許嫁の罰
結局、今後の方針は後日話し合おうということでそれぞれ帰宅することになった。
混沌ジュースシャワーを浴びた俺達は、一応タオルで拭いたのだが、気持ち的にも綺麗にしておこうということで、まだ陽が沈んでいないが、家に帰って早めの風呂へと入ることにした。
シオリが湯を張ってくれて、お先にどうぞなんて譲ってくれた。
彼女は風呂が好きだから、後でゆっくりと入りたいってことなのだろう。
遠慮なく先行を頂いて、湯舟に肩までつかる。
「はぁあぁぁ」
浴槽内に入り、ジジくさい声が一気に漏れた。
やはり風呂というのはいつ入っても気持ちが良い。
体の血流が一気に駆け巡り、脳が覚醒をするような感覚に陥り情報処理を開始する。
「ふふ……。結局、部活動って名のバカ騒ぎだったな」
小さな笑みがこぼれて先程の情景を思い出す。
4人集まればいつものバカ騒ぎ。
そんな時間が俺は好きだ。
「それに……みんな同じクラスとか……最高しかないだろ……」
天を仰ぎ、瞳を瞑って朝のことを思い出す。
同じクラスとわかり、シオリのクールが崩れるのが見れた。
冬馬もキャラを崩して、四条はそのまま素直に喜びを表していたな。
そんな光景を思い出し、口元が緩む。
今の俺を側から見たら変質者と思われるだろう。
自分でもわかるくらいの気持ちの悪い笑みだろうよ。
バンッシュゥゥゥ!
「ひゅわ!?」
突如、浴室内のドアが開く音が轟き、ビクッとなってしまう。
「ひゅわ」
俺の独特の驚愕声を真似して可愛らしくシオリ浴室にが入ってくる。
いつもお風呂に入る時は後ろの髪をバレッダで止めているのだが、今日は特になにもつけずにいつものストレートヘア。体には大きなバスタオルを巻いてのご登場。
「し、シオリ!? おまっ! なに!?」
「コジローと一緒にお風呂に入ろうと思って」
あっけらかんと言ってのけるシオリはいつも通りのクールで無機質な声であった。
「経験済みだから平気でしょ?」
「いや、まぁ、確かに一緒に入ったことあったけど……」
だからって平気なわけがないだろう。
それに前は水着を着用していたし、その恰好は明らかにバスタオルの中にはなにも着ていない……。
「ふふ。コジロー。あなたには罰を与えにきた」
「罰?」
この時点でご褒美の間違いではないのだろうか。
そう思っていると、シオリは中腰になり腕で胸を寄せる。
先程の四条みたいなグラドル王道的悩殺ポージングを披露した。
四条程胸のないシオリの胸が頑張って寄せられているのだが谷間はできなかった。そこがまた逆にエロさを感じてしまう。
「これでコジロー悩殺」
「いや、その。はい」
というか、別にそんなことしなくても既にシオリに悩殺されているのだけど。
そう言葉にしようとしたがシオリはむくれ顔になる。
「むぅ。反応が薄い」
どうやらこちらの反応気に入らなかったみたいだ。
すると次の瞬間。
「これならどう?」
ぎゅっとシオリは俺の頭を自分の胸に引き寄せた。
最初はいきなりのことで思考が停止してしまっていた。
だが、数秒もすると顔面から幸せな感触が伝わって来る。
「し、シオリ!?」
タオル越しの小さな胸。
柔らかく、温かく、ずっとこうしていたい欲求にかられてしまう。
シオリの胸。シオリの匂い。
どうして俺の許嫁はこんなにも心地が良いのだろうか。
「これでコジローは私なしでは生きていけない」
「こんなことしなくても俺はシオリなしじゃ生きていけないっての」
「うそ」
少し怒った口調。
抱きしめる腕に力が入り、胸の感触が、シオリの匂いが強くなり、理性がどうにかなりそうだった。
「純恋ちゃんの胸見てた。修学旅行の時だけじゃ飽き足らず、今日も見てた」
「ごめんなさい。本当にすみませんでした」
速攻で謝るが、シオリが耳元で「だーめ」と色気のある声で囁かれてしまい、耳まで幸せになってしまう。
「一生私の胸のことしか考えられなくなるまでやめてあげない」
どこか小悪魔的な表情を作るとシオリはタオルをずらして、直で俺の顔を押し付けた。
「シオリ……! これは……ちょっと……やばい……」
「ふふ。やばい?」
こちらの様子を嘲笑うかのような彼女。
「私の胸の感触を刻んで。私の胸はコジローのものだよ。私の胸なら好きに……して良いんだよ」
いつもの声。その中にふんだんに糖分が混じった声。甘い、甘い声。
そんな声で囁かれて、俺の中で理性という名の糸が切れた。
俺はすかさずシオリの胸から離れてキスをした。
「んっ」
いきなりのキスでシオリの息が漏れる。
彼女の甘い息を感じ取り、キスは段々とエスカレートしていく。
「はっ……んっ……あっ……」
重なり合う前戯のような激しいキス。
欲望のままのキス。
唇を離すとお互いに呼吸が乱れていた。
「コジロー。えっち、したい?」
潤んだ瞳で問われる悪魔的質問。
そりゃそうだ。と即答してやりたい。
こんなにも魅力的な許嫁。お互いの気持ちが通じ合った許嫁。
でもシオリを大切にしたいから。シオリとの将来を考えて、今はまだ重なり合うのは早いと思っている。
でも、こんなことされたら理性なんてどこかに吹き飛んで、今までの考えなんてどこかにいってしまう。
「シオリが欲しい」
素直に止められない感情を伝える。
シオリが欲しい。
シオリが……。
だが、俺の浴場とは裏腹に、彼女は勝ち誇った顔をしていた。
「でも、だーめ」
「へ……」
「言ったでしょ? 罰を与えに来たって。他の子の胸を見るコジローなんて私のことしか考えられずに悶々としてたらいいよ」
そう言ってシオリは浴室内を出て行こうとしたが、すぐに振り返る。
「あ、これ、とどめね」
そう言って優しいキス。
「んっ」
漏れる吐息を感じると、彼女は唇を離す。
天使の微笑みを浮かべてシオリは今度こそ浴室内を出て行った。
「ああ……これはきつい罰だな……」
他の女の子を見るとこんなきつい罰があるなんて……。
浴槽内に潜って、ぶくぶくとしたが、俺の脳内はシオリで埋め尽くされていた。




