許嫁と家具屋へ
ハンバーガーを食べ終えた俺達は近くにある大手チェーンの家具屋に入る事にした。
こちらも二階建てとはいえハンバーガーショップとは広さが段違いだが、それもそのはずだ。家具屋なんだからスペースがいるし。
そんなくだらない事を考えながら一階の入り口を潜ると、すぐに秋の部屋――と謳いながら、ほぼ冬のインテリアコーディネートの実例がサンプルとして飾られており、このサンプルを揃えるとこの値段で一人暮らし出来ます! みたいな事が書かれていた。
「幻想だよなぁ……」
ここまで綺麗な部屋なんて普通の人には難しいだろう。
だから溜息に近い呟きが出るとシオリがこちらを見てきていた。
「こういう部屋が好きなの?」
「いや、そういう訳じゃないけどさ、こういう部屋に住んでみたいとは思う」
「そう」
俺が答えるとシオリはジッとサンプルの部屋を見ていた。
「シオリは? 一人暮らしするならこういう系? いや、女の子だしもっと可愛らしい部屋の方が良いのか?」
尋ねると彼女は少し考えた後に首を横に振る。
「出来る事なら一人暮らしはしたくない」
「そうなん? 一人なんて気楽で何にも縛られなくて良いのに」
「――一人は寂しいから」
どうやら何か地雷を踏んでしまった様だ。
無表情だから悲しんでいるのかどうか分からないけど、意味深な発言だ。
「ま、人それぞれ考えがあるわな」
当たり障りのない解答を出すとコクリと頷かれる。
「あれだな。折角来たんだし、布団買ってすぐ帰るのも勿体ないから、色々見て回ろうぜ」
話を切り替える意味も込めて言うと「分かった」と返答してくれる。
シオリが頷いてくれたので、俺達はエスカレーターで二階へ向かった。
二階にあるのはベッドやデスク、ソファーと言った大型家具。対して目的の品物である布団が売っているのは一階だ。
ウィンドウショッピングをするなら、用のない二階から攻めて、最後に布団を買いに一階へ降りるといったスタイルで買い物を楽しむ。
「お、これ良いな」
ソファーゾーンにある高そうなソファーを見つけて腰掛けてみる。
「おお。良い、非常に良い」
バフンバフンとバウンドさせてその弾力を確かめる。
「シオリも座ってみろよ」
誘うとシオリも座りその弾力を確かめる。
「これは……良い」
「だろ? うわぁ……。欲しい……。買おうかな?」
俺の物欲の呟きにシオリは肩をポンポンと叩いて目の前の値札を指差してくる。
「コジローはブルジョワ?」
「――バイトもしてねぇ貧乏学生が簡単に出せる値段じゃないな」
俺は溜息を吐いて立ち上がるともう一度ポンポンと肩を叩かれる。
「コジローの家のソファーも捨てたもんじゃない」
「――そりゃどうも」
慰めてくれているのか、親指をグッと突き立ててフォローしてくれる。
ただ、無表情なので本当に慰めてくれているのかどうかは微妙だ。
「コジロー。あれを――」
ソファーゾーンを抜け、やって来たのはベッドゾーン。
シオリが指差したのはCMで見た事ある、何か物凄い良い素材を使った物凄い良いベッドだ。
シオリは気持ち足早でベッドに行くと、寝転んでもOKと書かれているので容赦なく寝転んだ。
「どう?」
仰向けに寝転び無表情で天井を見つめるシオリに尋ねると少し考えて答える。
「――非常に……良い!」
初めて聞く彼女の高揚した声。
そんなに素晴らしいのか、俺も試したくなる。
「コジローも寝てみる?」
「そうだな」
どうやら代わってくれるみたいなので俺も仰向けに寝転んでみる。
「――おお……」
経験は無いが、まるで雲に包まれたみたいに優しく俺を包んでくれている、そんな感触だ。
寝返りを打って横になってみる。
「気持ち良いでしょ?」
「――おわっ!」
目の前に綺麗な天使の顔がアップで映り、俺は驚いた声が出てしまう。
反射的に俺は起き上がる。
「お、おまっ! 交代してくれるんじゃないのかよ!?」
「交代するとは言っていない」
「同じベッドで寝転ぶとかカップルか!」
「カップルじゃない。許嫁」
「いや……何でそんなに冷静なんだよ」
「何でそんなに焦っているの? 既に経験済みなのに」
「け、経験済みとか言うなっての!」
俺は恥ずかしくなりベッドから出た。
「初心だね」
「――くっ……」
仰向けに寝転がられて言われてしまう。まるで馬鹿にされた様な気分だ。
悔しい……。しかし、もう一度寝転がっても俺がドキっとするだけなのでやめておこう。
「ほ、ほら! もう行こうぜ」
「待って……。このベッド……買う!」
「買うって……」
俺はシオリがこちらにやった様に値段の所に指を差す。
「シオリは富裕層か?」
同じ様な言い回しをしてやると無表情で何かを指に挟んで見してくる。
「クレジット……カード……だと?」
高校生の分際でそんなもん持ってるなんて、ガチ富裕層かよ!
なんてツッコミを入れようとしたがよくよく見てみると――。
「――キャッシュカードかよっ!」
何かちょっと安心した。
「ふっ。コジロー甘い。この中に私の全財産が入っている」
「い、いくらだ?」
「五千円」
「あ……ああん――。少なっ!」
「かける百」
「――お! おおん……。お! 持ってるな!」
高校生にしてはかなり貯蓄がある方だと思われる。少なくとも俺よりはかなり持っている。
「このベッドを買うのは余裕」
「いや、待て待て。そんなベッド置く場所がねぇよ」
冷静になって言ってやるとシオリは固まる。
そして俺をジッと見つめてくる。
「――ダメ?」
「ダメ」
「どうしても?」
「どうもこうも場所が無いって言ってるだろ」
「今使ってるベッドと交換は?」
「それは勿体な過ぎない?」
「毎日一緒に寝てあげるよ?」
「――そ! それは……」
それは魅力的だ。だが、その内に理性に負けてしまう事だろう。好きでも付き合ってもない女の子を襲うなんて俺には出来ない。あー……ヘタレだな俺は……。
「ダメダメ!」
シオリだって別に俺の事好きじゃないだろうし、そんなのは絶対ダメだ。
いや、もしかしたら俺に気があるからそんな台詞を――?
「残念……」
落胆した様子でベッドから起き上がりシオリは立ち上がる。
「そろそろ布団買いに行こ」
「あ、ああ……」
そう言って先を歩くシオリ。
うぬ。やはりこいつはただベッドが欲しかっただけだな。
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