだ。

 といってもお金持ちだったわけではない。ただ庶民の生活水準がそれなりに高かっただけの事。

 とはいえ、そんな記憶がある以上、今更貧乏生活など耐えられるはずもない。


 それにメルルーナは知っていた。

 この世界が乙女ゲーム『リトルローズの目覚め』であることを。

 そしてメルルーナはそのヒロインである。


 乙女ゲームの内容はあまりにもコテコテすぎて今更感があったけれど、リメイクされたわけでもない昔のゲームをするよりはシステム的にそこまで不便ではないし、なんとなくでやるにはまぁ丁度いい感じの内容だったというのもある。

 大分使い古された内容すぎて安心して遊べるくらいだったのだ。先が読めるという点で。


 勿論時として斬新な内容の物を求める事だってあったけれど、自分がこうして転生したとなればあまりにも突拍子もないシナリオが待ち構えている世界だとかは遠慮したい。

 その点この世界は、メルルーナが貴族たちの通う学園で三年を過ごし、そうしてその間に出会った素敵な殿方と恋をして結ばれ幸せになる、という捻りも何もない圧倒的安心感のあるものだったので。


 下手なことをしなければメルルーナの今後の人生はそこそこ安泰であると言えた。


 上手くやれば、高位貴族と結ばれて縁付いて、そうしたら父もまぁ、一応満足はするだろう。

 ゲームでのバッドエンドはいくつかあった。

 それは卒業までの間に誰とも仲良くなれず、という状況であったりだとか。

 はたまた途中のミニゲームをミスって成績が悪すぎて、という事で退学であったりだとか。

 ミニゲームの場合は何度か失敗しても補習扱いでリトライできるが、あまりにも失敗しすぎるとこのバッドエンドなのである。


 ちなみにミニゲームが難しすぎて……という事はない。

 なのでむしろ退学エンドは見ようと思わないと見れるものではなかった。

 意図的に失敗するというよりは、とりあえず放置して失敗させるという感じだったけれども。


 そうして誰とも結ばれなかった場合、父はお前の結婚相手を見つけてきたぞ! と身分がそれなりだけれども父より年上の貴族の老人の後妻にあてがったりするのだ。

 悪意たっぷりに思えるが父としては身分が上の人との繋がりも欲しいし、娘は同年代の令息を誰も射止められなかったしで、そこら辺考慮した上でこれなのでどうしようもない。


 家が男爵家なので、とりあえず攻略対象の誰とくっついても自分より身分が上だとか同じ男爵家の令息であっても人脈が幅広いとかなので、メルルーナが選んだ男性について父は何も言わない。それなりに利があると判断されていれば問題はないようだ。



 なので、メルルーナもまたゲームと同じように学園で結婚相手を見つけるべく奮闘するつもりだったのだ。


 乙女ゲーム、とはいえ逆ハーレムルートなんてものはない。

 だが、それでも大勢と仲良くしておいて損はないだろうと思ったからこそ。

 メルルーナはゲームの中のヒロインと同じように知り合った皆と仲良くしていくべきかしら……なんて考えてしまったのだ。


 それが、自らを破滅に導くとは知らずに。



 ゲームであるならば、システム上そういったものがない限り、複数の男性と同時進行で仲良くしようとも修羅場はない。勿論そういったイベントだとかシステムがあれば修羅場を回避するために多少は考えて行動しなければならないが、そういうのがないのであれば、誰と仲良くしたとしても肝を冷やすようなイベントは存在しないのである。


 そしてメルルーナが主役でもあるこのゲームでは、そういった修羅場イベントだとか俺とこいつとどっちを選ぶんだよ、なんていう三角関係のようなものも発生しない。


 そう、ゲームなら。


 だがしかしメルルーナはうっかりしていた。

 自分がヒロインに転生していて、この世界の主役は私、という認識を持ってしまったが故に。

 なのでそんなときめき的な意味でドキドキどころか、修羅場と生命の危機的な意味でドキドキするような展開はないのだと。


 すっかり思い込んでしまっていたのである。

 どころかその可能性すら思い浮かぶことがなかった。



 最初の異変は、父の経営する商会の業績が傾いてきたことだった。

 あからさまではないが、どこかから圧力がかかっているようだ、と父は一体どこのどいつだと犯人捜しをしていたけれど、あまりにも巧妙な手口のせいで誰が商会を傾かせようとしているのかは中々わからない。


