許嫁と関係が進んだ朝
体育祭の疲れがまだ残っている翌日。
ウチの学校では平日に体育祭が行われる為、本日も普通に授業が行われる。
昨日までの非日常から一気に現実に戻される感じ。
小学校や、中学校では土、日に行われていたので月曜日が代休って流れだったのに、高校に入ってから何だか損した気分だ。
そんな事を考えながらベッドから起き上がり部屋を出ようと扉を開けると――。
「キャ……」
可愛らしい悲鳴が聞こえてきたので、こちらも「おっ……」と声が出てしまう。
「お、起きてたんだね」
「もしかして……起こしに来てくれたのか?」
聞くとコクリと頷く。
――あー……しまったな……。ここ最近、シオリが俺の事避けてたから自力で起きてたのが根付いて今日も普通に起きてしまった。
これならたぬき寝入りかましてシオリの美声でおきたかった。勿体ない事したな……。
損得勘定を心の中でしていると「えいっ」と、シオリがいきなり抱きついてくる。
「し、シオリ!?」
「や……その……起こしてあげたかったけど、出来なかったから、その代わり」
前言撤回。これはこれで大いに有りだな。
「――目、覚めた?」
「うーん……まだかな」
とっくに覚醒しているが、彼女に小さな嘘を吐いて抱き返す。
「ちょ、ちょっと……コジロー……。ホントに目、覚めてないの?」
「うーん。もうちょい」
「こ、このままだと学校遅刻しちゃうよ? それにご飯も冷める」
だからおしまい、と言わんばかりに彼女が抱擁を解くので素直にそれに従う。
確かに彼女の言う通りだが、もう少し抱き合っていたかった。
そんな目覚めて数秒で幸せな時間を過ごすと食卓には鮭定食が並んであった。
「お、美味そう」
「今日は朝から調子が良い。――早く顔洗って一緒に食べよ」
「すぐに行く」
俺は素早く、洗顔と歯ブラシを終えていつものダイニングテーブルに座る。
「――いただきます」
「いただきます」
何だか久しぶりにシオリと朝食を食べる気がする。
最近、朝食の時は作り置きだけしてさっさと学校に行ってたので、こうやって朝から彼女とご飯を食べれるのは嬉しい。
「美味しいな」
「ふっ。コジローはこんな朝を迎えられて私に感謝すべき」
「確かに。――ありがとうシオリ」
素直に言うと、シオリは頬を軽く赤く染める。
「なんか、素直に言われると困る……」
「俺はいつでも素直だよ」
「そんな事ない。天邪鬼だよ」
「お前がな」
そう言ってお互い見合うと微笑み合う。
本当に最近までの光景が嘘みたいに幸せである。
「――ね? コジロー?」
味噌汁を啜っていると名前を呼ばれるので「ん?」と返す。
「今日、一緒に学校行って良い?」
「そりゃもちろん良いけど」
そう言うと嬉しそうな顔をして続いて質問してくる。
「一緒に帰っても良い?」
「もちろん」
答えるとシオリは安堵したような顔をする。
「それじゃ、またいつもみたいに迎えに行くわ」
「待って」
俺に制止をかけると「私が行く」と言った後に首を横に振る。
「私が行きたい」
「良いの?」
「うん。行かせて?」
「シオリが良いなら全然良いよ」
答えるとシオリは嬉しそうな顔をする。
「それじゃ、放課後迎えに行くね」
♢
朝ごはんを食べ終えると、約束通り二人で学校へ向かう。
避けられる前にも一緒に登校したりしたが、今日はまた景色が違って見える。
梅雨の空は今日も灰色の雲を無限に広げて今にも雨が降りそうだ。
――雨?
「――あ……」
「どうかした?」
突然、声を出したからシオリが隣で首を傾げて聞いてくる。
「今日、降水確率六十パーセントなのに傘忘れた」
「ふっ。まだまだだね」
今からテニスでもするのかと錯覚する台詞をシオリが言うと、ドヤ顔で鞄から折り畳み傘を取り出した。
「一つあれば十分」
「もしかして、相合傘?」
「こ、コジローがしたいならしてあげるよ」
そう言われて「あー……」と微妙な反応を示すと、不服そうな顔をされてしまう。
なので慌てて言い訳をする。
「違う違う。シオリと相合傘するのは素敵な案だし、正直にしたい」
「じゃあ、何? 今の反応」
「いやー……。雨に濡れて風邪でも引いたらシオリが看病してくれるのかなー? って」
「自ら風邪になりたいなんて……やっぱりドM?」
「違うわいっ! ――その……。ナース服で看病とか……」
願望をぶつけるとシオリは呆れた顔をする。
「変態は風邪ひかないから大丈夫だよ」
「でもそんな変態の事が――?」
「な、何?」
「す? す?」
「うざいよ」
「かーらーのー?」
「気持ち悪い」
「そーしーてー」
「や…。ホントうざい」
本気でうざったらしい顔をされて俺はシュンとなる。
そんな俺の反応にシオリは手を握ってくる。
「うざいけど……。手繋いであげる」
「シオリ」
俺の表情がパァっと輝くとシオリはボソリと「チョロいね」と言われてしまった。




