決着
終わらなかった……
「『剣聖未刀』まるで俺が極悪人みたいな言い方止めてくださいよ」
その言い方が既に悪人なのを気付いていないのだろうか?
気付いていなそうだな……
「気付いていなかったのですか?」
ありがとう。『剣聖未刀』、我等が代弁者!
というか、ここまでハッキリいわれたら流石に振る舞い変えてくれるはず。
「まぁ、気付いてましたね」
駄目だわ、この愚図開き直っていやがる。
「あれ?今後ろから、凄くけなされた気がしたのだけど」
そう言い、祭り囃子が横目でこちらを見る。
こんなふざけているのに、『剣聖未刀』から目を離さないあたり、この人も実力者だよな……
そんなことを考えながら、俺は一点の曇り無き微笑みで、祭り囃子の問いかけに答える。
これぞ、日本人必修必殺技《無言で微笑む》!
流石の実力者、祭り囃子もこの洗練された技の前には無力。
「新人君、新人君それ、同じ日本人には効かない事知らないの?」
「やっぱり、祭り囃子さん日本人でしたか」
「そもそも、ここは日本の地獄だからね」
「あれ?でも、俺何人か外国風の顔の人会ってますよ」
「あれは、ダブル。分かりやすくいえばハーフの人々」
「ハーフ!?。ハーフってあれですか?3000年前半に起きた、『純血主義テロ』によって虐殺され、その後数を減らした美形集団。あのハーフ!」
「うわっ、なにやってるの未来の方々……」
祭り囃子さん、流石にこれは引くよね。逆にこれ引かない人は頭おかしいと思うけど……
だって、これが原因で人口が大減少して大変なことになったのだから……
「話が盛り上がっている中、申し訳ないのだけど、後の話は死んでからしてくれるかな?」
そうだった今、戦闘中だよな。すっかり忘れてた。
まったく、これは祭り囃子のせいだな。
そんな、完璧な理論武装をしてから祭り囃子を見る。
祭り囃子は、驚き呆れた表情をしていた。
「抵抗しても、無駄たからね。そこの新人には手加減してあげていたけど、君にはするつもり無いから」
そんな、『剣聖未刀』からの最後通告に対して、祭り囃子は不敵に笑い。
「抵抗?手加減?まるで、まだ戦闘が終わっていないような話し方では、無いですか」
いや、事実終わってないからな。
「笑わせないで下さいよ。勝負なんて俺がここに来た時点でそんなのとっくに決まってます」
その言葉の直後、祭り囃子は俺の首を掴んで空中に飛び上がり、『剣聖未刀』は斬撃を放つ。
しかし、その斬撃は俺の足を切り落とすにと留まった。
直後、爆風が俺たちを襲い俺達は二人揃って空へと打ち上げられたからだ。
上空から地上を見下ろすと、それはもう絶景といわざる得ないほどに綺麗な花火が、城下町を彩っていた。
「どうだ?ランカーに挑んだ気分は?」
どうだ?って聞かれてもな……。『剣聖未刀』は怖かった、表面的には優しかったがランカーとしての威圧感だけで正直、異が痛かった。
そもそも、玉屋の周囲に集まっていた有象無象の実力者だけで十分な恐怖だ。
けど、最後まで生き残ってランカーを仕留めた。
俺は逃げ回っていただけだから、正確には仕留めていないが、祭り囃子だけでは玉屋にすらたどり着けなかっただろうから、俺の功績と言っても過言では無いだろう。
祭り囃子さんは、何も言わずに勝手に囮にされたのはムカつくけど、助けてくれたし。新人を利用するのはモラル的にどうかと思うが、そのお陰でランカーを倒せた。
最終的に言えば、そうだな……
「めっちゃっ、楽しかったです!」
「それは良かった。じゃ次あったら容赦なく殺すから」
その言葉に、俺は少し疑問を抱いた。
言うなれば、修学旅行の集合場所で「明日からの修学旅行楽しみだな」と言っている人を見かけた、そんな気分。
「なに言っているのですか?」
「あれ?まだ、囮にしたの怒っているの?器の小さい男は殺されるよ?」
「いえいえ、それはそこまで怒って無いです。助けて貰いましたし」
器の大きい男ですから。
けど……
「祭り囃子さん、ポイント結構もってますもんね」
俺は、そう言うが早いか刀を抜き祭り囃子を貫く。
「ずいぶんと、なれたものだな、この世界」
「季語抜けてますよ」
祭り囃子は静かに消えていった。最後の言葉は果たして聞こえていたのだろうか?
ま、そのうち分かるだろう。
俺も、長くは持たないし案外すぐに会えるかな?
なにせ、火薬の勢いで空高くまで舞い上がったのだ落下の衝撃で死ぬことに成るだろう。祭り囃子さんが居れば、[空走り]の特性で空中から階段のように降りることも出来ただろうけど、仮に落下で死なない高さまで来たのなら、あんな風に隙を着いて殺すことなど出来なかったに違いない。
あぁ、誰か空中で切ってくれないかな?
でも、駄目だわそれだとポイント取られる。
結局、落下死か。
痛いのかな?痛いよなせめて受け身とか取れるかな?
あれって足無いと意味か無かったけ?
そんなことを考えていると、背中に僅かに衝撃を感じたのを最後に、感覚が無くなる。
表示される二十秒。
……
それは不思議な感覚だった。視界もある、音も聞こえる、匂いも感じる、味覚は良く分からないが多分正常だろう。
しかし、それ以外の全てを感じることが出来ない。
足は地面に着いているのに足裏に何の感触もない。周囲の砂や草は風に舞ったり揺らいでいるのに風も感じないし、温度を感じない。
歩こうともしてみるが、地面の感触がしないために上手く体重移動を行えず、すぐに転んでしまう。
そんなことをして、いた時。
「やぁ、新人君。先程ぶりだね」
後ろから、俺を呼び止める声がした。
振り向いて見ると、どこかで見覚えのある……気がする人が立っていた。
やべぇ、全く思い出せない。誰だっけなこの人。
少し、記憶を遡って考えてみたがやっぱり思い出すことが出来ない。
てか、祭り囃子さんや『剣聖未刀』の印象が強すぎるのだ。なにせ、最初に出会った『剣聖未刀』を除くランカーさえ顔が何となくでしか思い出せない程に。
これは、正直に誰か聞いてみた方がいいかな?
当てずっぽうに答えて違うより、ましだよな。
「えっと……どこかで会いましたっけ」
「覚えて貰えていませんか。そうですね、『剣聖未刀』にあなたの前で真っ二つになった人と言えば分かりますか?」
「あぁ!あの、ヤバイ人!」
思わず口にしてしまった言葉を後悔しながら、俺はとっさに口を両手で塞いだ。
同時に思わず瞑ってしまった目をゆっくりを開きながら、相手がどれほど怒っているかを確認する。
落ち込んでいた。
もう一度言おう。あんな言葉に対してこの世界の人が落ち込んでいた。
これならまだ、鳥が恐竜に退化したって方が何倍もあり得る。
それほどの異常事態なのだ。それほどあり得ない事なのだ。
たかだか、罵声くらいで落ち込むならこの世界で実力者に成れるはずがないのだ。
「そうそう、先輩をいじめるでない。若者よ」
やっぱり、俺は相当混乱していたらしい。
この人が後ろにいたのを気がつかないなんて。
俺に声をかけてきたのは、『剣聖未刀』だった。
次こそ終わらせて見せます