 どうにか尻尾を掴んでやろうにも、途中まではなんとなく手掛かりがあるのだがある程度まで調べがついたあたりで、ぱったりと消えるのである。

 一時的になくなった嫌がらせ。

 しかし時間をおいて再び行われる。

 同一人物が犯人かとも思えたが、しかし手口が幅広すぎてもしや複数の人物が関わっている……!? という結論に至るのは時間の問題だった。


 適度に証拠があるけれど、しかし前の時とは明らかに別の人物が犯行に及んでいる、みたいな感じで中々犯人の目星もつかない。

 どこかの貴族の家の不興を買っただろうか、と父は頭を悩ませていたが、生憎そういった覚えはないようだった。

 あっという間に潰れる寸前、とまではいかないが、じわじわと商会の業績は下がっていっているために、日々の暮らしにも陰りが見えてきた。


 学園で誰か、お前不興を買ったりしていないだろうな? なんて父から疑いの眼差しを向けられたけれど、それはしていないと言える。

 知り合った人たちとは基本的に仲良くしているし、発言だって気を付けている。少なくとも失礼だなこいつ、と思われるような事を言った覚えは一度たりとてない。


 父や商会の人間の誰かが原因でどこぞのお偉い貴族に目をつけられたのか、はたまた学園でメルルーナの何かが失礼にあたって目をつけられたのか……それすら断定できない状態で、父はほとほと困り果てていた。


 今はまだいい。

 だがこのままの状態が続けば商会はいずれ潰れてしまうかもしれない。

 それはマズイとメルルーナもわかっている。


 当初思っていたように、同じ男爵家や少し上の子爵家の相手でも父にとっては利に繋がるし、なんて考えは捨てたほうがいいのかもしれない。

 もしもっと上の身分の誰かがやっているなら、そういった相手とくっついたところで何の助けにもならないからだ。

 ハッキリとした後ろ盾が必要になっている。


 だからこそ、メルルーナは学園でより一層人脈づくりに精を出した。


 ゲームでは悪役令嬢みたいな感じで露骨に嫌がらせをしてくる相手はいないけれど、それでも度々恋愛イベントのスパイス要員なのか、ヒロインにアタリのキツイ令嬢はいた。


 もしかして、彼女たちの仕業かしら……? とも思ったけれど、そんな彼女たちと思えば学園で接触した事もない。

 何をするにしても、まず一度くらいこちらに嫌味か皮肉の一つは言ってくるだろうと思うがそんなことは一度もなかった。


 攻略対象とは仲良くしていたし、なんだったら攻略対象ではない男性とも仲良くできそうならしていたけれど、思い返せば令嬢たちとはほとんど関わっていない。

 令嬢たちは割と放課後、学園内にあるサロンを利用してお茶会などで交流を深めているらしいが、メルルーナは誘われた事もなかった。


 自分の身分が低いから……だから呼ばれないんだわ。


 そんな風に思っていた。誘われる事もないから余計にメルルーナは頼れるのはやっぱりそこそこ権力持ってる将来有望な男性よね、という考えになっていったのだが、それはある日終わりを迎える事となった。



「……最近、皆さんに避けられてる気がするんです」


 メルルーナがそう零したのは、王子の側近にして攻略対象の一人である侯爵家の令息だった。

 こういった場合王子あたりに相談するべきでは? とよぎったけれど、だがしかし王子だっていきなりこんな話されてもな……と思われそうだったのでメルルーナはちょっと小癪にも王子の側近を相談相手に選んだのだ。


 彼なら何かあった場合、王子にも話を通してくれないだろうか、なんて考えて。


「皆さんって……もしかしてクラスの令嬢とか?」

「えぇ、元々こちらとはあまりお話してくれなかったけれど、最近特にそう感じるようになってしまって……」


 思い返せば最初のころから令嬢たちとはそこまで会話をしたりもしなかった。

 ゲーム内ではそもそも話す必要のない存在だったし、無駄に話しかけて時間を消費するくらいなら少しでも攻略対象と関わって親密度を上げたいと思っていたので。


 だからこそ、こうして実際学園の生徒としてメルルーナが行動している時だって、令嬢たちと積極的に関わる気はほとんどなかったのである。


「お茶会とか参加してる?」

「いえ、誘われていないので」

「……は?」


 側近の口から、思った以上に低い声が出た。


 それをメルルーナはクラスで集団で虐めていると思ったからこそそんな声が出たのだ、と思った。

 暴力をふるうだとかではないだけまだマシかもしれないが、それでも集団で一人を無視するのはよろしくはない。だが――


「あのお茶会は自由参加だよ」

「え?」

「学園に入るときにいくつか学園の決まりを教わったと思うし、なんだったら入学初日に冊子として配られているから忘れたなら読み返せばすぐにわかる話だ」


 そう言われて、無視をされていたわけじゃない……? とメルルーナは戸惑った。

 それどころか、もしかしてその程度のお知らせも見てないの? と呆れたような眼差しが向けられてしまってメルルーナは言葉に詰まった。


「ま、あのお茶会は自由参加だけれど、参加するための最低条件がある。

 お茶会だろうと社交の場だろうと最低限のマナーやルールは存在しているからね。それすらできない相手には参加資格が与えられない。

 だからこそ、学園でのお茶会に関してはドロシー先生のマナー講座の授業を受けて、彼女のテストに合格する必要がある。

 合格すれば放課後のサロンで行われているお茶会に関しては、身分に関係なく令嬢であるならば参加は自由だ。勿論男子生徒は参加できない。あれはあくまでも令嬢たちのものだから」


