ランカー
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くそっ、逃げても逃げても新しい奴が襲ってくる。
あれから俺は、必死に逃げ惑い続けていた。もう体力は底をつき、あまりの疲労感で判断力も低下し始めている。
何度も何度も、捕まって死んでしまおうかと思った。
それでも、逃げていたのは祭り囃子の存在のお陰だ。
俺は、必ず生きて祭り囃子に遭わなければ成らない。
そして……
この手であのクズを殺さなければ成らない!!!
実力がかけ離れているなど、どうでも良いことだ。
腕がもがれ足が切り落とされようとも、這いずって進んで噛み殺す!
殺されようとも、肉片一つ残さず消されようとも、この魂をもっても呪い殺す!
その執念一つでここまで逃げ続けてきた。
とわいえそれは、モチベーションつまり気持ちの問題だ。
ここまで逃げ続けてこれた理由は、ここに集まっている人々が軽く俺を殺せる連中であったからだろう。
連中にとって警戒すべきは俺ではなく、他の奴等に火薬が渡る事だ。
俺相手ならすぐに奪えるが、他の奴等に火薬が奪われるとそうはいかない。
だから、俺を襲いかかっている奴等同士で戦闘が起こる。
だから、俺は何とかこうして逃げる事が出来ている。
とはいえ、それもそろそろ限界が近い。
いくら、他の奴等同士で戦闘が起こるとはいえ、それでも何人かは俺を狙ってくる。
そいつらからの攻撃は自力で避けるしかないが、既に疲れきれた体ではそれすらままならず傷は増えるばかりだ。
一度この危険地帯から逃げ出して、最低限でも体力を回復しないとならない。
しかし……
「火薬採取切り!」
俺が疲れから僅かに体勢を崩したことを、見つけた者が切り結んでいた者を蹴り飛ばしこちらに襲いかかってくる。
が、それは悪手だ。
「採取妨害切り!」
即座に別の一人が、その者の妨害に斬りかかる。
「助太刀漁夫の利切り!」
これを好機と判断した、最初に蹴り飛ばされた者が刀を投げつける。
投げられた刀は、使用者の手を離れているにも関わらず空中を縦横無尽に飛び切り結ぶ二人の喉を貫く。
「漁師暗殺切り!」
しかし、手から刀を手放してしまった為に他の者から呆気なく殺される。
「暗殺者処刑切り!」
それをまた別の一人が切り殺す。
こんな地獄から逃げられっこない(T-T)
さて、泣き言は終わったし。いい加減現実を見よう。
俺の前には、先程の弱肉強食を生き残った強者が一人が。
俺は既に満身創痍。
向こうの狙いはありもしない火薬。
……
詰んだな。
これは、詰んだな終わったな完全に死んだな。
「新人でしょ君、流石に切るの可愛そうだから、火薬くれたら。
苦しまないよう頭を貫いてあげるよ」
うぁ、紳士的な人だな。
けど火薬もっても無いんだよな。
「ちなみに渡さなかったら?」
「君がどこかに隠している可能性が有るから、軽く拷問かな?」
前言撤回。こいつ、ここでも特にヤバイ部類の奴だわ。
はぁ、せめて。
「一矢報いて見ましょうか!」
ただじゃ終らねぇ!
「やっぱりそうなるよね!最高だよここは!」
傷だらけの肢体を意思だけでなんとか持ちこたえさせ、力を込め、刀を抜いて、正眼に構える。
相手の一挙一動に構っておる余裕はない。
刀の特性は不明。
満身創痍の初心者VS軽傷の実力者。
それでも勝つ!
見極めろ、相手の本命の一撃を。それを越えて半歩先に相手を切れ!
限界まで張り詰めた神経が、完全に集中した脳が俺に、俺だけに加速した世界を与える。
一秒ですら長く感じる世界のなかで、相手の動きが早く見える。
多分この状態でなければ、気がつけば
死んでいた気がする。
だが!見える。今なら見える!
タイミングを合わせて、相手を切れ!
そして、相手は真っ二つになった。
俺の刀が振られる前に……
死体が消えた先にいたのは、満身創痍の美少年。
2mの大太刀を鞘にしまい背負う美少年。
彼と俺の距離は30m程ある。
しかし、
見間違う訳がない。忘れる訳がない。彼はランカーだ。
俺が探し続けていたランカーだ。
満身創痍なのはどちらも同じ。いや、むしろ片腕失っている向こうの方が重症だ。
それでも、勝てる気がしない。
この人に何をしても何度挑んでも、勝てる気が全くしない。
だが、この祭り最後の相手としてこれ以上の相手もいない。
とはいえ、どう戦うか。相手はランカー。何位かは知らないが、間違いなく羽虫と惑星位の差が俺たちにはある筈だ
。
下手に攻めても攻めなくても簡単に倒されるのが目に見えている。
「新人さん、私と戦うつもりですか?」
いきなり、美少年が話しかけてきた。
「当然です。祭りですから」
「そうですか、勝てると?」
勝てるか?
そんなの……
「勝ちますよ。自殺志願は無いので……」
その言葉は自分でも驚くほどストンと口から出てきた。
「名乗りを、あなたの名を聞かせて下さい」
「一宮公太。未だに若輩の身だが、その首頂こう」
うん、決まった。素晴らしい完成度だな。中学の頃からちょくちょく妄想……じゃなくて練習したかいがあったな。
「私はランカー第2位『剣聖未刀』、私の技。これをもって死道の手向けとしよう」
息を整える。
幸い、他の奴等はこの美少年、『剣聖未刀』を恐れて逃げ出している。
彼は、己の刀を中段に構えた。
俺は恐怖と興奮で震える身体を落ち着かせながな、冷静に考える。
俺と彼とをとりまく状況を。
まず、実力において俺は彼にはとうてい戦いにならないだろう。
しかし、互いに満身創痍全力は出せない。なら、戦いかた次第なら不意を打つことも可能かもしれない。
なら、どうする?
この人に有効な攻撃はなんだ?
どの攻撃ならこの人に致命傷を食らわせられる?
簡単だ、火薬なら間違いなく致命傷だろう。
祭り囃子はこの人を火薬で仕留めようとしていた。
あのクズには、恨みもあるし間違いなく後で殺すが、あの言葉に嘘は感じなかった。
なら、この人に火薬をかきけすような手段は無いという事だ。
つまり、勝つためにはこの人に殺される前に玉屋に付きこの人ごと吹き飛ばす。
これしかない。
この人のお陰でここら一帯にさっきまでいた大勢の人はいない。
さっき、逃げてる中で玉屋の位置も把握している。
後は、俺がそこにたどり着けるかどうかだが、この人は俺が火薬を持っていると思っている筈だ。
なら、火薬の存在を仄めかして牽制することは出来る。
「考えは纏まりましたか?」
距離を詰めないのを不思議に思っていたが、待っていてくれたのか。
「ええ、あなたを殺す算段を着けましたよ」
俺は感謝と敬意を込めて返答する。
「では」
「尋常に」
「「勝負!」」
俺は、この時気を抜いてはいなかったが、油断はしていた。
彼と俺との距離は30m。
向こうは確かに刀を構えている。なら、先手はこちらにくれるつもりなのだろうと。
だが、それが間違いであることに俺は、すぐに理解した。
彼の刀に切られた事で……
どうでしたか?
次回もお楽しみに