悪役なアイツを幸せにしたいッ!! 1-8
依然として、アルフが一方的に攻撃を仕掛ける状況、試合を観戦する誰もが、アルフが優勢に思える状況の中、その決闘の渦中であるアルフは、今までにない程に、奇妙な違和感を感じていた。
(クッ! 当たらないッ!!
普通であれば、もうすでに決着が付いていでもおかしくないはず)
すでに仕留めに掛かっているアルフは、自分の自信のある連携を何度もエドガーに仕掛けているが、そのどれもがすんでで躱され、アルフが仕留めに掛かろうとすればするほど、エドガーの動きがどんどんと良くなっているようにすら感じていた。
「な、なんなんだコイツはッ!」
エドガーを得体の知れない存在に感じ、自分の経験にない騎士を前に、恐怖心すらアルフは抱いた。
(――くそッ!! 気後れするなッ!
俺は四大貴族に使える護衛! こんな騎士見習いに飲まれてたまるかッ!)
気持ちで押されている事を感じたアルフは、エドガーから一度、距離を置き、大きく息を吐き、心の動揺を抑えた。
「――次で終わらせる」
アルフは小さくそう宣言し、冷静になった頭で攻撃を組み立てる。
そして、自分の一番人のある攻撃を、エドガーに放った。
「――ッ!!」
この試合の中で、一番の踏み込みをアルフは見せ、一気にエドガーとの距離を縮める。
今まで、アルフの攻撃に全神経を注いでいたエドガーだったが、あまりの速さに、少し反応が遅れる。
そして、そんなエドガーに向け、彼の右胸を突き刺す様に、突きの攻撃を動きをアルフは見せた。
反射で動いてきたエドガーは、自然とその突きに対応するように、躱す体制に入り、体の重心を変える。
アルフのあまりの速さに、エドガーは一瞬、反応が遅れつつも、またもやすんでの所で、攻撃を躱そうとしたその時、アルフの囁きがエドガーの耳に入った。
「――掛ったな」
今まで、エドガーを救っていた超反応が裏目に作用し、アルフは既に突きの攻撃モーションから、袈裟切りの体制に入っていた。
エドガーはそのフェイント攻撃にも対応しようとするが、アルフの突進に虚を突かれ、既に攻防で半歩譲っている状況であるエドガーに、攻撃を完全に避けることは不可能だった。
「身の程知らずだが、将来有望な騎士だ。
傷は浅くしてやる」
アルフはそんな冷たい言葉を最後に、少しは手心を加えつつ、エドガーに切りかかった。
(―-躱せないッ!!
でも、それならッ!)
エドガーは躱せない事を悟ると、それ以上、アルフの攻撃を躱す事は考えず、躱すどころか、手心を加えるつもりのアルフに一歩踏み込んだ。
「馬鹿かッ!? コイツッ!!」
傷を浅くするつもりだったアルフに、エドガーがさらに距離を詰めた所で、エドガーが大けがを負うことは必然となった。
そして、攻撃を止める事はもうできず、アルフはエドガーを切りつけた。
今まで、互いに大きな鮮血を飛ばすことなく、戦ってきた二人だったが、エドガーから大きく血が飛び散った。
会場からは悲鳴や興奮しきった歓声のような声、動揺した声が上がったが、試合はそこで終わらなかった。
大きく負傷したエドガーに、アルフは驚きつつも、自分と相手の体制を見て、激しく嫌な予感がし、全身に寒気が走った。
(コイツ、既に反撃の体制に入ってるッ!!
このままじゃ、やられるッ!)
エドガーが踏み込んだ事に驚いたが、エドガーの意図をアルフはすぐに察知し、来るであろう攻撃に備える。
左胸から右腰にわたって、切り傷を負ったエドガーは、アルフと同じように、攻撃を受けながら。上段に剣を構え、エドガーの攻撃の体制は整った。
剣を上段から振り下ろす攻撃だと、アルフは察し、すぐざま後ろに飛びのくが、被弾覚悟で一歩踏み込んだエドガーから十分に距離は取れなかった。
(躱しきれないか……、だか、こちらは受けても軽傷。
今度はこちらからさし返してやるッ!)
アルフも攻撃をよけれないと悟ると、次の攻撃を視野に入れ、エドガーの攻撃を甘んじて受ける。
エドガーが剣を振り下ろす際に、少し口角が上がったように見えたが、アルフは予想通りに攻撃が来た事で、警戒することなく、攻撃を受けてから、反撃の体制に入ろうとした。
簡単にエドガーの攻撃を処理し、アルフが半歩踏み出したその時だった。
「なッ!? マズいッ!!」
アルフは、エドガーが片手のみで、太刀を振り下ろしている事に気づき、そして、もう片方の手は、エドガーの腰元に据えられていた。
アルフが気づいた時にはすでに遅く、エドガーはもう一振り、ここまで温存していた小太刀を逆手で引き抜き、勢いよく下から切り上げるように、剣を振るった。
そして、その切っ先は、アルフの喉元でピタリと動きを止めた。
激しく続いた攻防の最後は、驚くほど静かに決着が付いた。
「ま、参りました……」
喉元に剣を突き付けられたエドガーは、力が抜けた声で、そう宣言し、エドガーとアルフの決闘は、エドガーの勝利で幕を下ろした。