 彼の口から出たドロシー先生、というのは王家の教育係をしていた人物……ではなくその娘で、母親同様彼女もまた礼儀礼節にうるさいタイプであった。

 母と同じようにきちんとした礼儀作法を教えるのだ、という野望に燃えて、それはもうスパルタと評判な先生である。


 メルルーナは学園に入ったばかりの頃にドロシー先生に色々と駄目出しされて以来、すっかり彼女が苦手であった。

 だからこそ、彼女のやっている自由授業としてのマナー教室など参加する気はこれっぽっちもなかったのである。


 確かにドロシー先生は厳しいが、しかし理不尽な怒りをぶつけたりはしない。

 ロクにできていなかったマナーが今回は上手くできた、だとかの上達を見せればきちんと褒めてくれるし、惜しいと思ったところだってきちんと指摘してアドバイスもくれる。

 めちゃめちゃ厳しいのでその優しさは焼け石に水状態ではあるけれど、それでもただ意地悪で怒っているわけではないのは確かである。


 一応、大抵の家のご令嬢は幼い頃から礼儀作法を学んでいる。とはいえドロシー先生が求めるレベルは高位貴族、それも王族と関わる際に必要なものもあるので、低位貴族である令嬢が合格をもらえるまでにはそれなりに苦労をする。

 だが、学ぶだけの価値はあるのだ。


 ドロシー先生のテストに合格すれば、それはもう晴れてどこに出しても恥ずかしくない一流の淑女であるので。

 身分的にそこまで高くない令嬢にとって、それって必要? と思われそうだが、自分より家格が上の相手と結婚した場合だとかを考えれば、絶対にいらないというものではない。むしろ覚えておいた方が後々楽できるとも。


 もし仮に学園を卒業した後でやっぱりマナーを学び直さないと、となれば教師を雇う必要が出てしまうし、そうなれば中々に出費が痛い。

 だがしかし学園でそれらを学べるとなれば、学んでおいた方が圧倒的に良い事ではあるのだ。新たにお金を払うだとかの必要もないので、家の経済状況など気にせずたっぷり学べるのだ。それも一流の教育を。


「知らないって事は当然参加もしてないし、それどころかドロシー先生の合格ももらえてないって事か……言っちゃなんだけど、この学年だとそれ、君だけだと思うよ」

「ぁ……ぁぅ……」


 何かを言うべきかもしれないが、しかし何を言えるでもなくメルルーナは小声で呻いた。

 今、間違いなくゲーム画面だったら好感度が大幅に下がるエフェクトが発動しただろう、と思えるくらいに側近のメルルーナを見る目が冷ややかである。

 さっきまではもうちょっと親身に寄り添ってくれる雰囲気があっただけに、この落差は大きい。



「それさ、避けられてるっていうよりは、一人だけマナーも何もできてないから関わらないようにしておこうっていうだけの話だと思うよ。

 現に君以外の男爵令嬢だってドロシー先生の特別授業に出て合格もらってサロンでお茶会に参加してるわけだし。

 病気や怪我でやむなく……なんて事情があるならまだしも、五体満足健康体なのに一人だけできないって、それは避けられても仕方ないんじゃないかな」


 そう言われてメルルーナの脳裏に浮かんだのは、前世のとある出来事だった。


 中学の同級生と久々に会う事になって、数年経過してるのもあってどんなふうに成長したのかなぁ、なんて思っていたら、悪い意味で全く変わってなかったのである。

 当時の年齢なら別にその行動もそこまでおかしくはなかったけれど、しかしその頃の年齢としてみるならばどうかしている。

 結局その後は確か、その人と関わる事をやんわりと避けて、そのままじわじわと疎遠になったんだったっけか。


 別にメルルーナの礼儀作法は目も当てられないとかではない。

 ただ、男爵令嬢としてなら普通というだけのものだ。

 しかし同じくそのほかの男爵令嬢たちは、高位貴族と共にいても何もおかしくないくらいのマナーを習得している、となれば。

 一人だけ浮いてしまうのは言うまでもない。他の令嬢たちはドロシー先生の厳しいレッスンに共に耐え抜き苦労をしながらも合格を勝ち取ったのだ。仲間意識だってそりゃあ芽生えもするだろう。


