悪役なアイツを幸せにしたいッ!! 2-1
◇ ◇ ◇ ◇
「ここが……、俺の部屋ッ!!」
アルフォート学園 学生寮。
エドガーは、自分に与えられた部屋を見るなり、歓喜に打ち震えていた。
「エドガー……、邪魔…………」
部屋の扉を開き放ち、入り口の前で突っ立ていたエドガーに、冷たく後ろから声が掛かった。
そして、エドガーが反応する前に、エドガーは声をかけられた人物に、勢いよく押しのけられ、道を開けるようにして倒れた。、
「おいティナ……、そんな強く退かす事ないだろ」
「ティナって呼ぶな! 私はクリスだ!!」
アルバレア剣術中等学園で、同じように切磋琢磨してきた友人、クリスにエドガーは馴れ馴れしく話し掛け、クリスはエドガーの物言いが気に入らないのか、強く否定した。
「――まぁまぁ、そう怒りなさんな……。
アルフォートの平民の学生寮は、二人一部屋なんだし……、俺が居て良かったろ??」
「良くないわッ!! ホント、なんでバレたんだか…………」
クリスは、プンスカといった様子で起こりながら、自分の荷物を荷捌きし、エドガーはそんなクリスを見て苦笑いを浮かべた。
アルバレア剣術中等学園在学中。
エドガーは前世の知識もあったことから、ゲーム本編で出てきたキャラクターに、積極的に交流を持っていた。
クリスもその一人であり、最初は今以上に、仲良く交流を持てていたのだが、エドガーは仲良くなった拍子に、思わずクリスの大きな秘密を口を滑らし、本人に伝えてしまった。
その出来事自体、アルバレア剣術中等学園卒業間近の出来事だった為、未だにクリスとはぎくしゃくした状況が続いていた。
「――さて、俺も荷物片づけるか……」
クリスに見習い、エドガーもこれから住み始める自分の部屋に、荷解きをし始めた。
黙々と作業を行い、ある程度片付いたところで、不意にクリスから声が掛けられる。
「なぁ、結局どうなったんだ……」
クリスは唐突にエドガーに問いかけ、その質問はあまりにも抽象的だった。
「どう……って、具体的に??」
「ベルモット様の事に決まってるだろ?
それ以外に何があんの……」
ため息交じりに話すクリスに、エドガーは「あぁそのことね」と言わんばかりに、呆けた様子で答える。
「あの後、直ぐに医務室に運ばれたから、詳しい事はよく知らないんだけど、無事ベルモット様の護衛騎士になれたみたいだよ!?
いやぁ~~、一時はどうなる事かと……」
「ホント馬鹿……。
関係ないこっちが見ててハラハラしたわ」
「お? 見ててくれた感じ??」
当事者であるエドガーは飄々とし、クリスは益々呆れたようにため息をつく。
「私は、成績優秀者じゃないから、どんなやり取りがあって、あんな事になったか知らないけど……、あれだけ人が集まってれば気になるだろ? 普通……。
まさか、あんな事になってたとはね……」
クリスはエドガーの決闘を思い返す様に話した。
クリスは自身の言うように、エドガーと違い成績優秀者上位10名の中にはいなかった。
成績で言えば、順位で言えば17位。
多くの生徒がいる中で17位は、相当誇れるようなことであったが、クリスは納得いっておらず、アルバレア剣術中等学園在学中の目標は、成績優秀者10名に選ばれることだった。
「あのまま死んでくれたら、私の順位も繰り上がるし、秘密を知ってる人間も消えたのに……」
「聞こえてますよ~~、クリスさん~~~」
ぼそりと小声で呟いたクリスだったが、その不穏な発言は、ばっちりエドガーに聞こえており、今後一緒に生活する同居人ながら、恐ろしい事を考えてるなと、エドガーは少し恐怖を感じた。
(――はぁ……、もっと仲良かったんだけどなぁ~~、昔は……)
会話は終わり、再び黙々と作業を開始するクリスを見つめ、エドガーは悲しくそんなこと思った。
クリス・エフモン。
『LOYERS』の登場人物であり、主人公の級友。
平民出身である主人公が、悲惨なイジメ等を受けていた時期に、同じ平民出身だという事だけで、主人公を助け、物語を通して、主人公の一番の親友になるキャラクター。
黒に近い青い髪、身長は160cm前半であり騎士にしては小柄、顔は凛々しく、瞳は力強い。
平民でありながらも、品があり、どちらかといえば暑苦しい者の多い騎士の中、クリスは美しい騎士だった。
そして、そんなクリスは女性だった。
エドガーは、簡単な作業をしながら、生前の知識を思い返す。
(平民の男子護衛騎士寮に居たことから、クリスはプレイヤーに男だと認識させていたが、ゲームをプレイする中で、疑惑は深まり、中盤らへんで明かされるんだよなぁ……。
あまりにも親切で、頼りになる事から、主人公も一時は、異性として意識しちゃったりする場面もあったりして…………。
人気もめっちゃあったなぁ……)
「――ぃ、おぃ……、おいッ!!」
物思いに耽るエドガーだったが、意識の遠くから呼びかけられ、最後には大声で呼ばれたことで、エドガーは現実に引き戻される。
「またボケっとしてたな?
夕方だぞ? 飯はどうする??」
「飯??」
「そうだ、飯だよ! 寮だから、この時間から用意され始めるけど、外で取っても別に問題にならんからな……。
エドガーはどうするかと思って」
エドガーはきょとんとした表情のまま、クリスに尋ねる。
「――い、一緒に食いに行くか??」
「はぁ? それで聞いたんだろ??」
「クリスたぁ~~んッ!!
行きます!行きます!何処へでもッ!」
いきなりテンションが上がったエドガーに、クリスははっきりと「気持ち悪い」と伝えながらも、二人はそのまま、寮の食事を取りに向かった。




