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冷徹無双の天使様は俺の許嫁だ

 先生の手伝いをして少しばかり帰るのが遅れてしまった。


 スマホには『校門にて待つ』なんて、時代が時代なら果たし状みたいな内容のメッセージが入っていた。

 もう既に校門に向かっている為、返信せずに直接向かった方が早いと判断して競歩で向かう。


 帰りのHRが終わってから少し時間が経っていたので、昇降口から校門にかけて人はほとんどいなかった。


 帰る人はHRが終わればすぐに帰るだろうし、部活や友達と駄弁る為に残る人には早い時間だからと思われる。


 そんなほとんど人がいない昇降口から校門へ向かっていると二つの人影が見えた。


 一人はシオリであるのは確かだろう。メッセージ通りだし、何よりヘッドホンを首にかけている。


 もう一人は男子生徒で、シオリに一生懸命話かけており、男子生徒は手を差し出した。


 見た感じ――告白かな?


 しかし、シオリは呼び出されたとかそんな事一言も言っていなかった。


 ――と言う事は……校門前で俺を待っていたシオリを見かけて衝動的に告白したって事か?


 男子生徒に行動力があるというか……衝動に駆られる程の美貌を持ち合わせているシオリが罪な女なのか……。


 冷徹無双の天使様は伊達じゃないんだな。


 しかし、告白の現場を目撃したのに、そこに割り込むのは余程の空気が読めない奴の行動。

 計画的だろうが、衝動的だろうが、告白は告白だ。邪魔なんて無粋な真似はしない。


 でも、何故だろう。この胸のざわめきは……。


 もし、シオリがOKを出したらどうしよう……。あの男子と付き合ったらどうしよう……。


 そんな不安が俺を覆ってしまう。


「ごめんなさい」


 しかし、シオリの言葉で俺の不安はホームランバッターのフルスイングした打球の様に吹き飛んでいった。


 ほっ……。


 安堵した俺は男子生徒が去るのを待つが中々男子生徒は諦めない。


 しつこい男は嫌われるぞ。


 男子生徒に念を送るが伝わらず、彼は諦めずに喋りかけている。


 その根気は見上げた物だが……。


「――ね? 友達からさ始めようよ。俺、良い店知ってるんだ」


 そう言って男子生徒はシオリの手首を掴んだ。


 シオリは嫌そうな顔をしている。


 これは告白じゃないよな。


 それに、男子生徒がシオリの手首を掴んでいるのが妙に腹が立ち、気が付けば早歩きで男子生徒に近づいて、その汚い手を掴みシオリから離す。


「やめろよ。嫌がってんだろ」

「あ? んだ? お前」


 ネクタイの色を見て分かったがこいつは一応先輩みたいだ。

 そりゃいきなり邪魔されたし、それが年下となれば当然の反応だろう。


「嫌がってる女の子を無理矢理触るなよ」

「あー? 別に嫌がってねーだろ。ね? 七瀬川さん」


 こいつにはシオリが嫌がって見えていないのだろうか。

 確かに無表情と言われればそうなのかも知れない。

 でも、俺には分かる。今のシオリの表情は相当嫌がってる顔だ。


「お前には関係ないだろ。イキんなや。邪魔すんな!」


 告白を断られた上に、見知らぬ後輩男子に邪魔されて頭に血が上っているのか、元々こういう性格なのか分からないが、言葉で言っても伝わらないこのクソ先輩に対して俺は「関係ある!」と大きな声を出しながら彼の腕を突き放した。


 そして、シオリの手を握りこちらに引き寄せながら叫んだ。


「シオリは俺の許嫁だ! 気安く触ってんじゃねぇよ!」


 言うと彼は目を見開いた後に「ぶっはっはっはっ!」と大きく笑いだした。


「おまっ! えっ!? なに!? キモっ! 漫画の読みすぎなの? アニメ脳? ぶっはっはっ! イタタタタタタ。まじでイタイやつだ。正義のヒーローでも気取ってんの? 片想いの相手に? ぶっはっ! めっちゃキモい」


 爆笑しながら言われる嫌な言葉を受けながら俺はシオリの手を握り引き寄せた。


「そんな頭沸いてるお花畑ちゃんにはお灸を添えてあげないとねぇん」


 ポキポキと指を鳴らしてこちらに殴りかかろうとしてくる男子。


 一年の時も殴られそうになったけど、俺の一つ上の代、暴力多くない?


「しねや! おらっ!」


 ああ……来る……鼻に来るぞ、糞先輩の右ストレートが――。


『ごらああああ!! 何しとんねん!? 我ら!? ああ!?』


 遠方から聞こえたヤーさんみたいな声にゴミクズ先輩が「やべっ」と右ストレートを寸止めして、逃げ出した。


「覚えとけよっ!」


 悪者が負け犬の様に逃げる時に吐く台詞を叫んで先輩はダッシュで逃げて行った。


「どっちがアニメ脳なんだか……」


 無様な後ろ姿を見て呟く。


 それにしても一個上の代は先生にも弱いな。殴るほどキレているならそんなもん関係ないと思うが……。


 あー……受験生で内申点とか気にしてるのか?


『ごらああ! 何をはしゃんどんのじゃ!?』

「やべっ!」


 冷静に分析してる場合じゃない。


 先程から聞こえる生徒指導のヤーさん先生に捕まると面倒だ。


「行こうっ! シオリっ!」

「あ、う、うん」


 俺はシオリの手を引いて校門から逃げ出した。







「――はぁ……。はぁ……。こ、ここまで来れば大丈夫……だよな」

「多分」


 駅の繁華街までダッシュで逃げて来た。


 生徒指導の先生が学校を出てまで追いかけてくる事は無いと思うが、走り出すと止まらずにここまでやって来てしまった。


「――あ……。ご、ごめん……」


 俺は先程からずっと無意識にシオリの手を握っており、意識がそちらに行くと、手を繋いでいる恥ずかしさと、手汗でびしょびしょの申し訳なさですぐに手を離した。


「別にいい」


 シオリは自分の手を見ながら言い放つ。


 うわ……手汗やばいとか思われたかな。


「ね?」


 シオリは俺に首を傾げながら問いかけてくる。その表情は柔らかく温かい。


「良かったの? 許嫁って事秘密なのにあんなに堂々と言って」

「あー……」


 俺はポリポリと頬を掻きながら先程先生に言われた言葉を思い出す。


『小さな事に囚われていたら、大事な物を失うかもだよ』


「良いんだよ。これで……。それに――」


 さっきの告白を見て、俺は自分自身の思いに確信が持てた。


 俺はシオリが好きなんだ。一人の女性として。


「それに?」

「んにゃ」


 俺は首を横に振り、含みのある笑顔でシオリに言ってやる。


「何でもない」

「むぅ。気になる」

「あはは。また時が来たら言ってやるよ。――ほらほら、眼鏡買いに行くんだろ? 早く行こうぜ」

「あっ! 待ってよ!」


 今はまだ親同士が決めた許嫁という関係に甘えよう。

 でも、近いうちに必ずこの想いを――君に届ける事を誓う。

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― 新着の感想 ―
[一言] 許嫁って言われたらそりゃそういう反応になるなぁ。って思ってたらなんか殴りかかってきた?血気盛んな人が多いな。
[良い点] うーん……一歩前進!
[一言] 男は危機にあたって一皮剥けると。 まあ、失敗はあり得ないから、ガッツリ決めてやりなさい。 そのうち。
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