許嫁と修学旅行④
「海だああああああ!!!!!!」
そう言いながらキャラを崩壊させて海に走り出すイケメン眼鏡の冬馬。
「うおおおおお!!!!!!」
そして、すぐに帰ってくる。
「小次郎おおおおおお! 海だぞおおおおお!」
耳元で騒ぐので、手を耳でおさえて答えてやる。
「半裸の眼鏡がうるせえええ! わかってるわあああ! そんなこたああ!」
「海っ! 海っ! 海っ!」
まるで幼い子供がハイキングでスキップするみたいに、俺の周りをスキップする冬馬。
「うぜえよ!」
「だってよ! だってよ!」
「よし、わかった。落ち着け。キャラが崩壊している。まじで。ここら辺で落ち着かないと、わけわからん」
「う、うぬ。それは俺も思った」
俺の言葉を素直に受け止めてくれて、冬馬が眼鏡をカチャってしてくれる。
「お前、そんなに海好きだったっけ?」
「海自体は好きだが、キャラ崩壊まではいかない」
「じゃあ、なんで崩壊させてるんだよ?」
聞くと冬馬はドヤ顔をしてくる。
「ふっ。知れたこと。それは……」
「それは?」
冬馬は眼鏡を光らせて答える。
「純恋の爆乳が見れるっ!」
スチャ。
「──いやいやいやいや」
俺は手を横に振って苦笑いをする。
「ドヤ顔からの眼鏡スチャじゃないんだよ」
「お、お前……純恋の水着だぞ!? なにをそんなに冷静でいられるんだ!?」
「お前ら付き合ってんだろ? それ、片思いの奴のテンションだぞ?」
「俺たちはピュアなお付き合いだからな。それに、このテンションは七瀬川さんでは確実に味わえないだろう」
「その心は?」
「あの天使はひんにゅ──」
『とうっ』
冬馬は言葉の途中に俺の前から姿を消した。変わりにシオリが目の前に立っていた。
最初はわけがわからなかったが、察するにシオリの飛び蹴りが炸裂して、冬馬が海に放り出されてしまった。と言うのが俺の脳内の答えである。
「懲りない男だ」
海に浮かぶ冬馬を見て儚げに言うシオリ。すると、すぐに視線をこちらに変えて無表情で聞いてくる。
「どう?」
質問は水着に対することだろう。
夏に着ていたフリルビキニは今日も爽やかな印象である。
「可愛いよ」
「水着が?」
「シオリがだよ」
「と、当然だよ……」
無表情が崩れて、少し照れるシオリが愛おしくなる。
『ごめーん。遅くなってー!』
そう言いながら、二つのメロンを揺らして砂浜を走ってくる天使が一人いた。
『おおおおおお!』
砂浜にいた、我が校の生徒たちがその人物へと注目する。俺もその一人となってしまっている。
メロン業者は俺たちの前で立ち止まった。
「お待たせー」
四条純恋。制服越しで巨乳というには見た目にわかったいた。だけれども、ここまでとは思いもしなかったぞ。
そして、ただでかいだけじゃない。水着もちゃんと似合っている。
黄色のシンプルなビキニは彼女の元気さをよく表しており、彼女の性格にぴったりなものとなっている。
ただ、膨張色を選ぶことにより、その大きな胸がさらに大きく見えるから、もはや日本人離れした超高校級のパイオツと化しており、見てるだけで息子がエナジードリンクを飲んだみたくなる。
ついつい、彼女を見ていると目の前から殺気を感じた。
「はっ!?」
見ると、シオリが無表情であった。無表情であった。とても怖かった。
「し、シオリ?」
俺を無表情で見ると、シオリは無視して四条に話しかける。
「ごめん純恋ちゃん。六堂くんを吹っ飛ばした」
「あはは! 冬馬くんがまたいらないこと言ったんだねー。ごめんね」
「ううん。大丈夫」
普通に会話をしているみたいに見えるが、シオリの背中には鬼がいるように見えた。
※
「えーい」
ぶるるん。
「そーれ」
ぶるるん。
「きゃはは!」
ぶるるんるん。
あかん! ビーチバレーしてる時、俺の視線が友達の彼女の乳にいってまう。これはまじで色々あかんやつ!
でもよ? でもだよ。あんなでかいもん目の前でぶら下げてたら視界に入るっしょ? 見てしまうっしょ。だって男の子だもん。おっぱいは正義だもん。
これはあれだ。梅干しを見たら自然とよだれが出るという反射なんだ。
目の前におっぱいがあったら見る。これも立派な反射なんだ。
だから許してくれシオリ。せめて無言はやめてくれ。冬馬みたいに吹き飛ばしてくれ。そうなると俺の欲も消えてくれるかもしれないから。
「少し休憩にしよう」
冬馬の提案に「そうだねー」と四条がのって、俺たちは休憩することにした。
こちらとしては助かった。これ以上続けていたら大変なことになっていただろう。ナイス発言だ冬馬。
そう思い彼を見たところ、前屈みになっていることがうかがえる。お前も息子が破裂寸前かい?