 いくら同じクラスの面々と言えども関わりを持たなければ仲が良くなる事も悪くなる事もない。

 そうして一人ぼっちを決め込んで気付いたころにはすっかりクラスでの結束が固まった後。

 メルルーナが置かれた状況はつまりこれだった。

 メルルーナが仲良くしようとしていたのは、いずれも令息でありドロシー先生の特別授業に参加するわけではない。もしメルルーナが一人でも誰か、令嬢と仲良くしていたのであればその友達から一緒に特別授業に行きませんか? と誘われていたことだろう。だがしかし女子との関わりを絶っていたメルルーナは、わざわざ厳しいドロシー先生に会いに行きたいとは思ってなかったし、ましてや合格しないとサロンのお茶会に参加できないなんて事も把握していなかった。



 商会がじわじわと他の誰かに足を引っ張られているような状況にあるのはてっきりいずれかの令嬢の仕業ではないか、とも思っていた。

 けれども、何かが違う。

 じんわりと滲むような悪意を感じた事さえない。聞こえるかどうかのギリギリを狙ってメルルーナを笑いものにでもしているかのような反応だとか、悪意があると知らせるかのような嫌がらせをわかりやすく仕掛けてきた事も思い返せばなかった。


 きっと同じクラスの令嬢たちだけではなく、他のクラスの令嬢たちにとってもメルルーナの存在はそこらの石ころみたいなものなのかもしれない。

 嫌う以前にメルルーナの存在を認識してくれているかも疑わしく思えてくる。それくらいに無関心なのだ。


 メルルーナは今までそれを別に何とも思わなかった。

 例えばゲームで彼女たちとも仲良くしなければ攻略対象とのイベントが進まない、だとかであれば違ったけれどそういった事はなかったのだ。

 だから関わらなかった。


 ただそれだけの事だ。

 だというのに。


 それが何故か今になって、間違いだったのではないか? と思えてしまった。

 根拠はない。けれども不安だけが胸いっぱいに広がっていく。


 今からでも彼女たちと話をした方が良いのではないか?

 もしかしたら自分は何かとんでもない思い違いをしているのではないかしら……?


 根拠はないけれど、それでも重苦しい不安は消えてくれない。

 だがしかし、令嬢たちに話しかけに行くにしても今は既に放課後。

 まだ学園に残っているご令嬢たちはサロンでお茶会をして交流している真っ最中だろう。

 そこに参加資格を持たないメルルーナが行ったところで、まずは参加条件を満たしてから出直してくださいね、となりかねない。


 成績はそこまで悪くない。

 ゲームの中で存在していたミニゲームはなかった。

 だから、このまま順当に攻略を続けていけば何も問題はないと思えていたのに……


「季節の変わり目だからね、もしかしたらそれが原因で色々と不安に思う部分があるのかもしれない。

 今日の所は早く帰って温かい物でも飲んでゆっくり休むといいよ」

「そ、ですね……失礼します……」


 側近の言葉にメルルーナは頷いて、どこか覚束ない足取りで家路についた。


 そう、だからこそメルルーナは気付かなかった。




「……行ったか」

「えぇ。しかし気付かないものなんですね」


 物陰に隠れるようにしていたから気付かなかった。それ以前に王子がこんな風に隠れているなどとは想像もしていなかったのだろう。これっぽっちも気付かなかったメルルーナに、王子もまた呆れたような声を発していた。


「調べたところで本当に何もない。ただのお花畑でしたよ」

「そうか」

「ま、父親は多少なりとも野心を持っていたみたいですが。でもそれも時間の問題でしょう。いずれこの国で商売なんてできなくなります」

「複数の商会が裏で手を組んで妨害しているなんて思ってもいないようだからな」


「彼女はどうやら令嬢たちが何やら仕組んでいるのでは? なんて疑っているようでしたが」

「まさか。彼女たちは誰も一切何もしていないぞ」

「ですよね。だってやってるの、僕たちですから」


 一切の悪気もない口調で言う側近の言葉をもしメルルーナが聞いていたならば、間違いなく驚いた事だろう。


 令息と仲良くなったメルルーナを邪魔に思うのは誰だ、となれば、まず真っ先に疑いが向くのはそんな令息の婚約者でもある令嬢である。

 政略結婚で愛がなかろうとも、横から掻っ攫われるのは問題しかないわけで。


 穏便に婚約を解消した後でなら別に誰がメルルーナとくっつこうとも令嬢たちとて問題にはならないけれど、婚約期間中に相手を乗り換えて自分を捨てる、なんて事になれば醜聞待ったなし。勿論不貞をする方が悪いし、その場合捨てられた令嬢ばかりが悪いわけではないけれど、しかし噂というものは面白おかしく変化する。


 一切こちらに非がなくとも、しかし火のない所に煙は立たない。そんな風に言われているけど、でも実際はどうかしらね……? なんてちょっとでも疑いが生じるような言い方をあちこちでされていけば、いずれその噂は形をかえて「彼女に問題はなかった、と言われているけれども……」と令嬢にも何かあったのではないか? と勘繰られるのだ。

