許嫁とアウトレット①
結局、ゴールデンウィークに入るまでシオリは行きたい所を教えてくれずに初日を迎えてしまった。
もしかしたら忘れられてる? とおもったが「な? ゴールデンウィークどうする?」なんて聞くのもいやらしい為、我慢していたんだけど――。
その不安が今朝解消された。
「アウトレット……?」
休みの日だから存分に寝ようと昨夜は夜更かしをしていた。
しかしながら俺の安眠は冷徹に無双されてしまう。
彼女に従い、眠たい身体に鞭を打ちリビングのダイニングテーブルに行くとモーニングダークマター達が出迎えてくれていた。
この前の件もあり、慎重に食べ始めたが、どうやら今日のは大丈夫な暗黒物質だったらしい。
口いっぱいに広がる美味を楽しんでいるとシオリが「今日アウトレットパークに行く」と言い出したから聞き直した。
「不満?」
「いやいや……。全然そんな事はない。何か買い物でもあるのか?」
「ある。大事な用が」
「ほほぅ……。でもさ……アウトレットって田舎町にあるイメージなんだけど」
「まさしく。行きたい所は田舎町」
「足がなくない?」
俺の知識が乏しいだけかもしれないが、アウトレットパークには今まで数回しか行った事がない。
だから詳しくはないが、近くに駅がないから車等の交通手段で行くしか方法がないのではなかろうか。
「問題ない」
そう言ってシオリがスマホを見してきた。
画面に映し出されているのはアウトレットパーク直通バスのチケットだ。
「へぇ……。今って直通バスとかあるんだな」
「片道千円」
「安いな。それって自家用車で行くより安上がりなんじゃない?」
ガソリン代と高速代を考えると、バスって本当に安いよな。それってバス会社に利益あるのか? ――あるからやってるのか……。
「ただし平日のみ」
「なんだ。じゃあゴールデンウィークだから高かったんじゃない?」
聞くとシオリは鼻で笑ってくる。
「しれたこと。我が目的の為にはバスの交通費などゴミみたいなハードル」
「お、おおん……」
いつになく気合いの入っているシオリ。もしかしたら俺と出かけるからか? そうだと……シンプルに嬉しいな。
「さ、早く食べて行くよ」
「あいあい」
♢
家から電車で都心の方までやってくる。
本当は待ち合わせとかしてさ――。
『ゼェ……ゼェ……ごめん待った?』
『ううん。全然待ってないよ。私が早く来すぎただけ。だって今日が楽しみだったから」
『シオリぃ』
『コジロー凄い汗。ふふ。拭いてあげる』
『あ、ご、ごめん。ハンカチ洗って返すよ』
『全然良いよ。コジローの汗、別に汚くないし。ほら行こっ』
『うん!』
ギュッと手を繋ぎ二人は街にデートに向かうのであった。
――みたいな? そんな青春の一ページみたいなの妄想してしまうけど現実は――。
「コジロー、なにニヤニヤしてるの? 危ない人っぽい」
「いや……なにも……」
これだよ。
同じ家に住んでいるから待ち合わせなど皆無。
まぁ……これはこれでありなのかな……。
都心のバスターミナルに『アウトレット行き』のバス停があるので乗り込んだ俺達は出発時間に余裕で間に合い指定された座席に着席する。
通常、ここで行われるのが窓側、通路側戦争だが、意外にもシオリは「どっちでも良い」なんて言ってくれたから、俺は遠慮なく窓側を選択させてもらう。
乗り物に強くないから窓際に座れて本当に助かる。
でも、乗り物酔いしやすい体質だと好きな子にバレるのは自分の中でスタイリッシュじゃないから先程こっそり酔い止め買って飲んでたのは内緒だ。
「なんか、あれだな。こういうバスに乗ると修学旅行っぽいよな」
何となく思った事を呟くとシオリが「修学旅行……」と目を輝かせた。
「行き先って言ってた?」
「あれ……結局どっちなんだろう……。確かさ、一年の二学期に入ったばっかの時に選択あったじゃん? 北海道と沖縄と……あともう一個……。ま、結局は北海道と沖縄の二択になって最終的にどっちって言ってたっけな……。――そういえばシオリはどっちにした?」
「もう一個の方」
彼女の答えに「え?」と声を漏らす。
「修学旅行なんて何処でも良かったから」
「そういう割に何だか楽しみにしてるよな」
「今はね」
そう言うとシオリは楽しそうに言い放つ。
「修学旅行の行き先を決める時は友達なんていなかったから。でも今は――」
そう言ってこちらをジッと見つめてくる。
「今は?」
「別に」
そう言って顔を逸らしてスマホをいじり出すシオリ。
「なになに? 気になるじゃんかよ」
「あ、あれだよ。純恋ちゃんや六堂くんがいるから」
「あれ? 俺は?」
「う、うるさいなぁ……。ほらほら、他のお客様のご迷惑になるから静かにしなきゃだよ」
俺の名前を出してくれないシオリに対して寂しい感情が出てしまい、悪戯心が芽生えてしまう。
「でも、四条とは同じクラスじゃないから部屋割りとか別だな」
男の子が好きな女の子に振り向いて欲しくて悪戯するみたいに言ってのけるとシオリの時が止まった。
「――そう……だね……」
再び動き出したと思ったら、シオリはまるで電池切れ間近の時計の針の様に鈍く遅い反応であった。
やばい……ちょっと洒落になんなかったかな……。
「あー……でもさ! あれだよ! ほら、コースとか! 確か、修学旅行中の観光コースとか合わせればほとんど一緒のはずだ! うんうん」
必死にフォローをするとシオリは電池を入れ替えたみたいに元気になる。
「それもそうだね。――よし……早速純恋ちゃんに何処周るか聞かないと!」
そう言って物凄い早い指の動きでスマホを操作しだした。
「いや……今は早すぎるんじゃ?」
「こういうのは早めに決めておくのが吉」
「さいですか」
まだ、何のコースがあるかも分からないのに何を聞くと言うのだろうか……。




