修了式
「あー……肩凝った……」
どうして、こうも校長先生の話は長いのか。年を食えば人はその経験を若い人達に話したくなるのか。
先人の言葉というのは貴重な物とは思える。
しかし、それも要領を得ていなければただの雑音と変わらないのに。
修了式。
本日にて高校一年生生活に幕が降りた。
こうしたケジメの日は大事なので、遅刻せず、静寂に先生達のありがたいお言葉を聞くのだが、これが何年経っても慣れない。
特にこの高校の校長は喋り好きなのか、ペラペラペラペラと同じ様な話を環状線の様に繰り返し、ゴールの見えないトンネルみたいに長々と話続ける。
「何を爺さんみたいな事を言っているんだ」
体育館で行われた修了式が終わり、ゾロゾロと体育館から自分たちの教室へ戻る際に肩を野球のエースピッチャーの様にグルグル回していると、冬馬がツッコミをいれてくる。
「後、こんな風に愚痴れるのも残り僅かだ。来年にはそんな事言ってる暇もないかもな」
「来年か……。そうなりゃ受験生なり就活生――てか、お前は進級大丈夫なのかよ」
「愚問だ」
眼鏡をクイッと上げてドヤ顔で言い放つ。
「高校には救済システムがあるっ!」
「補習ね」
そんな胸を張って言える事ではないと思うが、どうやら進級は大丈夫……なのかな?
「てか、あれだな。もう三年生はいないんだな」
ゾロゾロとそれぞれの教室へ戻って行く生徒達を見てふと呟く。
「とっくに卒業している。今いるのは一、二年生だけだぞ」
「何だか感慨深いものがあるな。――ま、三年に知り合いいなかったけど」
そう言うと冬馬も「俺もだ」と言って眼鏡を曇らせる。
「しかし、来年には先輩達が卒業してしまう……」
「あ、そっか……。夏希先輩と五十棲先輩がな……」
あの人らは新年度から三年生で、今から来年となると卒業してしまうよな。
「――そんな訳で」
「どんな訳だよ」
唐突な冬馬の切り替えにツッコミを入れると彼は無視して話続ける。
「今日時間あるか? 部室に来て欲しんだ」
「今日?」
「ついに完成したんだよ。ぜひ、小次郎と七瀬川さんに見て欲しくてな」
「あー! 新入生用の案内動画ね。――良いの?」
「こっちが頼んでいるんだから当然だ」
「んじゃ行くわ」
♢
映画研究部で行われる試写会に参加したのは映画研究部の部員四名と部外者二名の計六名。
少し寂しい試写会だが、ちゃんとスクリーンプロジェクターを下ろして行われる動画の試写会。
動画はド派手なアクション映画でもなければ、考えさせられるミステリー映画でもない。
学生が作った、ただの学校案内動画。別に伏線を仕込んでいる訳でもない。ただ単に台詞を読み上げているだけだし、カメラもブレブレ。編集で誤魔化している感は否めない。
それでも何故だろうか。少し感動してしまうのは。
少しでもこの動画にかんだ事が俺の気持ちを昂らせるのだろうか。
「――どうだった?」
動画を見終えて、夏希先輩が部員ではなく、俺とシオリの方を見て問いかけてくる。
「とても良い」
俺が言うより先に答えたシオリの感想は簡単だった。だけど――。
「ありがとう! 汐梨ちゃん!」
ガシッと四条が涙ぐみながらシオリの手を取る。
「何か感動しちゃったよ。結構グダグダになると思ってたんだけど、汐梨ちゃんの編集のおかげで形になった。本当にありがとう」
シオリは俺よりも密に映画研究部の助っ人をしていたらしい。
俺も何回か足を運んだが、シオリの比ではない。
「え、えっと……」
手を取られて困惑しているシオリに四条は「あ……」と声を漏らす。
「名前で呼んじゃった」
「良い。名前で呼んで」
少し食い気味でシオリが言うと、四条は嬉しそうな顔をして「それじゃああたしも『純恋』で」と返していた。
シオリはコクリと頷いて恥ずかしげに「す、純恋ちゃん……」と彼女の名前を呼び微笑み合う。
新たなる友情が芽生えた瞬間で、ほっこりした空気の中、夏希先輩は次に「小次郎は? どうだった?」と聞いてくる。
「良かったですね。何より、本来の目的の学校案内がちゃんと出来てると思います。こういうのって、案外目的と離れたりするものだと思うんですけど、この動画はちゃんと主旨を掴めていると思います」
「後輩達に見せても大丈夫かな?」
「まぁ満場一致――ってのは世の中に少ないと思います。どうしても批判する奴は出てくると思いますが……。かなり見やすい出来になっていると思いますよ」
「そ、そうか。良かった」
夏希先輩は胸を撫で下ろす。
「――ふむ。では、次は映画でも撮るか」
何故か五十棲先輩が力こぶを作り提案する。
「六人でですか?」
「おい冬馬。しれっと俺達を入れるな」
「腕がなる」
「おい大根役者。何でやる気になった? やったとしてもお前はまた裏方だ」
「コジローに決定権はない」
「確かに」
「一色君が映画研究部に入れば決定権が出来るよ」
「そこ。そうやって俺を勧誘するな」
「入部届ならあるぞ」
「夏希先輩。どこからそんなに出したんですか」
俺はバンっと立ち上がり「てかボケが多いな! この部活!」とツッコミを入れるとシラーっとされる。
「なんだ小次郎? お前自分がツッコミだと思っているのか?」
「思ってるよ。正統派のな」
「うわぁ……。そういう人いるよね……」
「四条……。ドン引きはやめろ。泣きたくなる」
「泣きたいのはタンパク質不足だ。そんな時はプロテインだな」
「泣きたいのは引かれたからだよ! タンパク質関係ない」
「コジローうざい」
「シンプルな悪口はやめろ!」
「入部届ならあるぞ?」
「うわー。この人ワンパの人だ……」
夏希先輩はちょっと傷ついた後に手を叩いて「ま、まぁ!」と仕切り直す。
「次回はまた来年度に決めるって事で――小次郎、汐梨。手伝ってくれてありがとう」
そう言って夏希先輩が頭を下げた後に部員全員が頭を下げてくれた。
俺とシオリは照れ笑いを浮かべるのであった。
話数の関係で、区切り良くしたかったので、途中で切りました。
この後も短めですが投稿しますのでよろしくお願いします!




