お義母さんの学校生活③
『とーまきゅーん。四組何になった?』
『ねぇ? 何になったんよー?』
『言うてみ? ほらほらーこっちも愛しのスミレたんの事教えたるさかいに」
『恥ずかしがらずに……セイ!』
昼休みを終えた五限のLHR。
三波先生がおらずヤーさん先生も生徒指導だから忙しいのか、生徒に全振りして職員室へ引きこもってしまった。
良く言えば生徒の自主性に任せる、悪く言えば職場放棄になるが……おそらく、後者だろうな……。あの先生別に熱血とかじゃないし。
まとめる人もおらず、何故か流れで体育祭実行委員が仕切る事になったが現場は壊滅状態。沈黙の平行線だ。
多少仲良くはなったと言っても零が一になった程度。
両隣のクラスからはワイワイと盛り上がる声がこちらまで聞こえてくる。
この空気の中で「はいはいはーい! 俺、たこ焼きやりたーい!」何て言える勇気が欲しい。
いや、昼休みまでは発言したろか、何て思っていたが、この空気で発言するのはかなりの勇者か変態だけだ……。
そんな壊滅した状態なのでスマホを触りまくる。
今はウチのクラスよりも四組が気になるので冬馬に鬼の様な質問攻めを仕掛けている。
『屋上』
あー……怒ってるわ。久しぶりにキレちまったみたいだわ。伝説のサラリーマン並みにキレてるわこれ。
普段の俺なら歯止めが効くが、今の俺の精神力とヤバさは伊達じゃないんだが!
『教えて欲しいでござるざるザル蕎麦食いてぇ』
マジで教えて欲しいが、おふざけを加える事によって、こいつは俺をおちょくってるな感を出しておく。
『あーあ……』
ヤベェ……。冬馬がマジでキレたかも。
『お前の許嫁、俺の花嫁になる感じだわ』
「はあ!?」
つい、スマホ片手に立ち上がってしまう。
おいおいおいおい! どういう事だ!? おおん!?
だが、俺の内心の焦りはすぐに違う焦りに変換されてしまう。
沈黙をブレイクしてしまった俺の末路は嫌な注目を浴びるといった羞恥プレイであった。
「――あー……あははー……」
スマホをポケットにしまいながら本当の苦笑いが出てしまい俺は勢いに任せて意見した。
「近藤さん……。俺、たこ焼きしたいなぁ……。なんちゃって……」
「たこ焼き?」
今、この場を仕切ってくれている近藤さんに言った後すぐに「いててててて」と腹をおさえながら教室のドアに向かって歩き出す。
「あー、これはヤバいやつ。ヤバいやつだからトイレに行ってきます……」
「お、お大事に……」
どゆこと……? どゆこと? どゆことおおお!?
俺は急いで四組の前までやって来る。
後ろのドアの小窓から見える教室内はワイワイとまではいかないが、何かしらが決まり盛り上がっている様子ではある。
あのロリ巨乳人妻の制服添えめ……。一体何を言いやがった……。
陽気に「ウチ、花嫁になるけん! みんな応援したってな!」みたいな朝ドラ的発言をしやがったな、あのロリババア。
そんな義母には説教が必要だな。お灸を添えてやる!
四組の前のドアをコンコンコンと軽くノックして教室に入ると視線が集まる。
しかし、それは先程の視線とは違い、全くもってダメージにならない。
「一色くん? どうしました?」
四組の担任の先生が当然尋ねてくるので俺は咄嗟にこう答えた。
「先生、お電話入ってるみたいですよ? 職員室に来て欲しいらしいです」
言うと眉をひくつかせ「電話?」と怪しむ声が聞こえてくる。
あかん、安直すぎたか?
