許嫁と修学旅行②
沖縄に到着した俺達は息つく暇もなく、バスに乗り込んで昼食会場へと向かった。
クラス別で席を決められており、特に盛り上がることなく早めの昼食をみんなで取り、次に向かった先は、ホテル方面にある有名水族館である。
「水族館ね……」
水族館前の広場。大きな館内マップとジンベエザメの像がある広場にて、先生たちからの注意事項を聞かされて、ようやく自由行動。
自由行動ということで、クラスから離れ、俺と四条はシオリと冬馬と合流した。
ほとんどの人が水族館内に入って行ったが、俺たちはこの場で駄弁っていた。
「良いじゃん水族館」
シオリが少し、わくわく気味に言ってくれる。
この前行ったばかりだが、シオリは楽しみにしているみたいだ。
「でもよ? 水族館でいきなり告白する奴とかいるかもじゃん」
笑いながら言うと、シオリが「プクク」と笑う。
「あんな勇者は私達の地元だけ。ここの人は水族館で脈略なしに告白なんてしない」
「脈略はあっただろ!?」
耐えられなくなった冬馬が眼鏡を高速で、カチャカチャしながら抵抗した。
「あ、復活している」と俺とシオリの声がシンクロしたが、無視して続けてくる。
「七瀬川さんは特に知ってたろ?」
「普通はデート後に告白するもの。それを、デート中に告白とか……。ぷくく。早漏」
「ぐっ……。ごもっともだ……」
シオリがグイグイ冬馬を押している。最近、シオリが冬馬に対して当たりが強い気がするが──。
面白いので放っておこう。
「でもだぞ!? 七瀬川さん」
「ん」
「抑えきれない気持ちが溢れて、もう止まれなかったんだ!」
沖縄の気温みたいに熱い言葉を発する冬馬とは別に、シオリは北海道にいるかのように冷めた顔で見つめていた。
「冬馬きゅん……」
手を組み、乙女の表情で、キラキラなエフェクトを付けて、キュンキュンしている四条。
こいつらテンション高いな。
「おい、彼ピッピバカ。キュンキュンしている暇はあるのか?」
「え?」
四条が、キラキラなエフェクトをやめてこちらに反応するので、二人の方を指差す。
いつの間にかシオリが論破に論破を重ねて、冬馬がぐぅの音もでない程に、メガネをカチャっている。
流石は冷徹無双の天使様。討論が強すぎる。怖い。てか、冬馬、何言った? なんかえぐいことになってるんだけど。
「オタクの彼氏、うちの許嫁にズタボロにされてますよ?」
「まぁ……確かに、あそこで告白はちょっとズレてたよね」
「バカップルなのに、そこは冷静」
「いや、まぁ……答えがわかってるからの行動だったろうけど、普通は水族館の途中で告白しないよね。しかも、海中トンネルだけど、あそこって一応通路だし」
「当人が言うとなんとも……」
発言に困っていると「一色くんもさ」と俺の話題を出されてしまう。
「答えがわかってるからあんな大胆な行動できたんでしょ?」
「え? お、俺?」
「体育祭で借り物競走抜け出して教室で告白」
「な、なぜそれを知っている!?」
「なんで逆に知らないと思ってるの?」
「それは言えてる」
「借り物競争を抜け出して告白とか、もう確定じゃないと実行できないよね?」
「いやー……あの時は、確定とか、そんな気持ちじゃなかったな……」
「ええ!?」
四条はひどく驚いた声を出す。
「それってフラれた時、どうしてたの?」
「そん時は……どうしてたんだろうな……」
苦笑いで言うと、四条がクスリと笑った。
「一色くんも人のこと言えないじゃん」
「おっしゃる通りです」
このままの流れはまずい。俺も冬馬みたいになる可能性がある。
あーあー。冬馬のやつ、シオリにダメ出しされてるし。もはや、眼鏡カチャリもやめて、母親に怒られる子どもみたいになってるし。
「お、おたくの彼氏さんがやばいから助けてやるか」
そう言うと、四条が二人を見て「だね」と同意してくれる。
「おおい。二人とも。せっかく来たんだし、写真撮ろうぜ」
二人に話しかけると、冬馬が俺を救世主みたいな顔で見る。
そりゃ、こんだけ言われりゃそうなるわな。
シオリは少し楽しそうだった。やっぱ、こいつSだわ。
「撮ろう! ほら、ここが映えるぞ!」
冬馬は水族館の看板の前を指差した。先程から他の人が写真を撮っていたところだ。
「みんなで撮ろう! な! ──あ! 先生!」
冬馬が一目散に先生のところへ駆け寄る。
「シオリ……お前、なに言ったんだ?」
「別に。全て正論」
「あんまり正論で殴ってやるなよ……」
「ふっ……。私を『完璧な天使様だが、ある一点において不完全な存在』と言った罰」
言われて、胸に視線がいってしまった。
「コジロー?」
ギロリと睨まれる。
「そ、そそそそそそれは冬馬が悪い。もっと言ってやればよかったな!」
胸の話しはシオリにはNGだ。めっちゃ怖い。




