悪役なアイツを幸せにしたいッ!! 1-9
エドガーとアルフの決着が付くと、その決闘を見届けた観客は、大きく歓声を上げた。
様々な声が聞こえてくる中で、エドガーとアルフはゆっくりと構えを解き、得物を収める。
「――大したものだな、今年の卒業生は……。
これで君が5位だなんて、信じられないよ」
負けて清々しい表情になったアルフは、素直にエドガーを称賛した。
「は、ははは……、今回勝てたのも、5位で卒業できたのも、偶々ですよ?
運だけは昔から良いんです」
まだ体力に余裕のあるアルフに対し、エドガーは完全に精魂尽きていた。
「早く、医務室に向かった方がいい。
その傷、浅くはないだろ? アルフォート学園は設備もいいから、直ぐに定説な治療も受けられるだろうよ」
「そ、そうですね……。 そうさせてもらいます」
エドガーはそう答えた後、力尽きたのか、一気にその場に力なく倒れこんだ。
「あ……、おいッ!!」
アルフの呼びかけもむなしく、エドガーは地面に伏した。
◇ ◇ ◇ ◇
「――どうだい? 彼。
面白いだろ??」
エドガーが倒れこみ、少し騒ぎになっている所で、ユリウスは楽し気に、ベルモットに問いかけた。
「変人ですわね。 こんな護衛選定で、大けがを負って……。
これで勝てたとしても、血筋的にも四大貴族の護衛騎士に成れるはずもないのに」
ベルモットの言う通り、エドガーがここでいくら武力を示そうとも、貴族の中でも最高点に立つ、四大貴族の一人、ベルモットが彼を護衛に付けるはずもなく、血筋というものはそれほどまでに、選定において重要な役割を持った。
「1位、2位であれば、考慮する余地があったかもしれませんが、優秀者の中で5位。
品格も求められる四大貴族が、護衛として庶民を連れまわす、正当な理由がありませんわ」
「そんな……、せっかくエドガーここまで頑張ったのに」
「あ、貴方は誰の味方をしてるんですッ!?
――というか、私の護衛にふさわしいのは、貴方でしょ? ユリウス」
何故か残念そうにするユリウスに、ベルモットは怒り、順当にいけば、ユリウスか他の名門貴族が、護衛に付くのは当たり前だった。
そして、時折見知った仲の、特有なやり取りを二人はしていたが、エドガーが倒れた時とは、また違ったざわめきが、会場中に巻き起こり、二人は再び、エドガー達が決闘を行った場所に視線を移した。
二人が視線を移すと、そこには片膝を付くアルフと、その護衛対象である、四大貴族であるユファメールの姿がそこにあった。
「――申し訳ございません、お嬢様……。
私は、ユファメール様だけでなく、ジュネヴィ家にも恥をさらしてしまいました」
ユファメールの騎士として、決闘に答え、その結果エドガーに負けたアルフの罪は重く、アルフの処遇にその場にいたすべての者が注目した。
ユファメールがこの場で下す決断は、ジュネヴィ家にとっても重要であり、今後の彼女の対応がその家の品格すらも、判断できてしまう材料になりかねなかった。
「――はぁ……、顔を上げなさいアルフ…………」
頭を垂れる我が騎士に、ユファメールはため息を一つ付き、話始める。
「今回の一件は、あの庶民の……、アホ面の口車に乗った私にも非があります。
頭に来たからと言って、護衛を騎士見習いと決闘させるなど……、あまり褒められた行為じゃないですわ。
――ですが、アルフ、
貴方には失望しました」
ユファメールの最後の言葉は、アルフに重くのしかかった。
俯き気味になるアルフに、ユファメールは話し続ける。
「二度目は無いですよ? ジュネヴィ家の騎士が、主の前で負ける事など許されません、
励んでください。
ただでさえ、優秀な護衛は希少なのですから……、強くなくては困ります」
ユファメールは、アルフの実力を知っており、優秀な部分も知っていた為、たとえ何度敗北しようとも、彼を手放すつもりはなかったが、大勢の前である為、威厳は示さなければなく、アルフにそう伝え、ジュネヴィ家は過ちを犯した者であっても、簡単に切り捨てはしないという事を周囲に示した。
そして、ユファメールはもう一つ、しなければならない事が残っていた。
「ベルモット オルレリアン嬢? いるのでしょう??」
ユファメールは会場に呼びかけ、ベルモットはそれに答える事は無かったが、必然的にベルモットは周囲からの視線を集め、ユファメールは観客の視線を頼りに彼女を見つけ出した。
「子の決闘は貴方の護衛騎士に成りたいという庶民の勝ちです。
――ただ、アレは紛れもない平民。
多少力はあれど、貴族としての威厳も品格もありません。
貴族からしてみれば、その価値は薄い……」
ユファメールは、ベルモットとの共通認識を確認するように話したうえ、本題を切り出す。
「しかし、あの平民を私は、このままにしておく事はできません。
我がジュネヴィ家の騎士を打ち破ったのです。
貴方がいらないというのであれば、あのアホ面は私の護衛にします」
ユファメールはそう言い放ち、そう宣言したことで、会場中に一気にどよめき声が上がる。
そして、これまでの会派の中で、ベルモットはユファメールの意図している事が伝わった。
後は、決断するのはベルモット自身の意志であり、自分がどうしたいか、その問題だけだった。
一切表情を変えないベルモットに、同じく事態を察しているユリウスは、飄々と答える。
「――私はいいと思うぞ?
彼は変だが、とても興味深い」
ニヤリとした表情を浮かべるユリウスを見て、ベルモットはため息をついた後、ユファメールに視線を戻す。
「――あなたがそこまで……、オルレリアンに伺いを立てる程に、欲しい騎士なのであれば、彼は譲りません。
このアルフォート学園在学中は、かの者が私の護衛騎士です!!」
ユファメールの言葉から、エドガーに半ば無理やり価値を付け、ベルモットがそのように答えたことで、事実上この場においては、オルレリアン家の方がジュネヴィ家よりも威厳がある事を周囲に示せた。
そして、晴れてエドガーはベルモットの護衛騎士になった。