 勘ぐられたところで事実は変わらないが、それでも面倒な事に変わりはない。


 世間体を考えれば、面倒な事が起こるとわかっているのを放置するはずもない。


 とはいえ、いくらメルルーナが邪魔であるとはいえ、では排除すると考えて。


 学園で直接、というのを行うような令嬢はそもそもこの学園にはいなかった。

 ゲームの中ならわかりやすい表現としていじわるな悪役令嬢が嫌味や皮肉を織り交ぜてヒロインを馬鹿にしてくれるわけだけど、現実的に考えてどうしてわざわざ高貴な身分の女性が躾けのなってない低位貴族の娘に親切丁寧に教えをくれてやらねばならぬのか。


 こどもの躾けは親の仕事である。決して同世代の赤の他人でしかない令嬢が率先してやるものではない。


 であれば、学園での不作法があったとしてその場合、家の方から直接男爵家へ抗議の手紙を送る事が効率的かつ効果的である。

 令嬢たちとて暇ではない。

 どうでもいい相手に割く時間などないのだ。そんなくだらない時間を作るくらいなら、その時間をもっと有意義だと思っている事に対して使うのは当たり前だった。



 礼儀作法も合格点をもらえてすらいないメルルーナなど、どうせ社交界に出てきたところで誰の目にも入らない、というのが令嬢たちの考えでもあった。

 確かにメルルーナは王子やその側近、更には高位貴族でもある令息たちと仲良くはしているようだが、それだけだ。


 メルルーナは彼らの中の誰かと結婚しようと目論んでいるわけだが、しかし令嬢たちからも令息たちから見ても、まず有り得ないのだ。


 愛人だとかであれば可能性としてはゼロではない。

 だが、愛人であるならばそれこそ令嬢たちからすれば本当にどうでもいいのだ。

 物語の中では時として夫の愛を愛人に奪われて、なんて形で怯える正妻の図もあるのだけれど、現実問題として淑女としても及第点ですらない相手を社交の場に堂々と連れていくような男の世間体を考えたらそんな事を実際にやるのは本当にどうしようもない愚か者だ。


 やらかした時点で周囲からの評価は下がるし、マトモな常識も理解できない者の烙印を押され貴族としての立場は失墜するのが目に見えている。

 仮に政略結婚で妻の側に一方的な愛があったとしても、ここまでの愚か者であれば流石に百年の恋も冷めるし愛も消える。


 愛人であるならば、日の当たる場所で脚光を浴びるなんて日はまず来ないと思っていい。

 下手に外で醜聞振りまかれても迷惑であるし、そうなれば屋敷に囲って外に出る事もなくなるだろう。

 そういう意味で、令嬢たちから見ても愛人であるならば何の脅威にもならないのだ。

 自分の視界に入るなどという不快な事にもならないだろうし。



 令息たちから見てもメルルーナは恋愛対象としてあり得なかった。


 仲良くはしている。

 だがそれは、あくまでも向こうがにこにこしながら寄ってきているからとりあえず当たり障りなく相手をしているに過ぎない。

 薄汚れた犬などであれば追い払ったりもしただろうけれど、メルルーナは一応清潔ではあるし、言葉も通じる。手のかからない愛玩動物、というのが令息たちの見解だった。


 だが、それを恋人に、とは誰もまったく思っていなかったのである。


 彼らは仮にも貴族であり、貴族として生まれた以上負うべき責任も理解している。

 後継ぎにはなれない立場の者もいるけれど、後継ぎではないから価値がない、というわけではない。

 他の家との縁を結ぶための婿入りだとか、当主となった相手を支えるだとか、時として騎士となり己が家のみならず王家に忠誠を捧げたりだとか。


 この学園の生徒である令息たちの大半は既に婚約者がいる。

 故に、メルルーナに靡くはずもなかった。

 ただ、何か愛想良く近づいてきていたので、最初は何か狙いがあるのではと疑ったのだ。


 だが調べても政敵が送り込んだだとかそういうものでもなさそうで、メルルーナの父が更に上の身分の貴族との繋がりを持ちたいと思っている事くらいしか出てこなかった。

 メルルーナは父に言われてとりあえず上の身分の男に声をかけているのだろう、とその時点で多くの令息たちは納得したのだ。

 身分が上であるならば、同じく男爵家の令息たちは捨て置かれるかとも思ったが、しかしほぼ成金と言ってもいいメルルーナの家と比べれば歴史と伝統のある男爵家を侮ったりはしないのだろう。メルルーナがどう思っているかは知らないが、少なくとも彼女の父はほぼ名ばかりの貴族である自らの家と比べて他の男爵家を侮る事はないと言える。



