刀の特性
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あの後、俺と祭り囃子は下らない口論を少しの間続けてから。
「いい加減、移動しないか?今日中に仕掛けられないと手間が増えてお前の負担が増えるぞ」
という、祭り囃子からの脅しに俺が屈する形で終わった。
「ところで、どこで火薬と筒を手に入れるのですか?」
「そうだな、ここがどこを再現しているかわかるか?」
「城下町ですか?」
「そっ、正確には江戸時代の城下町だな」
なんでわかるの?歴史オタですか?
「祭りでは、大抵ここが再現される。明らかな武器は再現されないが、娯楽類ならギリ再現される。つまりだ、ここには玉屋が有るわけだ」
「玉屋?」
なんだそれ、少なくとも俺の近所にはそんな店見たこと無いぞ?
「あぁ、そっか新人には花火屋の方が分かりやすいよな」
「花火屋!」
えっ、ここ花火有るの!それなら、火薬も筒もすぐに手に入るあれ?でも待てよ……
「でも待ってください。そんな強い道具が有るならもう、だらかしらが取りに行ってもう無いのでは?」
なにせ、今日は三日目だ火薬の強力さは、銃を知るものであれば嫌となるほど知っているだろう。
それが未だに使われていないなんて、あり得るのだろうか?
「勿論、取りに行ってるさ。けど取りに行ったのは少しじゃない、殆ど全員が火薬を目指してスタートと同時に玉屋を目指した。けど、そのせいで玉屋の手前で大乱闘が発生している。そんなわけだから、まだ間に合う筈だ」
あぁ、だから祭り囃子は時間を気にしていたのか。
で、時間経過で増える手間は誰かに火薬が取られていたら、その人から取り返さないとならないからか。
その手間を俺に押し付ける算段と言うわけだな。
そりゃ、断ったら切られそうだし社畜のような返事をしますが……良いように使われて嫌だなぁ、せめて情報だけ貰おう。
「それは、わかりましたが。気になったこと聞いても良いですか?」
「なんだ?火薬を取る作戦の事か?とにかく切って走ってごり押ししかないが」
「それ自殺ですよね!そうではなくて、さっきの空中を蹴って行くのどうやったら出来ますか?」
空中を蹴るというのは、一見地味に見えてしまうかもしれないが、ものすごいアドバンテージだ。
なにせ、三次元的な戦闘を可能にするし、祭り囃子がしたように高所にいる敵に最短距離で移動できる。高所からの状況の把握や戦闘からの離脱など、出来る幅が多い。
これを習得出来たら、間違いなく格上に対する切り札に出来る。
「あれは、刀の特性だよ」
しかし、現実はそうは甘くない。
「特性ですか?」
「俺たちが持つ刀は成長する。これは、もう体験しているだろ?」
「はい、たしか[無銘]から[鬼夜]に成りました」
「そんな感じに刀は人を切るほど、使用者の戦闘方法や成した偉業、性格なんかを踏まえて唯一の特性を確立して行く」
「じゃもっと切って行かないと特性は獲得出来ないわけですか」
「そうだな、基本的に刀の特性は限定的であるほど強力な物が多いな。俺の[空走り]なら足場から何m以内のみとかだな、詳しい数字は教えないからな」
そこまでは期待して無いですよ。
「ちなみにランカーの刀にはこの常識は通用しないからな」
「という事は祭り囃子はランカーの刀の特性知ってるんですか?」
「ランカー第4位の特性は有名だからな」
「第4位って、どの人ですか?」
「中年の人」
「OK、わかりました」
あの人か、確かにあの人だけ浮いてたもんな。
「ランカー第4位『絶刀』の刀[絶刀]の特性は何でも切れる。切ったものは消滅するだ」
「消滅!?」
第4位に切られたら蘇生出来ないって事か!?
