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許嫁といつものメンツで昼食

 ようやく前半戦が終了した授業。


 たかだか五十分の講義だが、これが苦痛である。どうして楽しくないことの五十分はこうも長く感じるのだろうか。

 楽しいことの五十分は秒に感じるのに……。これが不思議でならない。


 ともかく腹が減った。飯だ飯。


 昼飯はいつも映画研究部で食べることにしている。俺とシオリは部員ではないのだが、手伝いやらなんやらをしているから特別に招いても良いと部長に許可は取ってある。


 我が校の特徴的な冂型の校舎。俺たちの学舎である普通教室棟からトの字型の渡り廊下を伝って部室棟へ向かう。

 いつもはシオリと待ち合わせて一緒に行くのだが「お花摘みに行くから先に行ってて」と言われたので素直に先に行くことにした。


 部室棟の三階。そこに映画研究部室がある。


 毎回ここに来る時は緊張というか、気を張るというか……。


 初期の頃に来た時に、筋肉馬鹿が裸で筋トレしてやがったからな。すっかりトラウマだ。昼飯前にそんなもん見たくもない。


 ソーっと部室のドアを開けようとしたが──。


「あれ?」


 開かない。どうやら鍵がかかっているらしい。


「なんだ。俺が一番か。珍しい。というか初だな」


 しかし、部員でもない俺は鍵を持っていないので中に入ることはできない。


 ま、待ては良いだけの話だ。


 そのうち来るだろう。


「ぬ?」


 待とうと考えていた時に聞き慣れた声が聞こえてくる。


「小次郎が一番とは珍しい」


 イケメンボイスで俺を呼んだのは、中学から仲の良いクール系眼鏡イケメン六堂冬馬。

 今日も相変わらず眼鏡をスチャリンコしながらのご登場だ。


「まぁな」

「七瀬川さんは?」


 冬馬は聞きながら部室のドアを開ける。


「便所だとよ」

「ふむ」

「四条は?」

「職員室に呼ばれてたらしい」

「お前の彼女何かしたの?」

「思い当たる節はいくつかある」


 言いながら部室内に入る。

 中は簡素な作りになっており、二つの長机が向かい合って設置されている。部室の後ろの方にもう一つ長机があり、その上には型の古いノートパソコンが置かれている。

 俺と冬馬はいつもご飯を食べる席、向かいあって座る。


「俺もあるわ。特にバイク関係で」


 俺が言うと冬馬は眼鏡をスッチとしながら言った。


「ふむ……。何回かタンデム通学したからな」

「それじゃない?」

「ふむむ……。やばいかな?」

「バレたら停学じゃん?」

「ぬっ!? それはやばたにえん! 行かねば!」


 冬馬が立ち上がり駆け出そうとした。


「イケメンんボイスでやばたにえんとか言ってんじゃねぇよ。ちょっと待て」

「止めてくれるな小次郎。俺は行かねばならない。職員室へ! 今行くぞ! 純恋!」

「冬馬よ。お前見た目と違って馬鹿なんだから墓穴掘って自滅するぞ」


 言ってやると冬馬はクールに眼鏡をスチャッとして着席した。


「酷い言われようだが、わかりみが深い」

「てか、それと決まったわけじゃないから、ここは四条の報告を待った方が良くない?」

「それな」


 冬馬が納得してくれたところで部室のドアが開いた。


「シオリ」


 やって来たのは、この世で一番美しい女性であった。異論はマジで認めない。


「小次郎……。お前の顔、やばいぞ?」

「ふぇ? なにが?」

「いや、許嫁が来た瞬間の顔──見てられないな」

「なにを言っているんだが……」


 冬馬が先程の仕返しなのか、俺の顔にいちゃもんをつけて来やがった。


 そんなやりとりをしていると、シオリがいつもの席──俺の隣の椅子に腰掛けると、椅子をこちらに近づけて座る。


「お待たせ」


 シオリは持っていた弁当箱が入った巾着袋を俺の前に置いてくれる。


「全然待ってないぞ。ありがとう」


 礼を言ったところで、ふと前方からなんとも言えない視線が向けらているのに気がついた。


「冬馬、なんだよ? その目」

「いや、なんか最近お前たちのイチャつきが加速していると思って」


 言われて俺とシオリは顔を合わせる。


「いつも通りだけど」と完璧にシンクロした言葉を発動させると、冬馬が眼鏡をスチャコンしながら「やれやれ」とため息を吐いた。


「それがいつも通りなら、胸焼けしてしまう」

「ん? 別に俺たちイチャついてなかったよな?」

「ない」


