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新学年の学食にて

 新学年がスタートしてから数日が経過していた。


 今までなら隣の席の四条が挨拶をしてくれて、その後ろの冬馬がスマホをいじりながらこっちに絡んで来て、後ろを振り向いたら相変わらずヘッドホンをして読書をしているシオリがいて――。


 そんな毎朝の光景は数週間前までは当たり前だったのにどこか遠く昔のように感じる。


 感傷に浸りながら二年六組の今の自席に座る。


 名前順の席になっており、この学校では窓際から出席番号の頭から順に廊下側の一番後ろがケツとなる。

 出席番号一番の俺は窓際の一番前の席に座りスマホを取り出す。


 隣の席の女子も、斜め後ろの男子も、俺の後ろの男子も知らない人達だ。

 ――というか、このクラスのほとんどが知らない連中ばかりである。

 完璧なるアウェイ。一年生の初期の頃はどうしていただろう……。あの時は冬馬がいたから何とかなったんだな。俺は中学の時から彼に助けられてばかりというわけか。


「おっはよ、一色君」


 突如聞こえてきた声に前を向くと、そこには春なのに、ひまわりの様な眩しい笑顔を咲かせた慈愛都雅の天使様の姿があった。

 後ろの男子が「慈愛都雅の天使様だ……」と小さく言ったのが聞こえてくる。

 その呼び名の知名度は高くないと思っていたのだが、知っている人は知っているのだな。

 ま、これほど可愛いんだ。当然といえば当然か。


「おはー。四条もボッチか?」


 問いかけると「あははー」と苦笑いを浮かべる。


「そうだねー。一色君とお揃いだよ」

「嫌なお揃いだな……」


 苦笑いで返すと「珍しいね」とこちらのスマホを指差してくる。


「一色君が学校でスマホいじるなんて」

「あー……。ま、一年の時は学校でいじる必要性がないというか――喋る相手がいたからな」


 そう言うと四条はニタっと笑い耳打ちしてくる。


「もしかして許嫁と連絡?」

「――は?」


 彼女の吐息が耳の中から感じ取れて、なんともいえない性癖への扉が開きそうになったが、四条の台詞の内容でなんとか変態のレベルアップを阻止することができた。


「クラスが離れ離れに引き裂かれた二人。でも、そんなのは文明の力でなんとでもなる。朝から逢い引きの計画をたて、次の授業を二人抜け出し、誰もいない屋上。まだ肌寒い春の風『寒いな』『抱き合えば寒くないよ』『そうだな』そして二人は永遠の愛を語るように抱き合う――きゃー」

「お前も大概変態だな」

「あははー。ないよねー」


 俺は「ないない」と手を振りながら言ってやる。


「――てか、いつもあいつとそんな妄想してんの?」


 からかうように言ってやると、四条は少し照れて「してません」と答える。


 いや、これはそう言う妄想してるパターンだな。なんとなくわかる。


「なんかちょっと四条のキャラが崩壊してる気がするけど、離れたから自暴自棄になってるとか?」


 冗談まじりで聞くと四条は首を横に振り「そんな事ないよ」と否定する。


「あたしは同じ部活だし、離れたからって疎遠になることはないから……」


 その言葉とは裏腹に、少し寂しそうな声を出す四条。


「一色君ともなんやかやで長いから素が出ちゃうのかな?」


 次に彼女はニコッと無理に笑って見せる。


「それは誇らしいな。四条みたいな女の子に言われると」


 少しだけ重くなりそうだったので明るく言うと、彼女も明るく返してくれる。


「あー。浮気はダメだぞー」

「浮気ってのは嫁や恋人がいる奴の事で――ん?」


 四条はこちらを指差してくる。


「いるじゃん」

「いや、だから――」


 俺の言葉を遮るようにチャイムが鳴り響いた。


「あ、それじゃあね」

「おう」


 四条はチャイムが鳴り終える前に席に着くことができて、チャイムの音が止むのと同時に入ってきたのは、長いウェーブのかかった、俺達と同年代と言われても気が付かないだろう二年目の女教師の三波 楓先生。


