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許嫁は容赦なく足をつんつんしてくる

 足が痺れてきている。


 椅子の上で正座をしているから、なんとなく普通に正座をするよりも足の痺れが早くやってきている気がする。


 昼休みにいつも通り映画研究部にやって来て、さぁお昼を食べようかという前に冬馬と四条から正座をするように言われた。


 正しくは「そこに直れ」と言われてしまった。


「まったく……」


 大手企業の人事部長みたいな雰囲気で、両肘をついて眼鏡を、クイッとしている冬馬は呆れたため息を吐いた。


「原因は一色くんにあるんだからね」


 四条の怒ったような声は、彼女の優しく柔らかい顔とマッチしておらず、どうも説教を受けている気になれない。


「一色くんが学校でシオリちゃんとイチャイチャしないから、まだシオリちゃんがフリーだと勘違いした男の子がアタックしちゃうんだよ」

「そうだぞ。無謀な挑戦。目に見えぬワンチャンこそ男の浪漫と思う輩が七瀬川さんに告ってしまう。これじゃ七瀬川さんだけじゃなく、他の男子も生き殺しとなる」

「「ねぇ♡」」


 このバカップルは、目を合わせてはにかみやがって。


 冬馬……。お前本当に変わったよ……。


「つんつん」

「んほっぶ」


 突然、隣の席でシオリが足をつんつんしてきやがった。


 足が痺れている時の足つんつんは地獄の所業。


 まさに隣に座るのは鬼。


「ぷくく。んほっぶだって」


 天使だったわ。


 いや、今のシオリのレベルを考えたなら女神か。


「つんつん」

「や、やめほぉおおん」


 変な声が出てしまって、シオリはつぼったのか「ぷくくくく」と声を押し殺して笑っている。


「あ! こら!」

「目を離すとすぐイチャイチャしやがって。それを皆の前でやれと言っているのだ」


 自分達のことは棚上げに、四条と冬馬が上から目線で言ってきやがる。


「小次郎に反省の色が見えないな。七瀬川さんも誰かに告られるの嫌だろうに」

「別に」


 即答する。


「秒で断るだけ」


 シオリの回答に冬馬は納得したように眼鏡を、スチャランコした。


「流石は冷徹無双の天使様だ」

「でも」


 言いながら、つんっと俺の足を触る。


「ふんもっ」

「学校でもイチャイチャすれば不安解消。だね」


 シオリの言葉になにかを察した四条が少し心配した様子で尋ねてくる。


「一色くん悩みでもあるの?」

「おいおい。こんな美しい許嫁と一緒に暮らして四六時中イチャついてるくせに悩みなんてあるのか? 贅沢な奴だな」

「お前だけには言われたくないわ」


 限界がきて「もういい?」と聞くと四条が笑いながら「いいよ」と言ってくれるので普通に座る。


 あー、足が伸ばせるっての素晴らしい。


「悩みがあるなら聞くよ?」


 四条が優しく言ってくれると、俺の代わりにシオリが答えた。


「進路で悩みがあるんだって」

「あー。なるほど。進路ね」


 どこか納得した様子の四条と。


「進路で悩んでるのか?」


 なんで悩んでいるのかわからないと言った様子の冬馬。


「そういうお前は進路決まってるのか?」

「進学するつもりだ」

「そうなん?」


 お前の成績で? なんて言おうとしたが、すぐに言葉をひっこめた。流石に失礼すぎる。


「お前達を見ていると、なんだ、純恋以外の女性と一緒になれる気がしなくてな。許嫁ってわけではないけど……。これから先、純恋と一緒になるなら少しでも給料が良いところに就職したい。少しでもというのなら、現実問題大卒の方が初任給が良いからな。それにやりたい仕事も見つかっていないからな。だから進学だ」

「そっか……」


 冬馬は進学で固めているのか。


「成績の良いお前の進路なんて進学以外にないと思っていたが」

「あー。まぁ……」


 チラリとシオリを見てからすぐに四条に視線を送るとなにも言わずとも答えてくれる。


「あたしも進学かな。特にやりたいことないし。できれば冬馬くんと同じ学校」

「ふっ。高校を卒業しても俺達は赤い糸で繋がっている」

「うん。繋がってるよ」

「レッドな糸こそデスティニー」

「デスティニー」


 しっとりキュンな声で俺は一体なにを聞かされているんだ。


 正直、めちゃくちゃださい会話だったぞ。


 それを思ったのはシオリも同じみたいだ。


「そういえばみんなは選択授業の方は決めたの?」


 無表情の中に若干の引きを感じつつも、それを表に出さないように……。


 いや、俺にはわかる。この距離ならわかるわ。


 シオリめちゃくちゃ引いてるわ。


 だからこその話題転換。


「ああ。選択授業な」


 進路の方で気を取られすぎて忘れていたが、来年の選択授業の希望用紙も配られていたな。


「あ! そうそう。それだよそれ。汐梨ちゃんありがとう。今日はそのことについて話そうって冬馬くんと喋ってたんだ」

「選択授業同じにしたら同じクラスになる確率が上がる」

「最後の学年こそは4人共同じクラスになりたいもんね」

「「ねぇ♡」」


 バカップルめ。


 しかしだ。


「賛成だな。選択授業なんて正直なんでも良いし、みんなで合わせよう」

「異議なし」


 俺とシオリも問題なしということで、昼休みはみんなでどの授業を選択するか決める会議が始まった。


 まぁ秒で決まってしまったのだけどね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 文理の問題は発生しないのか。 特に理系の専攻って意味では、東大が一番選択を後回しにできそうだけれど。普通の大学だと、受験の時点である程度専攻決めないといけないものねえ。 その点は文系の方…
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