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許嫁と幸せな時間

 体育祭は午前の部で俺の出場競技は全て終了。

 後は余生を楽しむ様にボーッと他の人が頑張っている姿を見つめている。


 内容は入って来なかった。


 俺の頭の中にはシオリの事でいっぱいだったから。


 今すぐ近くに行きたい。でも、学校だし、体育祭だし、まだシオリの出場競技残っているしで、彼女の所に行くのを我慢する。


 ――そういえば、冬馬と四条の姿が忽然と消えたが……。二人は一体何処に行ったのだろう。昼もいなかったので、一緒にご飯を食べる事も出来なかったな。


 シオリも、どうやら一緒に競技に出るクラスの人達と食べてたから、そこに割って入る覚悟までは持ち合わせてなかった。


 俺から逃げる気でいたから事前に対策していたのだろう。


 おかげで、更にシオリに近づきたい欲求が強くなる。




 体育祭が終了して三波先生に捕まった。


 相変わらず俺に頼み事を持ってくるが、こんな事もそろそろ無くなると思うと無性に悲しくなり、快くOKを出したのが間違いだった。


 体育祭の後片付け。


 どうやら部活別で片付けを分担していたみたいだが、冬馬と四条の奴等がボイコットしたみたいで人手が足りないみたいだ。


 夏希先輩と五十棲先輩は「青春だなぁ」なんて言って後輩のオイタを見逃す様な言い方。


 俺も、まぁ世話になったし片付け位するか、って訳で映画研究部二人の代役を任されたのであった。


 ――結局、家に着いたのは定時よりもかなり遅い時間となってしまった。


 おかげで俺のシオリに近づきたい欲求はリミットオーバーし、爆発寸前である。


 そんなだから妄想が膨らんでしまう。


 想いを伝え合ったから――。




『ただいま』


 家に入ると、トテトテとシオリが玄関まで迎えに来てくれる。


『おかえりなさい』

『シオリ』


 ただいまのハグをするとシオリが優しく抱き返してくれる。


『ふふ。お疲れ様。今日は疲れたでしょ? ご飯にする? お風呂にする? それとも……わ・た・し?』


 そんなんシオリ一択やろ!!




 これだよこれ。うんうん。間違いない。これは激アツの展開だな。


 妄想を膨らませて玄関に入る。


「ただいま……?」


 期待を込めて放つが、トテトテもドスドスもバタバタという音さえ聞こえて来ず、帰って来たよ、の言葉が虚しく玄関に響いただけだった。


 リビングに入ると、いつも通りダイニングテーブルでヘッドホンをしながら読書をしているシオリが俺の存在に気が付いて「おかえりなさい」と、いつものテンションで言うだけだった。


 あれ? さっきの熱い抱擁や接吻は白昼夢なん? と疑うレベルで日常な風景。


 俺の妄想はまるでガラスが割れる様に砕けてしまった。


 期待していたのと違い、俺はフラフラっとソファーに腰掛ける。


 すると、すぐにシオリが首にヘッドホンをかけて俺の隣に座る。


 座った距離もいつも通りだったので、不安になりシオリに問いかけた。


「俺達ってさ……。その……。お互い好き同士……だよな?」


 尋ねるとシオリは黙ってコクリと首を縦に振る。


 それだけで、俺の気分は高揚してしまい、ニヤケそうになる口元を何とか締める。


「俺達の関係って許嫁のまま? それとも恋人?」


 聞くとシオリは難しそうな顔をして考え込む。


「わ、分かんない」


 考えた結果、シオリは困った様な声を出した。


「だよな……。こんなパターンの人って他にいるのかな?」

「多分いないと思う。私とコジロー……だけ」


 そう言われてくすぐったくなる。


 この世界で、こんなレアなパターンをこんな美少女と体験出来るなんて、俺は何て果報者なんだ。


「しかし……レアパターン過ぎてどうして良いか分からないな」

「何が?」

「うーん……。両想いなら恋人らしい事をした方が良いのか……?」

「恋人らしい事……」


 シオリは呟いて考える。


「頭を撫でる……とか恋人っぽい」

「うん。やってるね」

「そ、そうだね……」


 何か論破したみたいになり、更にシオリが考える。


「膝枕とか?」

「やってるねー」

「そうだね……」


 更に論破した感じになり、またまたシオリが考える。


「ギュッて抱き合う」

「いや、その……やってるね……。それも、ついさっき……」

「そう……だね……」


 力尽きたのか、シオリは考えるのをやめた。


「あのさ……」

「ん?」


 シオリが可愛らしい声を出して首を傾げる。


「改めて考えると……。俺達……想いを伝える前から……結構イチャイチャしてたんだな……」


 照れ笑いを浮かべながら言うとシオリも顔を赤くする。


「そ、そうだね……。で、でも、わ、私はコジローの事が好きで、両想いになりたかったから、そういう事したん……だよ?」


 か細い声で俺の心臓にハートの矢が突き刺すかの様な台詞を言われてしまう。


「俺も……だな……」


 つい言葉に出して言うと、何とも言えない甘い空気が流れている気がする。


「うん……。だからさ、別に無理して恋人らしい事なんてしなくても良いんじゃないかな?」

「そうかな?」

「そうだよ。いつも通りで良いと思う」


 そう言ってシオリは俺の手をギュッと握ってくる。


「こうしてコジローといるだけで私、幸せだよ」


 天使の微笑みで言ってくる内容は、先程の俺の妄想がいかに浅はかだったかを知らせてくれる。


「俺もシオリといるだけで幸せだ」


 そうだ……彼女といるだけで幸せなんだ。これが両想いなんだ。


 お互い見つめ合うと、つい笑みが溢れて握った手に力を入れる。


 そんな甘い時を時間を忘れる程に長く過ごした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分たちの以前からのイチャイチャ度合いに、いまさらながらに気付くやつら。 まあ、結局告白しようがどうしようが、何も変わらんと/w
[一言] 甘い空間ごちそうさまです。微笑まです。 それで作者さん。コーヒー一杯だけ奢ってくださいませんか?
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