許嫁と修学旅行⑤
「もう……修学旅行も終わりか……」
沖縄修学旅行最終日。
最終日は自由行動で、沖縄の街を探索して良いとのこと。メンバーも自由なので、いつもの四人で商店街を歩いていた。
修学旅行って、もっと、はしゃいで、騒いで、思い出めっちゃできるって印象だったのに……。
──まぁ……。昨日の海での思い出は、かなり印象に残ってるけどな。今日の朝、夢精してないか、めっちゃチェックしたわ。
チラリとシオリを見る。
この斜めからの横顔のシオリの可愛さと言ったら……。
そもそも、斜めからの横顔は誰でも三割り増しでかっよく、可愛くなれるってものだ。それを、どの角度から見ても可愛いシオリを、最強の角度で見たら、もうそれは、可愛いは作れるじゃなくて、可愛い増し増しだよ。このやろう。
こんな子と昨日の海で……。もし、俺は断らなかったら、沖縄の海で……。
あ、やばい。これはいけません。誰も見ていないうちに、チンポジを整えないと!
「なんか、あっという間だったね」
チンポジを整えていると、四条が俺の言葉を拾ってくれた。
「そうだね」
四条の声にシオリが反応する。
「正直、めっちゃ楽しかった! ──って感じじゃなかったよねー」
「うん。家でもできたことしただけ」
「ん? どういうこと? シオリちゃん」
四条との会話でシオリが無表情の中にも「しまった」と言わんとする顔を見せる。
「や。なんでも……」
「んー? 怪しい……。ね? 一色くん?」
ピョンと跳ねて俺の前に来る四条。
昨日のこともあり、視線が胸にいく。心なし、揺れている気がする。
デカかったな……。四条のパイ……。
──はっ!? いかん! 心をシオリに持っていかないと!
シオリのおっぱいは小さくて綺麗。シオリのおっぱいは小さくて手触りが良い。シオリのおっぱいは揺れない。シオリのおっぱいは──。
「ふんっ!」
「っつー!」
思いっきりシオリに踏まれた。
「な、何すんだよ……」
「なんとなく。直感だけど、私の中の私が攻撃を仕掛けた方が良いと言っていた」
正解だよ。私の中の私さんよ。
「修学旅行というのはそういうものだろう」
ふと、冬馬が眼鏡をカチャリとして会話に参入してくる。
「所詮は学校側が提示してくれた行事に過ぎない。それに過度な期待をした俺たちの負けだ」
「海で大はしゃぎだったやつが、よく言えたな」
「ふっ……。あれは修学旅行ではしゃいだのではない。個人的理由だ」
思い出したのか、冬馬がニヤリとした。
こいつも頭の中ピンクになってきたな……。気持ち悪い。
「まぁ……でも、冬馬の言う通りだよな。学校が企画した旅行だもんな」
修学旅行という言葉の魔法に魅せられたってところか……。
「──そうだよ!」
四条がいきなり、ぽんっと手を叩いた。
「どうした純恋? ケバブでも買い忘れたか?」
「ケバブ?」
四条が?マークを出していた。
「沖縄の名物だ」
「ああ! ケバブ! うんうん!」
こいつらは何を言っているんだ?
俺が困惑しているとシオリが、くいくいっとして耳打ちしてくる。
「多分、スパムと間違っている」
「ああ、テレビで沖縄のソウルフードって言ってたな」
コクリと頷く。
「間違いを訂正させた方が良い?」
シオリが聞いてくるから首を横に振る。
「楽しそうに喋っているからやめておこう。バカは一生治らん。まさしくバカップル」
二人のケバブネタが落ち着いたところで、改めて四条に問う。
「それで? なにか言いかけたんじゃないの?」
聞くと四条は「そうそう」と頷いた。
「さっき一色くん、なんて言った?」
「え? ええっと……『楽しそうに喋っているからやめておこう。バカは一生治らん。まさしくバカップル』だったかな?」
俺の答えに「はあ!?」とバカップルが怒りを露わにした。
「小次郎! お前! いきなり悪口とは良い度胸だな!」
「なんでいきなり悪口!?」
「いやー、なんでケバブネタで盛り上がってるのかな〜? と」
冬馬が眼鏡を光らせる。
「ここがケバブ発祥の地だからだろうがっ!」
「そうだよ! ケバブ発祥地のことを語って、なんであたしたちが言われないといけないの!?」
「うるせーよ! そこなんだよ! 俺が言いたいのはそこなんだよ! なんでケバブなんだよ!?」
我慢できなくて言うと「言ってるし」とシオリがつぶやいた。
冬馬が眼鏡を高速でガチャ、ガチャした。
「わかってんだよ! 序盤で間違いに気がついたんだよ! でも純恋が話し乗ってくれるから、合わせたんだよ! 純恋に恥かかせるわけにはいかないだろうがっ!」
「ええ!? そうだったの!? 言ってよ冬馬くんっ! 私も気がついていたよ。冬馬くんがなにが言いたいか」
「すまない純恋。沖縄の名物といえば」
「うん」
「「せ〜の」」
「牛タン」「カニ」
場に緊張が走る。
耐えられなくなった俺はつい言葉に出してしまった。
「これってボケ?」
「小次郎おおおおおお!」
「もう許さないんだからねええええええ!」
「なんで!?」
俺は、バカップルにボコスカにされてしまった。
「まさにカオス理論。意味不明」
シオリ……。その通りだよ。
♢
「どうでも良いんだよ! そうじゃなくて! 四条はなにが言いたかったんだよ!?」
話しがズレたので修復する。
「だから! 一色くんが『学校が企画した旅行』って言ったでしょ!?」
「言った!」
「そこだよ!」
ビシッと指を差してくる。
「どこ?」
「あたしたちで企画すれば良いんだよ」
「ほう」
冬馬が眼鏡をカチャリとした。
「つまりだ……。仲の良いメンバーだけで旅行に行く」
「そういうことだよ!」
「純恋……天才か!?」
「えへへ」
一般的な旅行の段取りだよ。好きなメンバーで行くって言うのは。
なんて言うと、またややこしくなりそうだからやめておく。
「先輩達がもうすぐ卒業だからさ。最後に大きな思い出作りたいって思っててね」
「あーなるほどな。それは先輩達も喜ぶんじゃない?」
「それ、良き」
シオリが四条にグッジョブをした。
「でしょ!」
パンと手を叩いたあとに四条が真剣な顔をする。
「もちろん、一色くんも汐梨ちゃんもきてくれるのよね?」
俺たちは顔を見合わせてすぐに頷いた。
「じゃあ、早速行き先決めないと!」
「修学旅行中に旅行先決めるって中々だな」
「あはは。だね。でも、こっちの方がずっと楽しくなるよ!」
四条の言う通り、そっちの方がずっと楽しくなる気がした。




