少女と剣、造られたモノ達
テスト投稿をかねて、短編を放り投げてみた。ものっそ短いですすみません。
闇が支配する世界の中で、少女は自分自身がゆらりゆらりと揺らめくような感覚を楽しんでいた。それがどこか懐かしいような気がして、ああ、羊水の中とはこんな感じなのだろう、と思い至る。そうしてふっと、その形の良い紅色の唇を嘲笑の形に吊り上げた。
そもそも「造り物」である少女に、母の胎内など記憶にあるわけが無い。
自分が何のために「造られた」のかも、少女は知らなかった。故に、少女はそれを知ることを望んだ。そうして少女は他の「人間」と同じく自分の生の中に、生きゆくうち触れ合うモノ達の中にその理由を探すようになったのである。
「……僕にそれを求めても、意味は無いよ」
不意に、何の前触れも無く、少年の声が言の葉を紡いだ。まるで唐突に現れたかのようで、けれど、まるで初めからその場にいたかのような、自然な気配。銀の髪、銀の瞳の少年はただ無感動な顔で少女を見つめている。そんな少年に向かって、少女はさっきとは異なった柔らかな笑みを浮かべた。
彼は、少女が旅をするうちに出逢い、共に過ごすようになった。姿形も違い、生まれた意味もおそらく異なりはするのだろうが、それでも「造り物」であることは同じだ。口にしなくても、なんとなしに生まれる共感。性格の相性も悪くはないし、何より「性能」の相性が良い。旅の道連れとしては、互いにこれ以上はないだろうとすら思っていた。
「僕は僕として在る理由を探すので精一杯で、君の理由を探す余裕が無い」
淡々と、しかしどこか拗ねたように紡がれる声に、少女は少し困ったように微笑む。意外と、少年がこんな風に感情や不満を露わにするのは珍しいことなのだ。普段は磨き上げた鋼のように涼やかで平坦な、良くも悪くもこの世の全てに興味がないような調子なのに。
自分には少し、気を許しているのだろうか。そうだったら嬉しいな、と少女は思う。と同時に、相変わらず頭の固いヤツめ、と呆れも感じる。そんな混ぜこぜの感情を一纏めにして、軽く溜息。
「そこまで高望みは、しちゃいないさ」
けれど、とまだ幼さを残した少女の声が続ける。
「私は、私だけでそれを見つけられるとは思わない。それに、形あるそれが存在するかといえば、否。だから私は、今は君を握ることで君に映った自分の中にそれを探すのだし、君も、今は私に握られ振るわれることで、私を通してそれを探してもいいんじゃないかな」
疑問というには、揺らぎは少なく、断定というには、不安定な調子だった。けれどそれに不快感を見せることも無く、むしろ当たり前の答えを聞いた様な顔を、少年はしていた。そして小さく、そうだね、と呟いてその瞳を伏せる。どうやらご機嫌は直ったらしい。
少女は満足げに微笑み……―――瞳を開いた。
「朽ち果てるには、まだ、時間は沢山あるんだ」
少女は優しく、傍らに立てかけられた銀の大剣の柄を、猫か犬にそうするように撫でる。そうして立ち上がりざま伸びをした。背中の半ばほどで切りそろえられた、真っ直ぐな黒髪がふわりと揺れる。まだ未発達のすらりと滑らかな肢体には、およそ少女らしいとは言い難い動きやすさを重視した服。その上に、申し訳程度に要点だけカバーした革の防具。さらに、くるりと纏ったのはくすんだ土色のマント。可憐な少女に似つかわしくない、旅する冒険者の様相。
そうして仕上げとばかりに、少女は己の身の丈ほどもある銀の大剣をもう一度撫でてから……苦も無くひょいとその背へ携えた。
「さあ、行こうか」
今度はより断定に近い確かさで、少女は自分以外誰もいない空間でそう言った。独り言ではなく、そこにいるもう一人に声をかけるかのように。
踏み出した足の下で、やや古っぽい木の床がギィ、と小さく悲鳴を上げる。そんな些細なことすら楽しむかのように、少女は軽やかな足取りでその部屋をあとにした。
朝日の光は燦々と美しく、澄んだ輝きを窓からもう誰もいない部屋へ注ぎ込んでいた。
「造られた」少女と「意思在る剣」の少年。二人の会話。
それは夢の中での会話であり、またテレパシーとかそういう類の会話でもある。
ただ、二人とも自分自身に「何の理由があって造られたのか」ということを探している。
「それ」に明確な「答え」が無いと知っていながらも。
学生時代に、とあるハイファンタジーと見せかけたほんのりSFじゃねこれ?って小説に影響されて書き殴ったやつに加筆修正加えたモノ。原文は稚拙すぎて見るに堪えなかったミセラレナイヨ。
本当にこのワンシーンだけ書きたくて書いたやつなので、これの前もなければ続きもないし、続き書く気もありませぬ。