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許嫁の欲しい物

 期末試験期間が無事に終了した。


 地獄の期間だとか、生徒殺しウィークとか様々な不名誉な名で呼ばれるテスト期間だが、俺からしたらただただ早く帰れるだけの確率変動突入期間だったな。


 それに温かいご飯をお昼に食べれるのは非常に良い。やはり昼飯はシオリのダークマターに限るぜ。


 そんなテスト期間が終了した教室内では、期間中は名前順に座っていた席を元の席に戻す作業が行われて、無事に最高のポジションに戻ってくる事が出来た。


 元の席にカムバックしてくると、俺の心境とは裏腹に隣の列に座る二人は同じポーズ――椅子に深く座り燃え尽きていた。


「無理無理……。あー無理……。まじで無理だぁ……。パンケーキ食べたい。それか牛」


 慈愛都雅の天使様は、いつもの明るく元気な姿はどこへやら、ブツブツと何かを呟いていた。

 もし、彼女に羽が生えていたのなら黒く染まっているかの様に暗いオーラを出している。彼女に絡むとこちらまで闇に染まりそうな、そんな雰囲気だ。


「ふふふ。俺はトップ下。キャプつばと同じポジション。俺にはサッカーがある。ボールは友達。ていうかもはや俺はボール。俺のボールは二つある」


 映画研究部がキャプテンつばめと同じポジションで活躍していた事――過去の栄光をブツブツと呟いて訳の分からない理論に到達していた。


 ふと、他の席にも目を配らせて見る。


 二人と同じ様な奴が教室内に結構いた。


 期末テスト――それは一部の人間を狂わせる。


 俺は反射的に後ろを見た。


 もしかしたら冷徹無双の天使様も闇堕ちルート突入しているのでは無かろうか?

 闇堕ちのシオリ――それはそれで見てみたい。


 期待を込めて見てみると――。


 そこにはブックカバーを付けた本を読んでいる冷徹無双の天使様の姿があった。


「いつも通りかいっ!」


 つい自然と出た言葉に「なに?」と不信感のある返しをされてしまう。


「あー……。いやー……。ごめんごめん。――ほら、隣があれだから」


 隣を指差すとシオリは本から視線を隣に向ける。


「あははー。お花畑でバーベキューしたいなぁ」

「オーバーヘッドキック。ドライブシュート。おーエキサイティング」


 シオリはブツブツと呟いている二人を見て「ご臨終」と一言放ち本に視線を戻した。


「――な? そういやそれ、何の本読んでんだ?」


 そう聞くとシオリはパタンと本を閉じる。


「普通の本」

「普通の本って? 漫画? 小説?」

「小説」

「へぇ。小説とか好きなんだな」

「好んで読む」


 流石は冷徹無双の天使様。イメージ通りと言えばイメージ通りに活字をご愛読なさるとは。似合うな。


「今、新しい小説とか欲しいとか思うのか?」


 聞くとシオリは首を横に振る。


「まだこれを買ったばかりだから今はいらない」


 閉じた本に手を置いて言われる。


「ふぅん。じゃあ今、何か欲しい物とかあるのか?」


 自然な流れで聞けたのではないだろうか。


 もうすぐシオリの誕生日。


 シオリは居候の身として気を使っているのかどうか分からないが、自分から誕生日を教えてくる事は無かった。


 一人暮らしをして実感したが、一人で過ごす誕生日程悲しいものは無い。

 それまでは親が祝ってくれていたが内心では、別に面倒くせぇから祝わなくても良いのに、とか反抗期爆発な事を思っていたけど、一人で過ごす事によって誕生日を一人で過ごす悲しみを痛感した。


 シオリだってそうだと思う。

 やっぱり誕生日は誰かに祝ってもらいたいものだと思うので誕生日ケーキとちょっとしたプレゼント位は買ってあげようと考えている。


「欲しい物……」


 シオリは視線を伏せて考え込む。


「――ランドルト環」

「それって視力検査のCのヤツ……だよな?」

「それ」

「なんでそんなもん欲しいんだよ!」


 シオリは鼻根を摘んで言ってくる。


「最近視力が悪くなった気がする」

「だったら眼科行けよ」

「いちいち行くのが面倒」

「それは……分かる」

「だからパパッとランドルト環で視力検査して、こんなものか、って感じになりたい」

「もしかして眼鏡欲しいとか?」


 聞くとシオリは頷いた。


「欲しいけど今すぐ必要でもない。それに高いから簡単には手が出ない」

「そっか……」


 眼鏡をプレゼントは――出来ないな……。視力は人それぞれだし。

 だったら一緒に買いに行くってのは――ナンセンスだな。誕生日に一緒に視力検査しに行って眼鏡買うってちょっとな……。


「なんで?」

「――ん?」


 少し考え込んでいるとシオリが首を傾げる。


「なんで私の欲しい物聞いてくれるの?」

「いやー、シオリってあんまり物買わないから物欲ないのかな? って思って聞いてみただけ」


 上手く誤魔化せたかな?


 俺の返しに少し寂しそうな雰囲気を出して「そう」と短く言うと再び本を開けた。


「――知ってるはず……ないよね……」


 蚊が鳴くより小さな声だったが、その声が俺の耳まで届いた。


 こりゃサプライズしたら、またシオリのエンジェルスマイルが拝めるかも知れないな。



 本日夜にもう一話投稿予定です。


 皆様のおかげでジャンル別日刊ランキング5位をキープ出来ております!

 本当にありがとうございます!


 引き続きお楽しみ頂けたら光栄です!

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