「勿論、俺たち人間は蘇生するぞしかし、そこらの物はもちろん爆風だって消せるし、刀だって使用者が蘇生するまでは消える事になるし、かすっただけで死ねるからな。この刀でも上に三人居るから、笑える理不尽さだな」
そう口にする、祭り囃子はどこまでも楽しそうに笑っていた。
「ですね、本当に笑えます」
いや、俺も気付けばここに来てから一番笑っていた。
なにせ理不尽な存在がいて、その理不尽にこれから一矢報いる。
こんな楽しい事に心が弾まない筈がない。
そしてもし、これが成功したのなら……あぁこれはヤバイ、絶対に楽しい。
なら、やってみよう。どうせ祭り囃子は俺を逃がしてくれないだろうし、意地でも楽しんで見せるさ。
………………
そんなことを思っていた自分をぶん殴ってやりたい。
飛び交う断末魔と世辞の句。刀から発生する雷や炎、周囲の者を切り捨てた強者が次の瞬間に首を斬られる地獄。
そんな場所で俺は一人、逃げ回っていた。
迫り来る斬撃を何とか回避し、路地裏に逃げ込む。
呼吸を整えようとしたとき、上からさっきとは別人が襲ってくる。
とっさに逃げようとするが、相手の刀が伸びて迫ってくる。
しかし、焦って足下の何かにつまずき転倒したお陰で急所を外れ、左腕を貫通するに留まった。
なんで俺がこんな目に遭っているか、事はほんの数十分前に遡る。
……………………
「とりあえず、大乱闘の状況がわかるとこまで来たけど、あの中に混じってで玉屋目指せる?」
あの、世界の終わりを告げる天変地異に混ざって生きていけるか?
「出来ると思いますか?」
「出来るわけ無いよな」
「わかってるなら聞かないで下さいよ」
「もしかしたら、行ける自信あるかも知れないしな」
それは、自信じゃなくて過信だから。蛮勇を誇る馬鹿の思考だから。
「で、もう一度聞きますが作戦は例のからあれですか?」
「当たり前じゃん。ちゃんとした作戦たてても、刀の特性一つで台無しだよ?なら、勢いと実力に任せてごり押しが一番だよ」
確かにそうだよな。理屈はわかるけど……不安だ……
「そんなに作戦無いのが心配なのか?」
「心配ですね!」
「そっか、そっか、なら作戦を一つ教えてやる」
そう言って祭り囃子は手を差し出してくる。
俺がその手を握ると、勢いよく回り始め俺を回転させる。
「お前が周りの目を引き付けている間に俺がこっそり玉屋に侵入する」
「まさか投げるつもりですか!死にますよ、これは死んじゃいますって!」
「安心しろこれくらいじゃ俺たちは死なないから」
俺は、その言葉を聞いた瞬間内臓が少し持ち上げられる様な感覚を体験し、次の時には全身を強打していた。
確かに死んではない。死んではないが、死ぬ程痛い。
何時も経験する斬られた痛みと違い、慣れない痛みだし心の準備も出来ないうちに投げられたので、本当にツラい。
しかし、そういたがってもいられない。
ここは地獄だ。
既に派手な登場をした俺は絶好の餌さとして周囲の奴等から目をつけられてしまっている。
幸いここにいる人の目的は、俺を殺すことではなく火薬を手に入れる事だ。
逃げるのに徹していれば、それ程危険は無いだろう。
けど、その前に祭り囃子を睨んでおこう。投げられたのも、勝手に囮にされたのも気に入らないし……
そして、俺は見た。
祭り囃子が口に両手を添えメガホンの様にするのを、そして。
「そこの新人、火薬を返せ!」
そう叫ぶのを。
周りの人の気配が変わるのを、肌で感じた。
この瞬間俺は、火薬を取るついでに殺してポイントにする数多くの対象の一人から、火薬を手に入れる為に殺す唯一の対象に変わった。
祭り囃子は、気付くと消えていた……
また読んで下さい