表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/11

■scene 1-2■

scene(シーン) 1-2. (もたら)されるは贖罪(しょくざい)容赦(ようしゃ)慈悲(じひ)



「――サプライズパーティの、主賓(しゅひん)ではないのですが、ね。」


 上級異端審問官(いたんしんもんかん)、ヨハンは戦嘴(ウォーピック)で頭を(くだ)いた不死者(アンデッド)(ころ)がした。その凶行(きょうこう)を彩った戦嘴(ウォーピック)は、小型並列7気筒魔導(マギ・)蒸気(スチーム)機関(・エンジン)仕込まれた機構(ギミック)により、重心をヨハンの手元に戻し、取り回しをよくする。


 それは、暗殺の(すべ)に似ていた。


 教会は、戦力を所持してはならぬという不文律(ふぶんりつ)があった。それは多国(せき)である教会組織が権力を(ほしいまま)にする危険性を、排除する目的があった。ゆえに、教会は周辺警護(けいご)のための聖騎士(パラディン)(いく)らかの従僕(ヴァレット)、そして戦力として見做(みな)されない退魔師(エクソシスト)以外の武装集団を(よう)していなかった。

 退魔師(エクソシスト)が戦力として見做されない最大の理由。それは軍隊に必要な、集団行動を訓練されていない戦闘集団であるからだ。


「相変わらずの、狂犬()りね。待ても出来ないのかしら?」


 白煙(はくえん)(ふか)かした馬車から、遅れて出てきたアリスと(すそ)持ちのメイ。実際のところ、アリスの服装では、(せま)い馬車から飛び出すことは難しかったろう。

 そんな、アリスの憎まれ口を意にも介さず、ヨハンはズレた丸眼鏡をかけ直した。


「アリス嬢のお()し物では、悪戯(いたずら)が過ぎる輩の悪巫山戯(わるふざけ)で、泥を(かぶ)ってしまうでしょう、から。」

「そう。」


 フリルがタップリに(あしら)われた真紅のドレス。その、後ろに伸びる(すそ)は、さすがマント・ド・クールと云うべきか。しかし、アリスのその宮中礼装(きゅうちゅうれいそう)がゆえに、メイドのメイを、常に裾持ちとして侍らせなければならなかった。


「けれど、もう十分だわ。」


 それは、残光だったのだろう。

 

 何処よ(いずこ)り取り出した死鎌(デスサイス)(あか)(きら)めきと、血の赤で空間に引いた線の軌跡(きせき)だけが、アリスの後ろ姿を(とら)えていた。


 風を吹かせて、アリスの香水の馥郁(ふくいく)たる花の香りを届ける。


「……遅いわ。」


 黒夜蝶(こくやちょう)。真紅に身を包んだアリスの異名。愚者火(イグニス・ファトゥス)=ウィル・オー・ウィスプの沼へと(いざな)うと()われる蝶の名前。そんな様子を億尾(おくび)にも出さず、アリスは(すそ)が落ちたら汚れてしまうとばかりに、羽を広げて宙に浮き、優雅だった。


「ええ、ええ。申し訳、ありませんでした、ね。」


 しかしヨハンはただ、真っ直ぐ歩くのみ。まるで茶会に呼ばれたとばかりの歩みだった。


 その、ヨハンの装備。肘丈(ひじたけ)のケープがついたローブで身を(つつし)みながら、左手の義手が機械仕掛けを(ほど)いて、生身の右手の倍は伸びていた。いや、手の平から伸びる凶悪な爪が、それほどまで長かった。そして反対には手頃な長さの戦嘴(せんし)があった。それは、オレンジの果汁を(しぼ)る機械に似て、九条(くじょう)(やいば)が背中合わせに(なら)んで突起を形作(かたど)っていた。ガチャガチャと賑やかで、ジリジリと撥条(ゼンマイ)の戻る音が(うるさ)かった。


 臨戦態勢であった。


 当然だ。


 これから向かう先は、処女の四肢(しし)に杭を打ち付け、股座(またぐら)(あば)(はずかし)めることを、儀式と呼んで(えつ)()るような外道の住家だ。掃除は手早い方が良い。


「それでは、ノックをして(丶丶丶丶丶丶)訪問いたしましょう、ね。……我々は、蛮族などではないのですから、いかな愚物相手といえど、礼節を(しっ)してはいけませんから、ね。」


 言うが早いか、振り上げた機械仕掛けの戦嘴(ウォーピック)――仕込み(ギミック)により重心を外に(かたよ)らせ、蒸気を()き出して後押しすることで、打撃の衝撃を最大限に引き出す凶器――でヨハンは扉を砕いた。


「……これはこれは、どうして(もろ)い扉じゃ、ありません、か。」


 バリトンの心地好(ここちよ)く穏やかな声音とは対照的な、荒々しい押し入り。その、ヨハンの姿は、見るものが見れば死神を()した機械に見えたことだろう。


「相変わらずの剛力(ごうりき)ね。」

「全身に、バネが入っていますから、ね。」


 ガラガラと、残骸が地に落ちる待ちすがら、無駄話に興じていた。

 そして、それも落ち着いた。


「失礼しますっ!」


 しかし、脇をすり抜けて先陣を切ったのは、メイドのメイだ。

 万能格納庫(メイドスカート)から取り出した、スーツケースのミニチュア。それを宙で返して本物(丶丶)を取り出せば、びっ(ジャック・)くり箱(イン・ザボックス)の暗殺者、メイの独擅場(どくせんじょう)だ。


