悪役なアイツを幸せにしたいッ!! 1-7
「――いったい、彼は何のです?
平民が四大貴族の護衛に付きたいだなんて……」
決闘中のエドガーを見つめながら、ベルモットは怪訝そうにユリウスに尋ねる。
「ん? あぁ、どうしても君の護衛騎士になりたいんだそうだよ?
ただそれだけの為に、アルバレア剣術中等学園に入学して、庶民が入学するだけでも大変なのに、成績優秀者10名の中に選ばれ、五位で卒業した。
まごうことなき変人さッ!」
ユリウスは何故か嬉しそうに、笑顔を浮かべながらベルモットに、エドガーをそう紹介した。
「い、いくら平民とはいえ、血筋が良くなければ平民の護衛等歓迎されないと、知ってるでしょうに……」
「そうだね……。
でも、それでも君の護衛騎士候補として、名乗りを上げた。
――何が、彼をそうさせたのか……、ベルモットの昔の知り合いだったりする??」
ユリウスはエドガーに興味有り気に、ベルモットにエドガーとの関係を尋ねた。
「あ、あるわけないですわッ!!
私と庶民の住む世界は違いすぎる、
彼が私をお目にかかることすら難しい」
「――相変わらず手厳しいね?」
エドガーとの関わりをきっぱりと否定するベルモットに、ユリウスは苦笑いを浮かべ答える。
「でも、そうなるとなんで、彼はベルモットの護衛に志願したのかね?
アルバレア剣術中等学園は並じゃない。
剣術は努力すれば、成績優秀者として認められる部分もあるかと思うけど、それは空想の域に近い。
庶民で成績優秀者10名の中に入るのは異常だよ」
会話をする中で、ベルモットはユリウスへと視線を向けていたが、ポツリと呟くユリウスから、再び戦っているエドガーに視線を戻した。
「――いったい何なの…………」
◇ ◇ ◇ ◇
エドガーとアルフは、激しく剣を打ち合い、依然としてアルフが優勢の状況だった。
「――段々良くはなってるね? 集中し始めたかな??
読みは甘いけど、さし返しは鋭くなってきたよ」
アルフにはまだまだ余裕の表情が見て取れ、レクチャーするように話しながら戦うアルフに対し、エドガーは一言も言葉を発せず、ただ目の前の相手に集中している様子だった。
剣を振るうエドガーは、護衛騎士を選定する時の、少しおちゃらけた雰囲気とはまるで違い、冷ややかな殺気を放っていた。
戦いを楽しむ様に、実力差を感じるエドガー相手に、アルフは何気ない、ある意味基本の教科書通りの真向切りを放った。
基本の攻撃、それでいて剣を極めた熟練者が放つ、隙のない上段から放たれる斬撃に、エドガーは真っ向から突っ込んだ。
「――ッ!?」
エドガーの教科書にない、思わぬ行動に、アルフは声にならない驚きを一瞬見せ、それでもエドガーに振り下ろした斬撃を途中で辞めることはなかった。
そして、アルフの斬撃に突っ込んだエドガーは、今までにない集中力を見せ、ほんの数センチ、ギリギリの所で斬撃をかわし、かわした勢いのまま、下方から一気に切り上げるように、アルフに斬撃を放つ。
「クッ!!」
勢いよく放たれたエドガーの斬撃は、エドガーと同じようにすんでのところで、アルフに躱され、面を食らったアルフは、一先ず距離を取る為、エドガーを蹴り飛ばした。
エドガーはアルフの思い通りに、後方へと飛ばされ、二人の間には大きく距離が開いた。
(――こ、こいつッ、今の狙って…………)
数秒反応が遅れれば、致命傷になりかねない攻撃を食らっていたかもしれないアルフは、初めてこの試合に緊張感を感じ、額から嫌な汗が零れた。
目の前の試合相手であるエドガーは、喜ぶ素振りも、ギリギリの所でアルフの斬撃を躱した事による恐怖心、焦り等といった感情をまるで出さず、依然として寡黙に淡々と攻撃の隙を伺っていた。
そんな、エドガーの立ち振る舞いに、経験豊富であるはずのアルフは、異様な気持ち悪さを感じていた。
「今のは駄目だね、エドガー君?
最初の私の攻撃、今回は偶々避け、反撃を狙えたけれど、あんなリスクのある攻撃、これから先じゃ通用しないよ??」
王宮剣術の心得ともいえる、常に自分が優位に立てる状況で戦えの精神に、エドガーは逸脱しており、アルフは先ほどの攻防について、エドガーに忠告をした。
ありがたい忠告を受けるエドガーだったが、それでも返事を返すことはなく、依然として構えは崩さず、冷ややかにアルフを見つめていた。
「――まるで獣だな君は」
アルフは呆れたように、一言呟いた後、強く地面を蹴飛ばし、再びエドガーに攻撃を放った。
一度、ピンチに陥ったアルフは、今までよりもより一層、隙は無く、上下、左右と次々に斬撃を放つ。
エドガーはそんな攻撃に、避ける、いなす事しかできず、アルフと攻撃をよけ続ける。
「本当に君は、躱す、いなす事に関しては一級だねッ!?
でも、それじゃ勝てない……。
それに、ずっとこんな事はしていられないだろ!?」
好きに攻める事の出来るアルフに対し、エドガーは全神経を集中させ、アルフの攻撃をよけており、素人目に見ても、エドガーの行っている事の方が、遥かに負担がかかっている。
そして、そんな攻防が長く続かない事は、必然だった。
「――どうやらあの庶民もここまでのようね?」
試合はこれ以上にない程の盛り上がりを見せ、決着が付きそうなことを予感したベルモットは、試合を見ながら小さく呟いた。
「それはどうかな?
むしろ、ユファメール嬢の護衛騎士は、エドガーに時間をかけ過ぎかと思うな」
「え? それは……どうゆう………」
「まぁ、見てなよ?
面白いものが見れると思うからさ?」
どうゆう意図があるのか尋ねようとしたベルモットに、ユリウスはそれを制するように声を上げ、試合から目を離さないようベルモットに伝えた。
そして、試合は大詰めへと向かう。