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バレンタインの朝

 鳴り響くアラーム音。


 いつも通りの朝。


 いつも通り気怠い寝起き。


 ここ最近、シオリが起こしてくれないので、自力で起きなければならない。


 あいつも結構気分屋な所があるから、起こしてくれる時もあれば、くれない時もある。


 その様子はまさにネコ。


「にゃー」


 ふと、脳内にネコミミを付けたシオリを想像してしまう。


 想像上のネコミミシオリはかなり似合っているな。

 いや、かなりエロいな。うん。俺みたいな健全な男子高校生が生で見たら発狂もんだろ。

 今度頼んでみる? いや、軽蔑の目で見てくるか……。それはそれでアリかな……。


 そんな、朝から脳内は妄想MAX、髪の毛はボサボサの頭でふらふらとベッドを出て、まず向かったのは脱衣所の洗面台。


 いつも通り――ではなく、本日は念入りに歯を磨く。

 いつもより丁寧に、丁寧に、丁寧に――。


 そして、顔を洗顔してさっぱりする。


 さっぱりすると、次いで、洗面台のミラーキャビネットから普段使用しないワックスを取り出して、慣れない手つきで髪の毛へベタベタと付ける。


「――なに……してるの?」

「うわっ!」


 ふと鏡越しに無表情でこちらの様子を伺うシオリの姿があり、俺は朝から驚愕の声が出てしまう。


「びびったー。いきなり話かけるなよ!」


 振り返りながら言うと、シオリはジト目で俺を見てくる。


「普段ワックスなんて付けないのに」

「み、身だしなみは紳士の嗜みだろ?」

「――もしかして……今日『バレンタイン』だから?」

「ぎくっ!」


 そうである。


 今日は世の男子連中がそわそわとする二月十四日。バレンタインデーである。


 俺だって健全な男の子。女の子からバレンタインチョコレートが欲しいんだよ! その為なら、カッコつける! 周りになんと言われようと俺はチョコレートが欲しいんだよ!


「――バレンタイン当日にカッコつけても意味ないじゃん」

「あ……」


 確かに……。


 カッコつけるなら、バレンタインの前から準備しないと。

 当日にカッコ付けても何の意味がない。


「そ、そうか……。そうなのか……。ぜ、全然気が付かなかった」


 俺は地べたに這いつくばって嘆く様に言う。


「――ばーか……」


 そんな俺にシオリは止めの一撃を放ち学校へ向かって行った。







 大体、シオリもシオリだ。


 あいつは『許嫁』であり『居候』でもあるんだ。それなのに、俺に義理の義理でもチョコレートを渡そうとする気配が感じられない。どうなっとんだ! 普通渡すだろ! その気配だすだろ! 出せよ! 雰囲気出せよ!

 

 ――いや、単純にチョコレートが欲しいだけだどな……。


 あー! チョコレート欲しい! まじで欲しい。


 思えばバレンタインデー――これほど残酷なイベントは無い。


 小学生の頃――「バレンタインなんか関係ねー」と数人の友達と公園で遊んでいたら、女子連中が乱入してきて、本命チョコレートを渡すイベントが発生。

 ――俺以外――。


 関係あんじゃん! お前ら関係あんじゃんかよ!「バレンタインとかきしょいよな」とか言ってた数分後に「お、おう。ありがとう」とかハニカんでんじゃねぇよ! その後、俺だけ貰ってないから気不味い雰囲気になったじゃんかよ! くそぼけ! 


 中学生の頃――部活中に校舎から「冬馬ー!」と黄色い声をかける女子達にクールに対応する冬馬。その現場をたまたま見ていた俺に「俺はあまりチョコレートは好きじゃないんだがな……」――。


 ――じゃかましいわ! ボケ!


 じゃあ俺によこせ! 俺は好きだわチョコレート! 大好物だわ! 女子達も俺に渡せよ! 目の前でめちゃくちゃ美味そうに食っちゃるわ! 何で俺にはくれねえええんだよおおおお!


 そういえば昔に――。


「お母さん! 俺に何か届いてない?」

「届いてないわよー」


 毎年、バレンタインに交わされる母親との会話。

 年数が上がるにつれて母さんは――。


「母さ――」

「ない」


 ――と、食い気味で言われた辺りで、諦めたっけな……。


 くっ……。おのれバレンタインデー……。どこの誰だ!? こんな地獄の所業のイベントを考えた奴! チョコレート会社か!? 開発部か!? 営業部か!? そんな奴には説教が必要だ! 説教が!


 脳内で不満を爆発させながら学校へ着き、昇降口で靴を履きかける為にロッカーを開ける――。


「――期待してたろ?」

「うわっ!」


 ロッカーを開けた所でポンっと肩を叩かれてイケボで囁かれる。


「な! 何の事きゃな!? 冬馬きゅん!」

「相変わらず分かりやすい奴だな」


 言いながら眼鏡をクイッとして続ける。


「もし、ここに入っていても食べたくないだろ? 靴が入ってた所だぞ?」

「それは……確かに……」


 俺の言葉に次は優しくポンっと肩に手を乗せてくると、優しく言ってくる。


「お前には許嫁がいるだろ」

「くれると思うか?」


 冬馬は眼鏡をクイッとして考えた後に言う。


「彼女はそういうイベントに興味はなさそうだな」

「だろ? ――はぁ。お前は良いよな」


 嫌味ったらしく言うと。


「俺は元々興味はあまり無いからな」


 嫌味ではないが、凄くムカつく返しをされる。


「ほら、行くぞ。遅刻しちまう」


 くっ……。こいつ、勝者の余裕か……。




 一部、作者の実体験がございます。ご了承ください。


 バレンタイン……。バレンタインか……。はは……。書いてて泣きそう……笑

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― 新着の感想 ―
[一言] あー、バレンタインかぁ。何がどうなったのか知らないけどあのイベントは学年が上がるにつれて「作業」に近くなっていき高校生にもなるとハロウィーンの如く、、、みんな男女問わず10個くらいはやりとり…
[一言] 自宅には呼べないから四条の家で、とかかな。 冬馬は、受け取りはするんだろうけど…
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