悪役なアイツを幸せにしたいッ!! 1-6
試合の合図と共に、一瞬で勝負を決めに来た、ユファメールの護衛騎士、アルフと一撃を、エドガーはすんで受け止める。
甲高い金属音が鳴り響き、試合早々にエドガーとアルフのつばぜり合いになる。
「――流石は、アルバレア剣術中等学園の成績優秀者。
一撃では仕留められませんか」
スフォルツァ王国で、伝統的に受け継がれた、王宮剣術を使うアルフは、余裕有り気に笑みを浮かべながら、エドガーに話しかける。
「まぁ、この程度で終わってしまっては、流石に興ざめですがねッ!!」
アルフは話しながら、相手を押し出すように、エドガーを剣越しに突き飛ばし、エドガーと再び距離を取った。
(――や、ヤバい……、最初の攻撃。
防げたのは、ほぼ奇跡だった……。
たまたま、反射で受けれただけで、勝負が決まってもおかしくなかった)
まだまだ余裕綽々のアルフに対し、エドガーはこの一瞬で実力差を把握し、目の前の相手が自分よりも、一枚、二枚上手である事を感じていた。
「実力がある相手に、最初に攻めさせたのは痛手でしたね?
――ほら、どんどん攻めないと……。
まともにやっても勝機は無いですよ??」
勝つための手段を一生懸命考えていたエドガーに対し、アルフは敵に塩を送るように、口調はまるで生徒に先生が物事を教えるように話した。
(クッ……、流石に無茶すぎたかぁ?
この世界に転生して、念願のアルフォート学園に入学できた事で、テンションが上がりすぎたかもしれない……。
――でも、こうでもしなきゃ、平民の俺がベルモット様に近づける手段がない!!
下手すりゃ死ぬかもしれないけど、ここまで準備してきたんだ! やってやるッ!)
窮地に立たされた事で焦り、自然と冷静さを欠いていたエドガーだったが、決意を固めると、大きく息を吐き、集中した。
「格上相手にこそ、無念無想」
この世界に転生し、剣を教えてくれた師匠に言われていた事を、エドガーはぽつりと一言こぼし、頭を空っぽに、ただ相手の剣にのみ神経を注いだ。
そして、今度はエドガーからアルフへ襲い掛かる。
――――――
エドガーとアルフが試合をする中、ベルモットは茫然にその試合を見つめていた。
一瞬で決着が付くと思われた試合は、未だに決着は付かず続いていたが、素人目から見ても、アルフの優勢は明らかだった。
「――ベルモットッ!」
眺めるように観戦していたベルモットに、彼女の聞き馴染みのある声で、気さくな口調で声が掛かった。
「ここで見ていたのかい?
――どうだい? 君の護衛に付きたいと言った彼は」
ベルモットが声の方へ視線を向けると、そこには古くから、当然のように家の付き合いがあり、同い年でもある友人、王位継承権三位であるユリウス王子がいた。
「ユリウス様……。 ごきげんよう、長らくご無沙汰しており申し訳ございません」
「そんな畏まらなくていい、社交界じゃないんだから。
今の私とベルモットは学生、しかも同い年なのだから……」
「――そうですね……、では、少しだけ崩さして貰います。
ユリウス様は何故ここへ?」
ベルモットは一応関係者である為、エドガーの試合を見届けなければならなかったが、関係の無いユリウスがここに居る事は、ベルモットにとって以外であり、それを訪ねた。
「僕の友人の試合だからね!?
結果も気になるし、きっと面白い試合になると思って」
「ゆ、友人ッ!? あの庶民がですか!?」
ユリウスの意外な言葉に、ベルモットは珍しく取り乱した。
「変かな? 一応、同じアルバレア剣術中等学園卒業者だし、エドガーは成績優秀者。
在学中も何度か話す機会もあったし、普通だけどな」
エドガーと同じ成績優秀者、しかも、今年の卒業生の中でユリウスは、主席で卒業していた為、エドガーと接点があるという事は想像できたが、ベルモットにとって、それはとても意外な答えだった。