許嫁たちとショッピングモール
放課後になり、俺たち四人は電車でイロンモールへと向かった。
電車に揺られること数十分。目的の駅へと到着し、ホームへと降り立った。
ホームの目の前にデカデカと建っている『イロンモール』と書かれた建造物。
ネットでも書いていたが、本当に駅の真前にあるらしい。
改札はホームから階段を上った先にあるから、人の流れに乗って改札を目指す。
改札を出ると、すぐに『イロンモール』と書かれた出口があった。どうやら駅直結みたいだ。
駅とイロンモールを繋ぐ橋を渡り、イロンタウン二階の玄関口に入る。
玄関の先にはイロンブランドの店みたいだ。他の専門店は奥にあるみたいだな。
「思ったんだけどさ」
玄関に入って、なんとなく♢型の陣形になった俺たち。
その陣形になって、俺が口を開いた。
「どうしたの? 一色くん」
「いや……この時期に水着って売ってんの?」
「あ……」なんて女性陣二人の声が漏れた。
「ふむ。言われればそうだな。沖縄の海は泳げるかもしれないが、俺たちの住まいは泳げる季節ではないからな」
カチャっと眼鏡を上げながら冬馬が俺に同意の言葉を出す。
「コジロー……」
シオリが俺の頬を軽く触って来る。
「判断が遅い」
「最近金曜ロードショーで興行収入一位の映画版がやってて、その後アマズンプライムでTVアニメ版を一話から見直したアニメの真似にしては優しすぎるよ? あの天狗のお面の人叩いてたよ? ガッツリ叩いてたよ?」
「よもや、よもやだ」
「それは映画の人だよ……。超人気のキャラの熱い人だよ。ああ……シオリもハマってしまったか……。金曜ロードショー……恐るべしだな」
「コジロー。私、口枷を付ける」
「そんなもん付けたら……アリだな」
そんな俺たちのやりとりを四条が口を尖らせて言ってくる。
「そうだよ一色くん。そう言うのはもっと早く言ってよねー」
「俺のせいなの?」
「純恋大丈夫だ。俺はスクール水着でもいける口だぞ。てか好きだ」
「冬馬きゅん……」
手を組んで、キラキラと瞳を輝かせている四条純恋。
「おい待て四条。今のはときめきポイントじゃないぞ?」
「そうなの?」
「お前は彼氏の変な性癖を受け入れるのか? スクール水着が好きな奴にろくな奴はいない」
「冬馬くんならなんでも良いよ」
「だめだこいつ。冬馬が好き過ぎて思考がバグってる。早くなんとかしないと……」
顔を歪ませると冬馬が眼鏡を光らせて言ってくる。
「常識人ぶっているが……小次郎。お前もまともじゃないぞ?」
「は? なんで?」
「ショッピングモールで、許嫁に頬をずっと触られながら会話をしている奴はまともとは言えない」
冬馬の言葉にシオリが反応する。
「私たちにとってはこれが普通」
「汐梨ちゃん……。家でいつも一色くんのほっぺた触ってるの?」
「この感触が良き」
「はぁ……これだからイチャイチャ許嫁は……」
やれやれとため息を吐く四条に言ってやる。
「ともかくだ! どうするんだ? 正直水着メインじゃなかったのか? どうするんだよ?」
「ううむ……」
「うむ。提案がある」
冬馬が眼鏡をカチャリンコしながら発言するので、俺たちは冬馬を見た。
「全員スク水で」
「「「却下」」」
♢
「あ、ここのイロンってサマンサあるんだ」
結局、水着は買わずに他の準備のためにショッピングモール内をうろつくことになった。
四人で、ぶらぶらしていると、四条が風船のオブジェがある店で立ち止まった。
「可愛いお店。見たい」
シオリも店内の雰囲気を見て呟いた。
「ふふ。可愛いよねー。冬馬くん。一色くん。見ても良い?」
「ああ」
「良いよ」
そんなわけで女性ブランド店に入っていく。
店内はポップな感じで若い人向けっぽい雰囲気。バッグを中心に小物を販売しているブランドらしい。さすがは女性ブランド店。バッグの配置がいちいちオシャレで、見ているだけでこちらもオシャレな気分になる。
「おお。シオリ。これとかで修学旅行行ったらイケてない?」
店内を見ていると、キャリーバッグがあった。そのデザインはキャリーバッグ一面にここのブランド名が書かれている。ハートとリボン付きで。
「少し派手すぎる」
「そうか? シオリはこう言うのも似合うと思うけど?」
「そう?」
「ほれ、これと、これと、これで!」
ほいほいと、キャリーバッグと手持ちのバッグとサングラスを渡す。
そして出来上がったのは──。
「うわぁ。似合うな。普通に似合うな」
バカンスに行く芸能人みたいだ。
ていうか、修学旅行先がバカンスみたいな場所だから、これで良いのでは?
「そ、そう?」
少し照れた様子でグラサンをずらしている。
「なんかなんでも似合うなシオリって」
「うっ……。そんな真正面から言われると照れる……」
グラサンをして表情を隠すシオリもまた可愛い。
「ちょっとそのグラサン貸してくれよ」
照れた表情のシオリを見たくてグラサンを取ると「あ……」と声を漏らす。
「うーむ。シオリはグラサンなしの方が良いな」
「そ、そう? 似合う?」
「うん。似合う、似合う。なんかCM出てそう」
「こう?」
シオリはバッグとキャリーバッグでポージングを取った。ノリノリだ。
「うわぁ。汐梨ちゃん。似合うね」
「うむ……。まるでここのブランドのモデルみたいだ」
四条と冬馬がこちらに来てシオリを褒めた。
まんざらでもない様子のシオリは「これ買おうかな……」と言っており、最初の反応とは違っていた。
「良いんじゃ──はっ!?」
ふと、キャリーバッグの値札が見えてなんとも言えない声が出た。
俺はそっとシオリからバッグを回収して、肩に手を回して引き寄せる。
「きゃ」
小さく可愛いく悲鳴をあげたが、とりあえず無視してそのまま歩き出す。
「シオリ。シオリにはもっと似合うのがあるはずだ。次に行こう」
「コジローが言うならそうする」
俺が囃し立てたくせにと言われると思ったが、どうやら素直に言うことを聞いてくれたようだ。
いや、だって高校生が簡単に出せる値段じゃなかったからね。まじで。もう少しリーズナブルなものがあるだろう。
ありゃ、社会人一年目の初給料で買ってあげるレベルのものだ。高校生がプレゼントするには早いぜ。
「なんだ。いきなりイチャついて」
「四六時中イチャついてるよね。あの二人」
「分別と言うのを知らんみたいだな」
「だねー」
二人には酷い言われようであった。