 俺たちの答えに冬馬がなんとも言えない顔をする。


「椅子を引っ付けて座り、会話する時の二人のニヤついた顔……それでもイチャついてないと?」

「ニヤついてなんか──」

「──ない」

「それだぞ!? 今だぞ!? 完璧にニヤついてた! もうやだこのイチャイチャ許嫁共!」


 冬馬が両手で顔を覆う。ご丁寧に眼鏡を上げて。


 自分たちでは意識していなかったが、冬馬から見ればそうらしい。


「ごめーん! お待たせー!」


 扉が開いたかと思えば、そんな声が部室内に響く。


「純恋」


 四条の登場に冬馬の顔が溶けるような気持ちの悪い顔になる。いわゆる、ニヤついた顔だ。


「みんな、ごめんね」


 言いながら四条はいつもの席に座り、持っていた弁当の入った巾着袋を冬馬の前に置いて、椅子を冬馬の方へ近づける。


「全然大丈夫だ。それよりも純恋は無事か!?」

「え!? なにが!?」

「職員室などという地獄へ召喚されていたならな!」

「あはは。次の授業の準備を頼まれただけだよ」

「ふむ。そうか。それは良かった」


 ああ……なるほどな……。


「ぬ? 小次郎。なんだ? その顔は?」

「今、お前の気持ちがわかったんだよ」


 多分、冬馬も無意識なんだろうが……ニヤついているな……。俺もこんな感じだったと思うと、もう少し自重しないとな。







「今日の放課後どこに行こっか?」


 お弁当を食べ終えたところで四条が誰に言うでもなく言った。


「決まってなかったのか?」


 俺が四条へ聞くと「うん」と頷く。


「みんなで決めようと思って。ほら、準備も旅行の醍醐味でしょ? なら、準備する場所も大事かなって」

「わかりみが深い」

「よいしょー」


 冬馬と四条が楽しそうな適当なノリを見てシオリが誇らしげな顔をしていた。


「なんでドヤ顔?」

「あれを伝授したのは私」

「確かに、ああいうテンションは俺たちの十八番だけど……。わざわざ伝授したの?」

「うぬ。良き」


 満足気に二人を見るシオリ。


「あたし、都心の方に行きたいと思ったんだけど、服だけを買いに行くわけじゃないから、それは不便かなって」

「確かにな。都心の方はオシャレな店とか並んでいるけど、一つにまとまってくれてないよな。普通に買い物するには良いけど、旅行の準備をする点に関しては不便かも」

「うんうん」


 俺と四条が意見を言っていると冬馬が案を出してくれた。


「なら無難にショッピングモールか? 旅行の準備なら」


 冬馬の発言に四条が「だねー」と同意してくれる。


「どこのショッピングモール?」


 シオリが首を傾げて質問する。それに冬馬が答えた。


「やっぱ学校の最寄り駅のところか?」

「うーん……」


 四条が苦い顔をしているのところでシオリが言葉を挟む。


「飽きた」

「だよねー。あたしバイト先からすぐだからめっちゃ行くし」

「私も買い物で行くから飽きた」


 女性陣の反対に冬馬が「ふむふむ」と 頷く。


「確かにこういう機会だからこそ足を伸ばすのもありだな」

「だったらさ──」


 俺はスマホを操作してみんなに画面を見せる。


「ここのイロンは?」


 イロンとは、イロングループが運営するモール型のショッピングモール。


「あ、ここって大きなビール工場の跡地に作られたところだよね? できてからまだ行ってないや」


 四条が画面を見ながら呟いた。


「ここのイロンは最近できたから大きいし、電車の駅降りてすぐだからさ。良いんじゃない?」


 俺の意見に冬馬が「アリだな」と言ってくれる。


「うん。あたしも良いかな。こういう機会でしか行かなさそうだし」

「そこで良い」


 女性陣の賛成ももらい「じゃ、ここで」と俺はスマホをポケットにしまった。


「じゃあ、放課後はみんなでイロンに──」

「「「「ゴー!」」」」


 なんか知らんが適当に合わせたノリがぴったりと合った。


 こう言うのって良いよね。

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― 新着の感想 ―
[一言] それは精神汚染かもしれない/w いろんな地方の子供を混ぜてしばらくほっておくと、みな開催弁になるという話が合ったけれど、シオリをまぜてほっておくと、みなシオリの乗りになってしまうのだろうか。…
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