許嫁とのイチャイチャは足りないらしい
聖なる日が今年もやって来る。
12月24日。クリスマスイブ。
今年も去年同様、今日が今年最後の授業。
授業といっても終業式と成績表の配布だけの学校。
出席番号順に配られる成績表を見ながら、去年よりは上がっているな、なんて思いながら席に着く。
まだ漠然と大学に行くことしか決めていないが、成績が良いにこしたことはない。成績が良ければ良いほどに選択肢が増える。行ける大学も増えるってもんだ。
成績表をじっくりと眺めていると「一色君」とこちらの席までやって来た四条に話しかけられる。
手に成績表を持っているので、もう全員に配られたのだと察する。
「おう四条。今年の成績はどうだった?」
「こんなものは──」
言いながら手に持っている成績表を破ろうとして。
「こう!」
思いとどまり、ブレザーのポケットに雑にしまう。
「成績表とかどうでも良いよ」
「いやどうでも良くはないだろう」
こちらの声を無視して「そんなことよりも」と手を合わせた。
「今年も映画研究部でクリスマス会するんだけど、どう?」
「今日はイブだぞ」
「ですよねー」
俺の回答がわかっていた様子で、苦笑いを浮かべる。
「四条は行くんだな」
「夏希ちゃんと五十棲先輩も最後のクリスマス会だし、それ考えたら私達は参加しないとって思って」
「そっか……。そういえば先輩達はもう卒業なんだな」
ふと当たり前のことをしみじみと呟いてしまう。
「うん」
少し悲しげな声を出して四条が頷いた。
「3年は3学期、ほとんど学校に来ないからね。今日にでも前言ってたこと決めてくるよ」
「前言ってたこと?」
なんのことを言っているのかわからずに首を傾げてしまう。
「忘れちゃった? 修学旅行の時に仲の良いメンバーで旅行行こうって行ったの」
彼女の言葉を聞いて「あー」と声が漏れると共に思い出す。
「言ってた。先輩達の卒業旅行も兼ねて行くってやつ」
「それそれ。本格的にその段取りしてくるよ」
「でも、良いのか? せっかくのクリスマスイブなのに」
言うと「ちっちっち」と指を振ってくる。
「イブの本番は聖なる夜だよ」
「え。もしかして今日本番なの? 聖なる夜なの?」
「い、いやいや! そういう意味じゃ……」
明らかにそういう意味な雰囲気が出ているのだが……。
「まぁ……これだけは言っておく。周りにもいると思うが、なぜ9月生まれが多いのか」
「そういえば9月生まれって多い気がするような……」
「それはだな。聖なる夜に聖なる儀式をしているからだ」
言ってやると。ポンっと手を叩く。
「周期とかを考えるとなるほどでんがな」
「四条と冬馬のジュニアが9月生まれの時は察するよ」
「聖なる夜に白銀の熱い想いを我が身に刻む──ってばかっ!」
パチンと肩を叩かれる。
下ネタノリツッコミとはテンションが高い奴だ。
そりゃ初めての大好きな人とのイブならこれくらいにもなるか。
「そういうことで、旅行の段取り決まったらすぐに教えるね」
「よろしく」
♢
今年の授業が終了した学内は冬休みモードに突入していた。
今日のHRは我が6組が1番遅かったみたいだ。
颯爽と帰る奴。関係なく部活に向かう奴。様々な人が行きかう廊下を4組目指して歩いて行く。
別段シオリと約束したわけではない。
だが、想いを伝えあった許嫁ならば言わずとも共に過ごすものだろう。
4組の教室を後ろのドアから覗いて見ると。
「あれ?」
シオリの姿は見えなかった。
「あれほどイチャイチャしろと忠告したろうに」
ふと目の前に眼鏡を、スッチャリンとしながら立っていた。
「いや、忠告通りあれからしたつもりだけど」
以前に映画研究部で正座説教をくらった後、とにかくイチャつく様にと言われたので学校でも結構べったりしていた。