「――ふむ……。そうですか、わざわざありがとうございます」
そう言って先生は教室を出て行った。
あの先生、珍しいタイプだな。
一旦、生徒の言う事を信じてあげようタイプの先生か。めっちゃ良い先生やん。何か騙してすみません。
ともかく、上手く行った所で琴葉さんを見ると目があったので親指で、ちょ来い、とジェスチャーをすると伝わったみたいでこっそりと後ろから出て来てくれる。
こちらも廊下に出ると琴葉さんがニヤニヤしながら言ってくる。
「授業中に逢引きなんてコーちゃんヤンキーだねー。それで、何? そんなに私に会いたかったの? 惚れちゃった? でも、ごめんねー。私は太一さんのものだから」
「んな訳あるかっ! ――ともかく、ここじゃ目立つから来てください」
言って俺が先行して七組方面に歩くと後ろを付いて来てくれる。
LHRとはいえ授業中の二年のフロアには誰もいないので感覚的にかなり早く廊下の突き当たりまで到着する。
突き当たりには非常階段へのドアがあり、ここは常時解放状態なので最早普通の階段として利用されている。
そんな非常階段の踊り場に出た所で琴葉さんを見る。
「うわぁ……良い風……」
踊り場に吹く風が琴葉さんの髪を靡かせて、彼女は自分の髪を耳にかける。
その姿はまるで女神様の様に美しかった。
「ん? コーちゃん。こんな所連れて来て……青姦?」
前言撤回。ただの下ネタ好きの中年ババアだ。
「するかっ!」
「じゃあ何?」
可愛らしく首を傾げてくる。
「あんたは下ネタ以外の発想がないんですか!?」
「だって男子高校生の頭の中って下ネタしかないんでしょ? 三十分に一回はエロい事考えているってヒロ先輩が言ってたよ?」
あのクソ親父……しばく……。
「それに実際、寡黙な太一さんも夜は――」
「あーあー! やめろやめろ! 何が悲しくてそんな話を聞かにゃならんのだ!」
「にゃはは。――それで? 授業中までこんな所連れて来てどうしたの?」
「どうしたもこうしたもないでしょ! 何をしたんですか!?」
「なんのこと?」
「惚けないでください! 文化祭の出し物ですよ」
「文化祭の出し物? あー……劇の事か……。シオリがヒロインに抜擢されたわね」
「それ!」
ビシッと名探偵が犯人を指さす仕草をして見せる。
「なんでヒロインなんてやるって言ったんだ!」
「えー、私じゃないよ?」
「嘘つけっ!」
「ほんと、ほんと。クラスの子達が『ヒロインは七瀬川さんで決まりだよね』とか『七瀬川さんしかいなよね』って推薦されたんだから」
そう言うと嬉しそうな表情をした。
「不安だったけど、私が気にする必要なんてなかったわね……」
「え?」
ボソリと言うのでこちらまで上手く伝わらずに疑問の念が出ると「あ……ううん……」と手を振って話を続ける。
「それで『そんな流れになってるけど、どうする?』ってシオリにもさっきこっそり連絡しておいたわよ。『構わない』なんて業務的な返事しか来なかったけど。だから引き受けたの」
「そ、そうなんすか……」
シオリの事だから、もしかしたらやる気満々か?
「――てか、酷くない? コーちゃん決めつけで話してきて」
「いや、そ、それは……。すみません」
頭を掻きながら謝ると優しい笑顔をして俺の頭に手を乗せてくる。
「ふふ、素直でよろしい」
そう言って撫でてくる。
「ちょ……ちょっと……」
「もうちょっとだけ……こうさせて。ね?」
琴葉さんのお願いに俺は「はい……」と撫でられる。
彼女は何だか嬉しそうな、悲しそうな、複雑な表情をしていた。
一体、何を思っているのか、今の俺には想像もつかなかった……。
「――よし! ありがとう」
そう言って手を離し回れ右をする。
「戻ろ。いくら文化祭の準備中だからってサボりと変わらないし」
「そうですね。こんな所先生に見つかりでもしたら厄介ですもんね」
「自分らが見つからへんていつから錯覚しとんねん。おお?」
野太い声に肩をガシッとされる感覚。
俺達が振り返るとそこには――。
「ぎゃー!!」
「何がぎゃーじゃ! ボケ共!」
生徒指導のヤーさん先生がいつの間にか背後に立っていた。
「のう一色。ワレ、良い身分やの。七瀬川みたいなんつこもうて、授業中にお楽しみっでっか? 最高の高校生活やのぉ。うらやましゅーなぁー」
「い、いやー、あはは。それほどでも……」
「そのワガの楽しゅう時間、ワシも入れてーや。なぁ?」
こえー……。本当に先生かよ……。
「あー、そのー。大変申し訳難いんですが……。ちょーと絵面的に……」
「NG」
俺と琴葉さんの台詞に眉をピクリと動かして、俺は首根っこを掴まれ猫みたいに運ばれる。
「楽しみやのー。お前との会話は……。キャバ嬢の会話の何倍も話が弾みそうや……。今からどうシメたるか楽しみでしゃーない」
「ちょ! 力どうなっての? ゴリラなの!? ねぇ!?」
「試してみるかぁ? 粉々になるかもなぁ。猫みたいなお前じゃなぁ」
比喩表現では済まなそうだ……。
赤子をあやすみたいに言うと先生は琴葉さんに「七瀬川も行くで」と言うと、何故か彼女は嬉しそうに「はーい」と返事をしていた。
そんな彼女の態度に先生は本気の?マークを出していたが、結局職員室でお互いしこたま怒られたのには変わりない。
後書きにおまけ程度の物を書こうとしたのですが、後書きにしたら長くなったので、この後投稿します。
ホントおまけ程度ですのでー