ともかくだ。この休憩中におっぱいのこと以外を考えないといけない。
素数だ。素数を数えよう──。
「来て」
「え?」
俺が素数を数えようとしたところ、乱暴に手首を握られる。そのまま引っ張られてしまう。
「お、おい。シオリ?」
ザクザクと砂浜を歩く様子は怒っているようで、俺の言葉を無視して歩き進める。
「シオリ様? どこへ?」
ご機嫌をとる口調で喋りかけるが、無視されてしまう。
そのうちに、波打ち際ではしゃいでいる修学旅行生の声は遠くなり、しまいには波の音だけしか聞こえなくなっていた。
人気のない岩陰でようやくと立ち止まる。
「シオリ……?」
手首を握ったまま立ち止まっていること数秒。特にアクションを起こさない彼女を呼ぶと、思いっきり引っ張られる。
そして──。
「ん……」
キスをされる。
そのキスはいつものキスとは違い、激しいキス。
シオリは激しく唇を求めるようにキスをしてくる。
「うおっ!」
いきなりの激しいキスで足元のバランスを崩した俺は、そのままシオリと砂浜に倒れてしまう。
「いてて……。大丈夫か? シオリ」
俺の胸元に乗っているシオリは無言で俺に覆い被さり、先程の続きと言わんばかりに激しいキスをしてきた。
「ん……はうっ……」
シオリの求める声が漏れる。
こんなにも求めてくるシオリは初めてで、俺はどうして良いかわからなかった。ただ、彼女を受け入れるためのキスを返すことに集中した。
「はぁ……はぁ……シオリ?」
長く激しいキスの後、乱れた呼吸で顔を真っ赤にしたシオリが小さく言った。
「言ったでしょ?」
「え?」
「昨日の夜。他の女の子のこと考えたら許さないからって」
「言いましたね」
「今日、ずっと純恋ちゃんのこと見てる……」
拗ねたような声を出すシオリに申し訳が立たない。
「そ、それは……」
しかし、上手い言い訳が出ずになんとも情けない声が出る。
「だから、私だけを見るようにお仕置きが必要」
そう言ってシオリはビキニを脱ごうとしていた。
「し、シオリっ!? そ、それは──」
「ジッとしてて……」
俺を黙らすようにキスをしてくる。頭がポーッとする。一瞬、もうなにがなんだかわからなくが、唇を離して脱ごうとしているシオリを制止する。
「だめだって! シオリ! 修学旅行中にそんなことしたら退学だぞ!?」
「それでコジローが私だけを見るなら退学でもいい」
「待て待て待て!」
「許嫁でいたしてないのはおかしい。そしてこの砂浜のシュチュエーションでのロストバージン。良き」
「良きじゃなーい! ロストバージンはベッドでな!?」
「童貞の妄想は儚く消える」
「いや! 結構理想のシュチュエーションだよ!? 砂浜でいたすのは!? ──だから! 違うって! シオリ! 落ち着け」
「こんな状況でも最後までしないの? 私のこと飽きた?」
「違うって! まじで!」
俺は上半身だけを起こしてシオリを見つめる。
シオリも興奮しているのか、息が上がっている様子だ。
「こんな状況なら今すぐにシオリを抱きたい。求めたい。でも、今は修学旅行中だ。そんなことしてバレたら退学だ。俺はシオリと卒業したいんだよ」
「童貞をでしょ? だから卒業させてあげる」
「違うわっ! 学校をじゃ!」
「え? 私で童貞卒業しないの?」
「するよ! シオリでするに決まってるだろ!」
「私もコジローで処女卒業する」
「待て待て! まじで停学になるぞ!」
「だって……」
「シオリ? 俺がシオリを飽きたとか、そんなこと俺が思うわけないだろ?」
「でも、純恋ちゃんの胸ばっかり」
「本当にすみません。もう見ません」
「ほんと?」
「今ので俺の脳内にはシオリのことしか頭にないよ。もうシオリでいっぱい」
精一杯の答えにシオリは不服そうな顔をした。
「わかった。じゃあ、コジローからキスして」
瞬間、俺はシオリを強く抱きしめて唇を重ねた。
重なり合えない欲求を満たすように、野生的に激しいキスを交わして唇を離す。
「コジロー……激しすぎ……」
「下手くそだったな」
「キスに上手い、下手があるのか知らないけど、コジローとのキスは全部好きだよ」
「シオリ……」
「コジロー……」
見つめ合い、最後に軽く、いつものキスをして立ち上がる。
「戻ろっか」
シオリが先を歩くので頷いて隣を歩く。
「だな。戻ったら冬馬と四条になにしてたか疑われそうだな」
「ていうか、あんな激しいのも修学旅行中ならアウトなんじゃない?」
「それは言えてる」
「ふふ。でも、冷静になったら、ここでの思い出も良いかもだけど、やっぱり私はいつもの場所で、あなたとの思い出がいっぱいの場所がいいかな」
「今日のシオリはエロいな……」
言うと、ジト目で見られる。
「コジローが他の女の子を見るからでしょ」
「本当にすみません」
「プクク。まぁ別にそこまで怒ってないよ。私ですら視線が行くんだから仕方ないよ。でも、仕方ないってわかってても、やっぱり嫉妬しちゃってさ。コジローには私だけ見て欲しいから。だから……ね……」
「もう、シオリのことしか考えられないよ」
そう言って手を繋ぐ。
「次、もし他の女の子ばっかり見てたら、もっと強いお仕置きだからね」
「は、はい」
尻にしかれる発言をされて、俺たちは元の場所に戻って行った。




