許嫁と遊園地デート①
『大切な人と──。大切な時間を──』
ディスプレイの中の人達は遊園地内を楽しそうに回っている様子が映し出されている。
家族で仲良く回る様子。老夫婦が手を繋いで回る様子。そして、恋人同士が城の前でキスをする様子。
大がかりでもなく、有名人をキャスティングしていない遊園地のCM。
でも、どこか惹きつけられてしまうかのような映像。
ある日のことだ。
クラス替えも済んで、特にイベントもない日常の昼下がり。
昼ごはんの片づけをしていると、シオリがスマホを見せてきた。
「ここに行きたい」
そう言って見せられたのは遊園地のCM。益田グループという会社が経営する遊園地。
ここにはプールと併設されている遊園地。去年の夏にプールに行った場所だ。
「これをそろそろ使わないと、もうすぐ1年経ってしまう」
「あー。それな」
シオリが俺に見せたのは遊園地の年間パスポート。
去年の夏に、どこぞのリアルハーレムイケメンから頂いたものだ。
あれからもうすぐ1年が経とうとしているのか。
「使わないと損」
「頂きもので1回も使わないのもなんだもんな」
「という訳で、明日遊園地デート」
「遊園地デートか。アリだな」
「決まり」
というわけで、今日は遊園地デート。
日曜日の朝から俺は遊園地の入り口ゲート付近でシオリを待っている状態。
シオリとデートをする時は一緒に出る時と、別々に出る時があるが、今日は別々に出る日だったらしい。
別々に出る時は、今日はどっちが先に家を出るか、なんて話しをしながら出るのだが、珍しくシオリが「今日は先に出てくれない?」とお願いしてきた。
俺とすればどちらでも良いので、素直に彼女の要求をのみ、こうやってシオリが来るのを待っている。
ただまぁ、行きの電車内を無言で乗らないと行けなかったのはちょっと寂しいかなとは思う。
ここの遊園地、今の俺の住まいから結構離れているからね。
「コジロー」
開園したての遊園地のゲートへ人が流れて行くのを見ていると、聞き慣れた許嫁の声が聞こえてくる。
反応して見ると。
「お、おお」
つい声が漏れてしまった。
青ボーダーのTシャツにデニム地のショートパンツ。今日はボーイッシュ系でまとめた服装。
髪型は、後ろの髪を三つ編みに1つにまとめ、右肩の方から胸の前に垂らしているサイドテールスタイル。
「お待たせ」
「な、なんか新鮮だな」
髪型も、服装もあまり彼女がしない格好だ。
「今日は遊園地だからスカートとかじゃ動きにくい。歩き回るだろうし、この格好なら通気性抜群」
通気性は良さそうだな。特に、ショートパンツから伸びるふとももの曲線美とか。
「髪型も動きやすくするため?」
「これは」
彼女は三つ編みの部分を持って言ってくる。
「コジロー。この髪型の女の子が出てくるRPGで、その子とばかり結婚するから、好きなのかと思って」
「いや……。あの場面で幼馴染選ばないとか良心が痛むだろ」
「目的のためなら清楚系ロングヘアで良い」
「そういやシオリはそっち推しだよな」
「目的優先」
ゲームでも冷徹無双の天使様を出すんだよな。この子。
「そもそも。なんで、あのゲームには許嫁が存在しないのか不思議」
「許嫁ってゲームでも特殊な設定だからじゃない? あんまり聞いたことないな。やっぱ定番は幼馴染とかだろ」
「むぅ」
シオリは拗ねた声を出した。
「子供の頃から家が隣同士で、朝起こしてあげて、朝食作ってあげて、一緒に学校行って、同じクラスで一緒に勉強して、一緒に帰って、どっちかの家で晩御飯食べるだなんて、そんなの現実じゃあり得ないよ。ゲームやアニメの世界じゃん」
「大変だシオリ」
彼女のセリフの中で俺は世界の真理に辿り着いたかの衝撃を受けてしまった。
「ぬ?」
こちらのただらなぬ様子にシオリも眉を上げ、緊張感を増す。
「家が隣同士以外、全部俺達に当てはまっている」
真理の言葉を発すると、少しばかりの沈黙が流れる。
「あ……」
沈黙の中なので、間抜けなシオリの声が良く聞こえた。
「それじゃあ……」
シオリも世界の真理に到達したかのような声を出す。
「私達はゲームやアニメを超えた存在?」
「間違いないだろう」
即答してやって、続けざまに彼女へ説明してやる。
「そもそも。俺達はリアル許嫁だ」
「リアル許嫁だね」
「ゲームやアニメじゃ結構、サブヒロインになることの多いヒロイン。メインヒロインものもあるが、サブヒロインも多くあるのが許嫁というポジション」
「中途半端なんだね」
「そう! だが! リアルはどうだ!?」
「どうって?」
「昔から許嫁ってのはあった。財閥系等の家系なら多く見られる。というか、それが当たり前の時代。許嫁ってのは基本的に結婚する」
ちなみに! と自信満々に言ってのける。
「俺達リアルで結ばれてるからね! 許嫁、結ばれてるから!」
「やばっ」
シオリがつい声を漏らす。
「二次元の壁超えて私達三次元にいる」
「や、その、うん。それは人間という存在である限り三次元だけれども」
「結果。許嫁というポジションが最強ということで、おけ?」
「おけ」
言いながら俺はシオリの髪を見る。
「その髪型も余裕でゲームのキャラ超えてるもん。最早シオリの髪型だもん。サイドテールで検索したらシオリの画像出る感じだもん」
この上なく褒めるとシオリは「良かった」と安堵した声を漏らす。
「この髪型、意外と時間がかかったから……。コジローが気に入らなければ服を脱ぐところだった」
「なんでそこで服なの!? 露出狂かよ!」
「安心して。この服の下はなにも着けてない」
「ぐっ! じゃないわ! え!? まじで言ってんの!?」
「うそ」
「うそかい!」
「さ、髪型と服装を褒めたならさっさと行くよ。時間は有限。遊園地に入らないでデート終わる気?」
「いきなりドライだな! おい!」
そんなやり取りをして、俺達は笑いながら遊園地の入り口ゲートを潜った。