そのおかげでシオリのファンクラブから狙われたりとかしたなぁ。なんとか今日まで逃げているけど。
「なら、足りなかったのだな。まだまだこの学校のベストカップルとして名が馳せていないというわけだ」
「カップルじゃなくて許嫁な」
「似たようなものだろう」
「確かに」
いや、今はそんなことは良い。
「イチャイチャが足りないのとシオリになんの関係があるんだ?」
「ふむ。気になるか?」
「気になる」
「では、教えてください冬馬様。ぽくチオリたんがいないとさみしくてちにちょうでちゅ。と言え」
「教えてください冬馬様。ぽくチオリたんがいないとさみしくてちにちょうでちゅ」
素直に言うと冬馬は驚きながら眼鏡を、スチャっとする。
「お前にはプライドがないのか?」
「シオリの居場所教えてくれるならなんでも良いや」
「くっ……これが愛」
なぜか勝手に冬馬が膝から崩れ落ちる。
「ちゅみまちぇん小次郎様。ぽくチオリの場所ちりまちぇん」
「てめこの野郎立ちやがれ!」
すかさず冬馬の胸元を掴んで無理くりに立たせる。
「まさか素直に答えるとは思わなかってな」
眼鏡が反射して少しシリアスな雰囲気が出ているが、この空気はそんな良いもんじゃない。ゴミの雰囲気だ。
「お前……まじでシオリの居場所知らないのかよ」
「ちらん」
即答で煽るような物言いに、イラッとしてしまった。
「よおし股間に力入れろぉ」
メキメキと指を鳴らしてやる。
「ま、待て! イブだぞ? 今日はイブなんだぞ!?」
「折角のイブの夜だってのに子孫繁栄できないなんて残念だな。相手が乗り気だっただけに誠に遺憾である」
「わーわー! すまない! ちゃんと言う! ちゃんと言うから!」
焦ってドタバタと暴れる冬馬を離してやると、ずれてもいない眼鏡を、スチャリンスとなおす。眼鏡の反射も元に戻った。
「今のは完璧に俺が悪い。すまない。イブに彼女がいるので浮かれていた」
自分の状況を理解できている分ましだな。世の中には自分が浮かれているのを知らない輩がいるからね。俺とか。うるせ。
「それで? 何かは知ってるんだろ?」
冬馬に答えを促すと次はちゃんと答えてくれる。
「学年3番人気の男子に呼び出されていたぞ。名前は確か──」
「名前とかどうでもいい。って、もしかして?」
「告白だろうな」
「はぁ」
最近、またシオリが男子から告白をされるようになっている。
冬になると告白される現象をなんて名づけようか。クリスマスシンドロームとでも名付けたらどうだろう。
そういえば去年もシオリは沢山の人に告白されて帰りが遅くなっていたな。
なんて懐かしんでいる場合ではない。
「どこ行ったかわかるか?」
「さぁな。結構強引だったな。乱暴まではいかなかったが。止めようとしたが七瀬川さんに目で止められてな」
シオリの性格上、面と向かって告白を断るつもりなのだろう。
しかし、強引にか……。
「探してくるわ」
「何かあればすぐに行く」
「サンキュ」
悪い予感を抱えながら冬馬と別れる。
どこに行ったのだろうかと廊下に出ると、すぐに居場所がわかった。
「そこかよ」
中庭だ。
廊下の窓から中庭の噴水に男子生徒とシオリの姿が確認できる。
あの美少女オーラは間違いなくシオリだ。シオリだけやけに輝いている。いつもの麗しのオーラを纏っている。俺でなきゃ見逃しちゃうね。
しかし、なんでどいつもこいつもあんな目立つ場所で告白するんだよ。伝説の噴水みたいな感じなのか?
あそこで告白すると成功するみたいなノリの噂が流れてるのか?
俺の知ってる限り、あそこでの勝率0%なんだけど。
変に長くなったので分けて投稿します。
また夜に投稿する予定です。