 庭に彷徨(さまよ)わせた、生の残骸。それは同時に侵入者を知らせるセンサーの役割をもっていた。ゆえに、メイが飛び込んだ直後、ありとあらゆる方向から歓迎を受けることとなる。


「――っ。」


 しかし、それらを顔色一つ変えることなく処理するのが、吸血鬼の姫、真紅のアリスのメイドたる、人猫(ワーキャット)のメイだった。マジックアイテムのケースから飛び出す、機械仕掛けの自動小銃(アサルトライフル)が銃弾を散蒔(ばらま)いて、炸薬(さくやく)をつめた爆弾が、パーティを華やかに(いろど)った。間の抜けた、ポップコーンの弾けるようなサイレンサーの音は、アリスの耳を気遣うメイの献身(けんしん)の表れだった。


 すべてが刹那(せつな)の出来事で、終わって(ほこり)を払ったメイが振り返る。


 シャンデリアが(かたむ)き、蝋燭(ろうそく)は落ちて明かりを失った室内。これがサプライズパーティならば、この静寂に乗じて蝋燭を立てたケーキが運ばれて来るのだろう。


 しかしそれは、(あるじ)(おも)うメイドの微笑(ほほえ)みが見せた望景(ぼうけい)


「お嬢様、少々薄汚い所にお立ち入りさせてしまったこと、誠に心苦しく存じます。」


 メイは、深く頭を下げて現実を知らせた。


「構わないわ。」


 頭を下げるメイの横を、何事もなかったとばかりにアリスは素通りする。ヨハンはアリスと反対の、メイの横を通り過ぎた。


一切合切(いっさいがっさい)貴賤(きせん)の容赦なく、御霊(みたま)(ささ)げたもう……願わなければいけません、ね。」

「冥府の王も、(あか)だらけの魂なんて願い下げだと思うけれど。」

「では――無に()ちてもらわねば、なりません、か。」

「それですら生温いと思わせなくちゃ、でしょう?」

「さすがに外道(げどう)()ちたとて、救いあらんと藻掻(もが)ける余地は、残さねばなりません、ね。」

「優しいわね。」

「ええ、藻掻ける余地だけ(丶丶)は、残さなければなりません。」

「――悪くないわ。」


 二人が通り過ぎて、少し経ち、それからメイは顔を上げ、二人の後に従う。


「ヨハン?」

「ええ、ええ、アリス嬢。……私が下で、貴女(あなた)は上へ。それで収まりが良いのでしょう、ね。」


 残虐な現場へはヨハンが、煙に似た愚物(バカ)の部屋へはアリスが向かう。それが、双方にとって収まりが良い。いかに悪行を働こうとも、隣人(丶丶)の処理を退魔師(エクソシスト)が行ったとあれば、その噂だけで騒ぐ莫迦(ばか)も間抜けも、そして噂を広める小悪党も湧く。


 ゆえに、吸血鬼の姫たるアリスが同胞の粛清(しゅくせい)を行ったとするのがよろしい。


「いつもいつも、雑魚狩りで楽をさせてもらい、助かります、ね。」

「ええ、感謝しなさい。」

「――はい。」


 灰色の混ざったシルバーブロンドのオールバックを(コーム)()で付けて、ヨハンはあえて物事の側面だけを強調した。アリスに、四肢を薄切り(スライス)されながら様々な器具で尊厳(そんげん)凌辱(りょうじょく)される少年少女の残骸を見せない。その(けがれ)をアリスに負わせないために、ヨハンは自ら泥を(こうむ)る。


 眼鏡の奥で、冷酷なヨハンの瞳に少しだけ、優し気な色が見えた気がした。


「それでは、また後で。」

「ええ、ええ。アリス嬢もお気をつけてください、ね。」

「あら? 誰に物を言っているのかしら?」

「これは、とんだ失礼を、いたしまし、た。」


 言葉はそれで十分だ、とばかりにヨハンは地下室への隠し扉を探しに背を向ける。対してアリスも宙に浮かんだ所から、さらにフワリと真紅のドレスを(ひるがえ)し、館の外観から予想される、執務室へと向かっていく。その露払(つゆはら)いにと、メイドのメイは身を宙に(ひるがえ)してアリスに先んじた。


 その耳は、アリスに奉仕することの喜びから、(せわ)しなく揺れていた。









~to be continued~

とりあえず、最初のアクションシーンがある、ここまで一気に投稿しました。残りはいずれ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原案ですっ><
©タヌキさん
アリスちゃんと、メイちゃんです。

FAですっ><
©伊賀海栗さん
ヨハンさまっ><

FAですっ><
©秋の桜子さん
ステキなバナーですっ><
― 新着の感想 ―
[良い点] 小型並列7気筒 武器だけどめっちゃ速そうですね! CBX1300とか呼びたくなりますよ! [気になる点] 意図しているのだと思いますが読み仮名が多すぎて読みにくいですね。 [一言] 処女…
[良い点] めーっちゃかっこいい! メイちゃんかわいいなー ヨハンかっこいいなー アリス様に踏まれたい 続きが楽しみです!
[一言] これは素晴らしいです、ね。 とにかくキャラクターがみんな魅力的です、よ。 続きも楽しみに待たせていただきます、ね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