 それに、そもそも。


 仮にアレを妻にしたとして。


 どうしろと言うのだ。


 確かに父親に商才があって金はたんまり持っているといっても、別に国一番の金持ちとまではいっていない。この国全てを金で買えるくらいの財を成したわけでもない。ちょっと金に余裕のある伯爵家くらいの財力でしかないのだ。まぁ、父親の生まれが平民である、というのを考えればそれはそれで素晴らしい快挙ではあるのだけれど。


 だがしかしあの父親は貴族がどういったものであるか、をしっかりと理解はしていないのだろう。妻である男爵夫人とて、いつ平民になってもおかしくない状態の低位貴族でしかなかった。そういった意味では真の貴族としての責任や義務といったものを理解できていなくても仕方がない。


 そして両親がそうであるならば、メルルーナが理解していなくともそれは仕方がない事なのかもしれない。



 だが、こうして学園に通って学ぶ機会を得たならば、気付く切っ掛けはあったはずだ。


 現にほとんどの令嬢たちはドロシー先生の特別授業だけではない。他の事だって率先して学んでいっているのだから。



 仮にメルルーナがどこか、高位貴族である令息の家に嫁入りする事になったとして。

 高位貴族の夫人として振舞えるか、となると恐らくは無理だろう。

 学園に居る時点でこれだ。他の令嬢たちと比べて拙いマナー。立ち居振る舞いも洗練されているとはいえず、そんな状態の女を連れて社交の場に出れば夫も恥をかく。


 では逆に、家を継ぐ予定のない高位貴族の次男三男あたりが彼女の家に婿入りするとして。

 確かに高位貴族との繋がりができはするだろうけれど、しかし大っぴらに大勢の前で紹介されるような事になるか、となると話は別だ。

 どちらにしても貴族と関わる以上は、最低限の礼儀もマナーも必須である。

 これが平民相手なら多少の不出来は目を瞑るけれど、学園に通っていた貴族、であるなら話は変わる。

 学園に通っておきながらこれ、となれば婿入りした男の実家とて若干距離を置くだろう。


 高位貴族でありながらも困窮している家に援助する、とかそういう事でもない限り下手に実家と疎遠になるのがわかりきっているのなら、次男だろうと三男だろうと婿入りすると軽率に決められるはずもない。

 いくら金があっても社会的立場が厳しい状態になれば、今まで以上に大変な生活になりかねないとわかっているのだ。



 だからこそ多くの令息たちは露骨な接触は避けて、無難な対応をとっていた。あくまでも紳士として。

 どうやらメルルーナはそれを好かれている、と勘違いしているようだけれど。


 とんでもない。


 令息たちからすればメルルーナは監視対象だった。

 何せ王子にまで近づいたのだから。

 王子から見て、まぁ面白い生き物だな、くらいの認識であるが、だからといっていつまでも野放しにしておくわけにはいかなかった。


 誰がメルルーナの餌食になるかはわからないが、それでも誰かしらの婚約に横やりを入れようとしているのであれば放置しておくわけにはいかない。

 令嬢たちに手を打たせるとなると、余計な口実を与えかねないからこそ彼らは自ら対処に動いたのである。


 恋愛によって結ばれた婚約も確かにあるけれど、それだって家同士に全く何の利点もないというわけではない。

 利があって、更にお互いが思いあっている、というのがあるから結ばれたものだ。

 仮にも貴族の家だ。愛だけで結ぶなどあるはずがない。


 愛がなくともそこに利益が生じるのであれば結ぶ。主に平民が思う政略結婚はこちらだと思うのだが、利益によって結んでいるというのに愛がないというだけで平民たちはそこに生じる利益すら見ていないように思われるが、まぁ今そこは置いておくとして。



 父の差し金か、それともメルルーナが自分の意思でやっているかはさておき、メルルーナがしている事は一つの家だけではない。二つの家の婚約を台無しにしようという行いなのである。

 つまりこの時点で最低でも二つの貴族の家を敵に回したといっても過言ではない。


 明確に狙っている相手がいるならまだしも、メルルーナは多くの令息たちと仲を深めていこうとした。

 その結果として単純に敵に回る家が増えたのである。



 令嬢たちに手を下させるとなれば、メルルーナが彼女たちにどんな言いがかりをつけるかわかったものではない。あの人たちに虐められているんですぅ、と涙ながらにこちらの同情を買うような事を言い出す可能性もあった。

 だが、令嬢たちは本当にメルルーナの事など何とも思っていないのだ。ドロシー先生の授業を受けて合格してサロンでのお茶会に参加して、メルルーナという人間がどういった人であるか、を知れば多少は令嬢たちも考え方を変えるかもしれないけれど、現時点でのメルルーナという存在は令嬢たちにとって、世界の片隅で転がっている虫の死骸にも等しい。そんなものにわざわざ思いを馳せるはずもない。