「みんなーおはよー!」


 一年の時みたいに全員が全員「おはよー」と返すわけではなく、まばらに「おはようございます」と聞こえてきて、三波先生も苦笑いを浮かべていた。


 あまり明るいクラスではなさそうだ。


 俺としては今年の担任も三波先生ということで気が楽だ。

 一年間、彼女の生徒だったこともあり、なとなく性格がわかる。

 それが彼女自身の真の性格かと言われれば違うかもしれない。

 学校では学校用の仮面を被っていることだろう。

 しかしながら、仮面を外す必要性もないし、外した素顔を知る必要性もない。

 だって先生と生徒なんだから。







「お前の所の許嫁の機嫌が明らかに悪い件」


 ガヤガヤと騒がしい昼休みの学食にて、突如放たれた冬馬の台詞に、食べていた焼き鳥丼のどんぶりをテーブルに置く。

 今年度最初の新しいメニューの焼き鳥丼は、焼き鳥にマヨネーズと青ネギをまぶしたシンプルかつどこにでもありそうな丼物である。

 高校生活も二年目に突入したので、今年度は新商品を開拓しようと考えているが、一緒に食べる奴は進級しても変わらない。

 同じクラスに馴染めていないのはほとんどの人がそうだろう。その中に俺達も含まれる。

 変わり映えしないイケメン眼鏡を眺めながら微妙な出来の焼き鳥丼を食べているといきなり言われたって訳だ。


「もしかして誰か斬られてた?」


 日本刀を斬りつける様なジェスチャーで冗談を言うと「ああ」と頷かれる。


「クラスの男子が早速な」

「マジで……」

「マジだ」


 冬馬は思い出す様に語り出す。


「話をしよう。あれは今から三十六万……いや、二十分前だったか。まぁいい」

「また古いネタを持ってきて」


 俺の指摘は彼に華麗にスルーされる。


「三限終わりの休み時間に冷徹無双の天使様がヘッドホンをしていると、目の前に男子が立っていてな。何か必死に喋りかけてるんだよ。ま、十中八九近づきたいだけだろうがな。それで、あまりにもしつこいからヘッドホン外して何か言ってるんだよ。ちょっと気になったからシレッと近く通ったらさ――」


『どうして仲良くしたいの? どうして好きな音楽が気になるの? どうして一緒にご飯が食べたいの? どうして? 理由は? 見た目? 中身? 腹身? 七味?』


「――だとさ」

「いや、最後のはお前が加えたろ」

「――面白いだろ?」

「お前に笑いのセンスがないのはわかった」


 それにしても――。


「あいつやっぱおっかねーな」

「それを無表情で言われていたからな。その後の男子ときたら……到底見てられない。ま、無計画で挑んだそいつが悪いのだがな」


 クククと笑う冬馬を見て、こいつ性格悪いな、なんて思ってしまう。

 しかし、シオリが男子にそう言った事に安堵している自分がいて、俺自身も性格悪いな、なんて思ってしまう。


「――な? 冬馬」


 自分の性格の悪さを隠すように話題を変更する。


「ん?」

「シオリは一人か?」

「気になるか?」

「ま、まぁ……」


 そう言うと冬馬がからかってくると思ったが、そんな事はなく普通に答えてくれる。


「一人だな。まぁ俺もだけど――あ……。そうだ」

「どした?」


 何かを思いついたような様な声を出したが冬馬は「いや……」と含みのある笑みで否定する。


 絶対なんかあるやつやん。

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― 新着の感想 ―
[一言] 惚れた人に真顔でそんなこと言われたらトラウマになるな。美人な分真顔の圧も凄そう。
[一言] シオリさん、ねえ。機嫌悪いのもしかたないか。 クラス別れると、主人公目線だと見えるものが半分になるので、なかなか進行難しくなりますね。
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