お返しの選定
前回のテストよりも手応えがある学年末テストが終了した。
今回は確実に前回よりも平均的は上だと言い切れる自信がある。
基本的には真面目に授業を受けているので、普段の授業態度とこのテストの出来であれば、留年なんて事にはならないだろう。
不安なのはイケメン眼鏡と慈愛都雅の天使様の二人である。
今回も前回同様に、テストが終わった後、脳がオーバーヒートして頭から煙が立っていたが――大丈夫だろうか?
まぁ授業態度は良いし、救済処置の補習もあるだろうから、留年って事にはならないだろうが――もし、留年したら二人は後輩か……。
『一色先輩』なり『小次郎先輩』呼びか……。
それはそれでありだな。
いや、ていうか、もうすぐ高校二年生になるからリアル後輩が入ってくるのか。
――って、部活もしてない俺が後輩と接点なんかないよな。
それよりも、高校二年生になるという事は、クラス替えがある訳で――そうなると……シオリとクラスが離れてしまう可能性があるのか……。
離れたらどうしよう……。
――いやいや、別に離れたからってなんだってんだよ。はは……。別に今の生活が変わる訳じゃあるまいし。
今はそんな先の事よりも大事な事がある。
ホワイトデーのお返しだ。
シオリは――『頭を撫でて』というリクエストを言ってきたが――いや、それはそれで恥ずかしいんだけど……。――無論、それだけで終わらすつもりはない。
しかしながら、ホワイトデーというのは何を返せば良いのか分からない。ネットの情報は『ホワイトデーに返すべきチョコレート』とか書いているにも関わらず『チョコレートをチョコレートで返すのはNG』とか書いているし『男子必見。ホワイトデーに送るべきアクセサリー』とか書いてる割に『ホワイトデーに送るNGランキング』にアクセサリー入ってたりと、どないしたらええねん状態である。
そんな訳で、テスト終わりの休日にやって来た駅前の複合施設。
ネットの情報だけを頼っても仕方ないので、自ら出向いて情報を仕入れよう。
休日という事もあり、人が多い。多いと言っても都心部と比べるとまばらな方なのだろう。
そんな複合施設の雑貨屋に足を運ぶと、やはり時期的にもホワイトデーのお返しコーナーみたいな棚があったので、それらを見る。
ピアスを手に取り眺める。
「そもそもシオリって空けてないよな」
ピアスは却下だ。
続いてネックレスを手に取り見る。
「うーん……。シオリにこのネックレスは――ないか……」
ネックレスも却下。
次いで腑抜けた顔のウサギのぬいぐるみを手に取る。
「――ないな。これは無い。てか、あいつぬいぐるみとか好きなんか?」
ぬいぐるみもシオリが喜ぶ想像が出来ないので却下だ。
はぁ……。なんだか違うなぁ……。
頭を掻きながら店を出ると、雑貨屋の向かいの化粧品屋にも、ホワイトデーのお返しコーナーがあるのが見えた。
俺には縁のない店なので今まで入った事などないが、そういうコーナーがあるのならば行ってみても良いかもしれない。
俺は初めて化粧水屋さんに入店してみる。
そのコーナーには洗顔料やらファンデーションと、俺の知識では追いつかない女子力の世界が広がっていた。
その中で、まだ俺でも分かる使用用途の香水を手に取る。
「ドルチェ」
少し冗談めかして呟くと後ろから「アンド?」と女性の声が聞こえてきた。
「――うお!」
いきなりの声に俺はビクッとなり振り返ると、若くて綺麗な女性店員さんが「すみません。つい」と謝ってくる。
「あ、いえいえ。こちらもつい、口ずさんでしまいました」
「流行ってますもんね」
「凄いですよねー」
なんて他愛もない会話の入りから店員さんが「ホワイトデーのお返しですか?」と尋ねる。
男が化粧品屋さんでホワイトデーのお返しコーナーにいたから当然の質問だ。
素直に「はい」と答えると店員さんは「彼女さん?」と少し嬉しそうな笑みで聞いてくる。
「あ、いえ……彼女では……」
「もしかして……片想いしてた女の子からチョコレート貰ってのホワイトデー?」
「あーいやー……それでもないです」
「ふふっ」
店員さんは何かを察したのか、小さく笑って「そうですか」と言うと仕事モードに入る。
「何か目星はありますか?」
「正直な所、この『ホワイトデーのお返しにおすすめ』ってのに惹かれてやってきたのですが――」
「なるほどです。――お相手様はお化粧します?」
「あー……」
頭を掻いてシオリを思い浮かべる。
そういえばあいつって化粧してないよな……?
「多分……。してないです」
「あら?」
店員さんは意外そうな声を出す。
「高校生――ですよね?」
それは俺の事を言っているのか、相手の事を言っているのか分からないが、二人共高校生なので「そうです」と答える。
ま、確かに、学校でも化粧してる人は沢山いてるし、今時、していない方が珍しいのかな? まだまだ校則的に禁止な所もあるのかな?
「――化粧をしていないのでしたら……こちらなんておすすめですよ」
言われて渡された物を手に取り見る。
「へぇ。これ……お洒落ですね」
「これなら化粧禁止の学校でも使えますし、デザイン性もバッチリ。勿論、見た目だけではなく使い勝手も良いので学生さんにおすすめできます」
店員さんは買わす為に説明してくれているのだろうが、そこに嘘はないだろう。
「――えー。これ良いな。これにします」
「ありがとうございます!」
店員さんの説明もそうだが、これならシオリに似合いそうというのもあって買う事にする。
あいつ、どんな反応するかな?