 だからもし、メルルーナが令嬢たちに何かされている気がする、なんて言ったところでそんなものは気のせいでしかないのだ。

 実際に手を下しているのは令息たちなのだから。



 恐らくメルルーナはその事実に気付けないだろう。あれにそこまでの聡明さはない。

 気付けるとしたら父だろうけれど、しかし気付いたから何だと言うのだ。

 政略だろうとお互いの家の婚約に皹を入れようとしてきたのはそちらだ。

 これが婚約ではなく商談に横やりを入れた、と考えればこの程度の妨害などまだ生易しいといえる。


「ともあれ、もう少ししたらようやく落ち着く事になるだろうね」

「えぇ。この国で沈むか、それとも他国へと出るか。どちらにしても結果はそう変わらないでしょう」


 王子の言葉に側近もまた頷いて、それで、メルルーナに関する話題はこれっきりだった。




 ――放課後のサロンでは令嬢たちが交流を深めるべくお茶会をしている。

 それはこの学園で昔から続く伝統でもあった。


「そういえば随分前にこの学園を退学していった方、どうなったかご存じ?」

「えっ、どなたの事ですの? 誰かが退学した、なんて噂聞いた覚えがありませんわ」

「あぁ、貴方はクラスがそもそも違いますものね。では知らなくても無理はないわ」

「そうそう、わたくしの隣のクラスにいたのよ、落ちこぼれの令嬢が」

「落ちこぼれ……?」


「そうよ。ここのお茶会に一度も参加していないの」

「えぇっ!? 一度も……? では、ドロシー先生の授業は」

「合格をもらうどころか、そもそも一度だって授業に出ていなかったそうよ」

「まぁ、それじゃあこの先の社交に出るのも大変ではありませんの?

 その方、学園を卒業後に出家でもなさるおつもりだったのかしら……?」

「いえ、修道院に行くだとか、明確な目的が決まっていたわけではないみたい。

 殿方に言い寄っていたみたいですから」

「愛人志望の方でしたの?」

「まっさか、身の程知らずにも正妻狙いだったようよ。でも、一昔前ならともかく今はもうほとんどの家の殿方だってあんなのに引っかかりようがありませんもの」


 令嬢の一人が言うように、かつて、元は平民だったが貴族の家に迎え入れられた、だとか、実はやんごとなきお方の隠し子だった、だとかで周囲の令嬢とは異なる常識と価値観を持った令嬢が多くの令息に言い寄ったという話はそれなりにある。

 周囲の女性とは毛色の違う存在に物珍しさからか、それとも馴染めない環境への同情心からか心を許した令息たちはそんな令嬢にコロッとやられ、本来結ばれていた婚約という契約を己が一存で破棄する、なんていう茶番もかつては繰り広げられた。


 中には王子もいたというのだからとんでもない。


 とはいえ、そういった話の先は大抵決まりきっている。


 まともに淑女教育もされていない相手を妻にしたところで、社交界で恥をかくのは目に見えている。いい年して礼儀作法も何もなっていない相手と交流したいと思う家などあるはずがない。

 常識的な付き合いすらできない、と目に見える形で知らせてくれているのだ。むしろこれ幸いと距離を置く。

 貴族であれ王族であれ。

 周囲から人がいなくなれば、その先の未来は先細る一方。


 貴族ならともかく王族など下手をすれば他国との外交で恥をさらす事になるのだ。そんな相手を王妃にするなど、マトモな頭をしていたら有り得ない。


 一人の女に篭絡されて、結果多くの家の婚約が台無しになった。

 そんな話が一つ二つではない。一冊の本にしてもまだ足りぬとばかりに出れば、女性の男性を見る目は厳しくなるし、婚約者からいらぬ疑いをかけられる令息たちもたまったものではない。

 過去の愚か者たちと同じ過ちは繰り返さないぞ、と令息たちは婚約者がいるのに近づいてくる女性への警戒は当たり前であると教育で叩き込まれ、むしろそういった相手の裏を探る事も当然と教わった。


 ただのお花畑ならともかく、そんな話の中には他国からの間者が国内の混乱を誘うべく、だとか、派閥としての力を弱めたいがための、だとか、ハニートラップも多く含まれていたので。

 一方の女性の言葉だけを鵜呑みにせずに、しっかりと自分たちでその裏を探るように、というのが常識となりつつあったのである。それまでの事を考えるとようやく、といったところではあるが。


 令嬢たちにも同時期から、礼儀作法がなっていない相手とわざわざ関わらない、というものが暗黙の了解として広まるようになった。以前は、自分の婚約者に近づく不埒者に礼儀を教えてあげましょう、とばかりに苦言を呈したりもしていたが、それらを曲解されやれ虐められたやれ酷い事を言われた、と男性に泣きついて、一方の言い分だけを聞いてのぼせ上った令息から彼女を虐めるな、なんて言いがかりをつけられることもあったのだ。婚約者である令嬢からすればとても理不尽だろう。


