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機内にて

 搭乗時間が来て、俺達二年生は沖縄行きの飛行機へと乗り込んだ。

 運が良かったみたいで、エコノミークラスは我が校のみの貸切りみたいな状態となっているらしい。

 他の客からしたら修学旅行生と同じなんてハズレ中のハズレだもんな。

 しかし、ビジネスクラスやファーストクラスには他の客が乗っているので絶対に行くなとの注意があった。

 修学旅行のテンションに乗っかり、見てみようぜ、なんて輩も出るからも知れないから、前の席には先生達が見張りも兼ねて乗っている。もし、調子ぶっこいだら強制帰還させられるらしいから、そんなリスクをおう奴は多分いないと思う。


 機内は修学旅行生にしては、わりかし静かな分類ではなかろうか。

 最初、飛行機が飛んだ時は『イェー』みたいなテンションだった人もいたが、安定して飛んでしまえば、バスや電車みたいに静かに過ごしている人がほとんどである。

 まぁそれはクラス別に席が決められてることも関係するのかもしれないな。我がクラスは大人しいクラスだし。

 俺も最初は窓の外を見て「雲よりも上飛んでやがる」なんて思ったが秒で飽きてしまった。


「こーんな美少女が隣に座っているのにテンション低いねー」


 窓際の席で、ボーッとしていると隣に座った慈愛都雅の天使様である四条純恋が絡んできた。


「彼氏持ちの隣に座ってもテンションは上がらんだろ」

「ふぅん。あたしに彼氏がいなかったらテンション上がってたと? 汐梨ちゃんに言おうっと」


 意地悪な口調で言い放ってくる四条に鼻で笑って返す。


「そんなもんじゃシオリは何も揺るがないさ」

「ほほう」

「てか、俺の許嫁は冷徹無双の天使様だぞ? 超美人芸能人が隣でもなんにも思わないさ」

「た、確かに……。あんな男の子の妄想みたいな美少女と許嫁ならその気持ちもわかるかも」


 案外、すぐに納得されてしまう。


「でもでも。あたしも美少女でしょ? ね? ね?」

「おうおう。どうしたよ? テンション高いな」

「高いよー。修学旅行だもん。バイパスぶちアゲだよー」

「バイブスだろ? バイパスぶち上げてどうすんだよ。その迂回路は空中庭園にでも繋がってるんですか?」

「オゾン超え、宇宙へ」

「テンションたけぇ。あー、あれか……。冬馬と隣になれなかったからテンションが空回りしてんだな」


 ジト目で言ってやると唇を尖らせる。


「だってさ……。あんまりウロチョロして先生の目に止まると、せっかくの楽しい修学旅行が台無しになるじゃん」

「ま、ここは彼氏の友達の隣で我慢しな。俺もそうしてるし」

「むぅ……。その言い方は引っかかるな……」

「あはは」


 俺の笑い声の後、少しの沈黙。その沈黙を四条は顔付きを変えて、少し真剣な顔で破った。


「一色くん、楓先生のことってなにか聞いた?」

「美波先生?」


 美波楓先生は、一年の時の担任。二年の時も担任だったのだが、結婚と妊娠を機に学校を退職した、年も近く、可愛らしい先生である。


「あ、知らない?」

「なんのこと?」

「もうすぐお子さんが産まれるんだって」

「へぇ。そりゃおめでたいな」

「うん。楓先生からメッセージもらってね。冬馬くんも」


 なるほど。美波先生は映画研究部の顧問だった人だ。部員の連絡先は知っていてもおかしくはない。


「それでね……。冬馬くんがなんとも言えない顔だったんだよね」

「あー……。まぁ、なんとなくわかる……気がする」


 美波先生は冬馬の初恋の人でもある。そりゃもちろん、今は四条という可愛い彼女がいるけど、そんな人が人の親になろうとしているのは、なんとも言えない気分だろう。


「うん。あたしも冬馬くんの気持ちはなんとなくわかる。わかるけど──」


 四条は苦笑いで続ける。


「あたし、やっぱり性格が悪いのかな……。それで不安になって、冬馬くんをお父さんに会わせちゃったんだよね」

「なるほど」

「それで、お父さんにも迷惑かけちゃったし、冬馬くんにも迷惑かけちゃって……空回りしちゃったんだよね……」


 笑って言う彼女だが、内心は少し、まいっている様にも見える。

 そんな彼女へ、少し言葉を選んで答える。


「別に性格は悪くないと思うし、不安になるのは当たり前だと思うぞ」

「そう……かな……」

「そりゃそうだろ。いくら両思いで学校でも、イチャイチャベタベタしてるアホップルでも──」

「ちょっと? 一色くんたちには絶対言われたくないんですけど?」

「あはは」


 とりあえず笑って誤魔化して言葉を再開する。


「両思いになっても、彼氏彼女になっても、相手の心まではわからないだろ? 不安なんだよ。それはみんなだと思う。世のカップル様たちはみんな不安なんだよ。それを埋めるためにイチャイチャしてるってこった」

「一色くんたちも?」

「俺たちは心の底から愛し合っている」

「うわー。そう言うこと平気で言うとか」

「引くなよ……」


 コホンと咳払いをして仕切り直す。


「不安な気持ちってのは決して拭えない。一時的に拭えたとしても、また違う不安がくる。だから愛する。──まぁつまりだ……。冬馬がもしかしたらまだ美波先生に気があるかも知れないって不安になったからの行動だろ? 俺は性格が悪いとは思わないな。その不安分、家でイチャイチャしたんだろ?」


 聞くと、頬を赤くして「まぁ……」と頷く。


「大丈夫だよ。おまえらは」

「なんか……いつも一色くんにはあたしの弱い部分見せてる気がする……」

「今更だろ」

「なんかズルい……」

「その分、四条のかっこいいところも、可愛いところも見してもらってるから良いだろ? ──って、こんな事言ってるところをあいつに見られたらしばかれるな……」

「冬馬くん、嫉妬してくれるかな?」

「そりゃあいつは四条のことなら嫉妬しまくりだろ。俺がもし純恋とか呼んだ日にゃコロされるかも」

「嫉妬に狂う冬馬くん……」


 何かを妄想する四条が微笑んだ。


「今度名前で呼んでよ」

「絶対やだ」

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