許嫁と2年目のプレゼント
クリスマスキャンドルに火を灯──。
「せない!?」
こちらの嘆きの声と共にシオリがリビングの電気を点けてくれる。
真っ暗だった部屋を日常のシーリングライトが照らしてくれる。
テーブルにはチキンとケーキ。それとキャンドルという非日常的なグッズが並べられている。
「クリスマスキャンドルでクリスマスイブ雰囲気を醸し出そうとしたみたいだけど、ライターを買い忘れたね」
「冷静に言ってくれるな。虚しくなる」
「別に、これだけでも十分にクリスマスイブっぽい」
言いながらシオリはいつものダイニングテーブル席に腰を下ろした。
それに続いて俺もいつもの席に座る。
そう言ってもらえてありがたいのだが、今日はことごとく上手くいかないな。
心の中でため息を吐いていると、シオリが身を乗り出して真ん前まで顔を近づけてくる。
キスできる距離。
そんな距離で。
「えいっ」
「あいたっ」
デコピンをされてしまった。
「さっきも言ったでしょ。私はコジローといるだけで楽しい。だからそんな顔しないで」
顔に出したつもりはなかったのだが……。
「コジロー如きならお見通し」
「エスパー!?」
声に出していないのに心を見透かされるような発言をされてしまう。
「いや、まぁシオリの発言は本当にありがたいんだけど、1回くらい、バシッと決めたかったんだよ。男的には」
「えいっ。えいっ」
「あでっ。あでっ」
2回当たった。
「許嫁的にそんなのは求めていない」
「そうなの?」
「求めてるのはコジローと一緒にいることだけ。ただそれだけ」
シオリは着席してニコッと楽しそうに笑った。
「なんかこの雰囲気で言われるとちょっと……」
今日はなぜだが無償に照れてしまう。
「いつも言ってること」
「クリスマスイブだからかな」
「クリスマスイブ……」
なにかを思い出すように同じ言葉を繰り返している。
「去年のクリスマスイブは本当に楽しかった」
唐突に去年の思い出を語る彼女に優しく頷く。
「俺もシオリと過ごせて楽しかったよ」
「それってあの時から私のことが好きだったってこと?」
「それは……」
去年のことを思い出しながら口ごもってしまう。
あの時は少しずつ許嫁のいる生活に慣れて来てけど、まだまだ美少女との1つ屋根の下での生活にアタフタしていた部分もある。
余裕がなかったので好きとかの感情はわからなかったな。
結果的には大好きになったけど。
「私は多分好きだった」
「そ、そうなのか?」
聞くと、コクリと頷いてくれる。
「自分の気持ちには気が付いてなかったけど、コジローのこと好きだった」
思い出すように言った後、真っすぐ俺を見つめてくる。
「今は大好きになっちゃった」
物凄いストレートが飛んできて、俺の心臓が吹き飛んでいくかと思った。
「俺もシオリのこと大好き」
なんとか持ちこたえてくれた心臓に感謝をしながら、這いつくばるように出た言葉。
シオリは無表情を崩して顔を真っ赤に染めて俯いた。
「な、なんか今日は……凄い……ね」
「シオリから言って来たんだぞ」
照れているシオリを見て、こちらも顔を伏せてしまう。
冬なのに顔が火照って熱い。これが暖房のせいじゃないなんてすぐにわかる。
「ほ、ほらほら。チキンも冷めないうちに食べよう。せっかくのご馳走だし」
「仰る通り」
2人して顔を赤くして目の前のご馳走を食べた。
なんだか妙に照れくさくって、ドキドキしていたので味がわからなかったご馳走を食べ終えるとシオリが立ち上がった。
食後の一杯を淹れてくれるのだろうかと思い「待って」と声をかけてしまう。
俺はそそくさと立ち上がり、自室に戻る。
机の上に置いていたクリスマスプレゼント用にラッピングされたプレゼントを手に取りリビングに戻ると、シオリの手にも同じようにラッピングされたプレゼントが手に持たれていた。
「私も。このタイミングであげたかった」
「ベストなタイミングだったんだな」
つい彼女とタイミング合ったのが嬉しくて言ってプレゼントを手渡す。
すると彼女も手を出してこちらにプレゼントを渡してくれる。
「「メリークリスマス」」
お互いに言い合って、お互いのプレゼントを受け取る。
「なんだか大きさ似てるね」
「だな」
見た感じ俺のと似たような大きさ。
俺のプレゼントはマグカップ。
ハイブランド物でも良かったのだが、高校生なのであまり高すぎるのもどうかと思った。
マフラーとか衣類関係は去年と被るので却下にした。
それならば、シオリはいつもコーヒーとかカフェオレとか淹れるので少し高めのマグカップならアリじゃないかと思ってそれにした。
「な? シオリ?」
「なに?」
「今年も、せーのっで開けないか?」
「良いよ」
去年も同じく同時に開けたので提案すると、すぐに了承してくれた。
俺達は「せーのっ」と包みからプレゼントを取り出した。
シオリからのプレゼントは深い青色のマグカップ。
「これって……」
シオリが手にしているのは水色のマグカップ。
お互いに見合ってから「ぷっ」と一緒に笑いだす。
「仲良しかっ」
「だね。ぷくく」
去年と全く同じ現象に爆笑が起こってしまう。
こんなことってあるのかと。こんな嬉しいことあるのかと。嬉しいと笑ってしまうものだな。
「私が立ち上がった時、コジローがなんで止めたのかわかったよ」
「そうそう。コーヒー淹れるならそれで飲んで欲しくってさ」
「同じ」
短く言ってのけると嬉しそうに続けてくれる。
「私もコジローに新しいマグカップで飲んで欲しかったから、立ち上がって渡そうとした」
「俺達似た者同士なんだな」
「似た者許嫁」
「ゴロわるっ」
「でも相性は」
「最高だな」
言うとシオリは、にっこり笑って「それじゃ早速」と新しいマグカップを持ってキッチンに向かって行った。
俺はいつものソファーに腰を下ろしていると、すぐにシオリが新しいマグカップから湯気を立てて来てくれる。
それを受け取ると「乾杯」と言ってシオリがカチンとマグカップで乾杯してくれた。
「なんだか去年と丸被りだな」
「うん。でも、凄く楽しい」
可愛く両手でマグカップを持って、ゆっくりと口を付けるシオリへ言ってやる。
「こうなればとことん去年と被ろうぜ」
「?」
首を傾げるシオリへ、マグカップをセンターテーブルに置くと、テレビボードの中にあるゲームのコントローラーを取り出して見せてやる。
「今年も勝負といこうや」
言ってやるとシオリは「ふっ」と鼻で笑ってくる。
「さっき私達は似た者同士と言ったが、1つ圧倒的に違う点がある」
「なに? それはなんだ?」
「ゲームの強さ」
「ふ。持ち主に勝てるなんて思わないことだ」
「去年、全戦全勝」
「ぐっ」
確かに、シオリに負けていた気がするな。だからオールになった記憶がある。
「こ、今年は負けるかっ! 俺が勝つまで寝かせねえからな!」
「望むところ。今日のコジローは睡眠をとることはできない」
今年も勝ち確宣言されて、俺とシオリのパーティゲームでオールナイトシーズン2が始まった。
これだけは言えるのだが、お互いクリスマスの日はぶっ倒れるように深い眠りについた。