 結果として自分たちがわざわざ手本となって教えて差し上げよう、などと考えずに学園である以上ここは学びの場なのだから、そういったものは専門家に任せる事となったのである。

 それが参加資格を得たものだけが参加できるサロンでのお茶会という催しへと変わっていったのだが。


 令息たちに纏わりつく女など、令嬢と呼ぶのも烏滸がましい。それも婚約者がいるのであれば尚の事。

 常識も品位も知性もないと判断されてしまえば、そんな相手に篭絡されるような男、こちらから願い下げである。むしろその程度のハニートラップすらどうにもできないのであれば、今後貴族として、身分と権力を持つ者として不適格。


 たまに発生する男に言い寄る女に関しては、令息たちへの試練的存在へとなっていったのであった。


 勿論中には本当に何も知らず……といった者も過去にはいたのだけれど、そういった相手は基本的に学ぶ事を避けたりはしない。特別授業の事もロクに知らなかったとしても、教えられれば嬉々として参加し、そうして令嬢たちの輪の中に入ることとなるのである。


 そういった意味でメルルーナは特別授業の存在を知った上であえて参加しない側だったので、令息たちからすれば邪魔な存在でしかなかった。


「そんな方がいらしたのですか……それで、退学して、どうなったのです?」

「どうにも隣国に行ったようなのだけれど……こちらの国に住んでいて仕事で、だとかで隣国に行けばこちらの国の身分も適用できますけれど、そうじゃないでしょう? 平民になっていたそうよ」

「ちなみにその情報はどなたから?」

「仕事で隣国から帰ってきたお兄様ですわ」

「え?」

「まぁそういう反応も無理はありませんわ。お兄様は隣国に居たのだからこの学園にいた落ちこぼれ令嬢の事など知るはずありませんものね。でも、父親が隣国で商売を始めて、娘は元は貴族だなんて言ってどうやらお兄様に言い寄ったらしくて。

 元は貴族と言っても、そもそもドロシー先生の授業にすら参加してない、礼儀も何もあったものじゃない人でしょう? 所作だって平民としてみればそこそこでも、貴族の令嬢としてみるとなれば目も当てられない。

 しかもお兄様には最近結婚したばかりの妻がいた。そんな相手の目の前で言い寄ったのよ。元貴族でも今は平民、お義姉様が怒るのも無理はないでしょう? 本人は知らなかった、とか言ってたみたいだけど、でも、夫婦としての距離感ですぐ近くにいたのよ?」

「お兄様……セドリック様でしたわね。あの方でしたら、仕方ないのではなくて? 思わず目を奪われる素敵な方ですもの」

「えぇ、そんな素敵な旦那様に妻の目の前で言い寄ったの。

 だからね、相応の罰が下されたわ。

 わたくしはお兄様が帰ってきてからこんなことがあった、って聞かされたの。それで、聞いていくうちにそういえば彼女この学園にいたのよね、って思い出して」


「まぁ、それはそれは」

「なるべくしてなった、といったところですわね」


 メルルーナの事なんてそもそも令嬢たちからすればそういやなんかいたな、くらいのものなので。

 話はとてもあっさりと終わり、話題はそれ以上引き延ばされることもなく新しい話題へと移っていった。



 結局のところメルルーナは最後まで、自分が何を敵に回していたのかに気付かなかった。

 そして貴族の恐ろしさも。

 気付いた時には引き返すこともできないくらいに手遅れだった。


 ただ、それだけの話である。

 ドロシー先生の自由に受けられるマナー講座は必ずしも満点を取らなきゃいけないものではないので、ある程度の合格点を得てサロンでの交流会参加資格を得た後、更なる高みを目指すかどうかは任意となっております。でも大抵の令嬢は上を目指すから男爵令嬢でも公爵家や王家並みにまでなってくよ。

 マナー以外の授業もあるからやる気があれば色んな事が学べるよ。

 生徒でいられる期間がたった三年しかない、というのを嘆く令嬢もいるくらいだよ。向上心たっぷりだね(*´ω`*)


 次回短編予告

 好きな子に対して素直になれない令息が婚約破棄されるテンプレっぽい感じのやつ。

 いつものようにその他ジャンル……いや、異世界恋愛かな? ヒーローの名前でないままでも恋愛と言い張っていいか微妙なところだけど多分異世界恋愛、かなぁ?

 文字数的には今回と同じくらい。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前世の記憶を持っているのなら同性コミュニティーの重要性は承知しているはずですがねえ。 貴族令息に上手く縁付いたとしても、教養はもちろん令嬢たちとの繫がりがなければ社交界を渡っていけませ…
[気になる点] 地球の常識もわきまえてなさそうで草
[一言] どうして乙女ゲームの転生者って、その世界の常識を学ばないのか、不思議でたまらん。仮にも十数年以上生活してるのにね〜 本当の意味で何もしなかったのは、常識すら学ばない転生者ですな。
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