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僕の姉御はすぐデレる!  作者: スタイリッシュ土下座
7/22

姉御と僕と体育祭

 スポーツというのは人々を熱狂させるらしい。確かに僕だってボクシングやサッカーの試合の生中継ぐらいは観るがそれ程までに体育に熱中した事が無かった。

 所謂観る専だった僕は今一番の危機に直面していたのだ。


「明日ぐらいは雨降ってくれないかな」


「無駄な雨乞いはやめろ。怪しげな祈祷も効果無いぞ」


 僕に対して辛辣な言葉をかけるその黒髪美人の女の子は僕の義理の姉である。明日の体育祭の中止を願ってお祈りを欠かさない僕ではあったが、姉御自体はスポーツも万能なので何の問題もないといった具合で雑誌を読んでいるのだった。


「少しは姉御も手伝ってくれよ。僕は明日の体育祭には参加したくないんだ」


「そんな事している暇があるなら少しぐらい勉強でもしたらどうだ?スポーツが苦手なら苦手なりに頑張ればいいじゃないか」


 彼女の一言に僕はぐぬぬと言い返せずにいた。その通りではあるのだが、元から体育を得意としている姉御には僕の気持ちはわからないのだろう。お祈りが止むことは無かった。


「全く.......とんだ時間の無駄遣いだ。そんなに体育祭が嫌いなのか?」


「嫌いだよ!リレーなんか最下位しか取ったこと無かったし。そもそも何で最下位なのに応援されなきゃいけないんだよ。一種の煽りじゃないのか」


「それについては同感だが何もそこまでしなくたっていいだろ。もう夜も遅いから私は寝るぞ」


「お休み姐さん」


 やがて僕も馬鹿らしくなってきたのかお祈りを中断して布団に潜った。明日という日が来ない事を願いながら寝る夜は自分でも哀れに感じるほど虚しかった。


 次の日がやってきた。空は青々として絶好の体育日和である。祈祷は全く効果を見せなかった。


「てるてる坊主逆さに吊るしてたのに残念だったな」


「姉御。今日は学校行かないから」


「馬鹿!嫌って言っても行くんだよお前.......意地でも連れていく」


「勘弁してくださいよ姐さん!無理なものは無理っす」


 無理矢理布団をひっぺがし呆れた顔で支度を手伝う姉御はまるで何処かの世話焼きの母の様であった。

 僕の方はやる気の欠片も無かったが、段々と苛立ちを隠せなくなってきた姉御を見て恐ろしかったので制服に着替え家を後にした。

 間もなく体育祭が始まると思うと気を重くするばかりだ。


「只今より、第○○回体育祭を開催します」


 開会のアナウンスも聞き流し興味が無かった僕ではあったが、咄嗟に姉御に背中を突かれた。


「痛っ!何するんだよ姐さん」


「私が生徒会を運営しているのを忘れるな。参加してるなら誠意を持て」


「最近の姐さん厳しいなぁ.......」


 開会宣言の後、数種目が終わり僕の出番である大玉転がしがあった。前日練習の時も全く出来が良いという訳でもなかったので、さっさと終わらせようとは思っていたのだが──。


「さくらちゃん!?何やってるんですか」


「えへへ、姉御から派遣された~」


 得点種目にやる気を見せない僕に痺れを切らしたのかまさかの姉御と同期であるさくらちゃんが隣にいたのである。


「そろそろ競技始まるから!向こう行ってください」


「んー?でもこの競技2人でする奴じゃないの?」


「マジか」


 揉めていたが遂に開始のピストルが鳴らされた。他の大玉は次々と前進し始める。


「やばい、出遅れた!どうする.......」


「私に任せて、えーい!」


 さくらちゃんの力強い一発が大玉に叩き込まれた。その張り手の衝撃はありえないほどの加速を起こし他の大玉を抜かしていく。


「やった!これって一位じゃん!」


「あの」


「どうしたの?弟君」


「この種目、転がす人も一緒にゴールしないと駄目なんじゃ」


「え」


 結果、僕ら2人のチームは最下位という結果に終わった。

 その後も綱引き、リレーと続くも姉御と僕率いる紅組は10ポイント差で負けていた。このままでは勝つ事ができないのだが、個人的には早く終わってほしかったので結果などはどうでもいいのだが。


「なんで紅組負けてるんだ。私は勝ちしか認めないぞ!」


「姐さん。僕は別に終わってくれれば大丈夫なので.......」


「私が納得いかないんだ!こうなったら、弟よ!次の二人三脚に出ろ」


「えっ、聞いてないっすよ!というか僕が派遣されても勝てないです」


 僕の言葉に姉御はフッと笑った。


「私に引っ張られるのは慣れてるだろ?」


「あの.......まさかとは思うんですけど」


 そのまさかだった。スタートした直後、僕は姉御の超ダッシュに引きづられつつも何とか体制を維持していた。二人三脚というよりも重り付きリレーと言った方が近い気もするが。


「姐さん!痛い!痛いから!」


「この競技だけ勝てば紅組勝てるし!もう少しだ!頑張れ!」


 姉御に引きづられゴール直前で体制を崩したのか。彼女の方もすっ転んだ。運良くゴールテープは切られていたので一位にはなれたのだが──。


「恥ずかしい.......別に狙ってた訳じゃないし」


「強制的に参加させられたのは僕の方だけど、なんかごめん」


 コケて転んだ後に僕は姉御に抱きつかれていたので、険悪なムードがそこには漂っていた。会場内からは黄色いはやし立てが飛び交っていたのだが。体制を立て直し、なんとか点数も逆転できた所で僕は呟いた。


「でも体育祭に出れて良かったかもしれないな」


「今更手の平返しても遅いぞ」


「姐さんも楽しかったでしょ?ならいいじゃん」


「まぁ.......それもそうだが」


 その後も点数を取られ取り返しが続きなんとか紅組は勝利を収めた。キラキラと輝いていた姉御の表情を見て、僕も安堵の声を漏らした。


「でもこの一週間ぐらいは絶対動きませんからね。筋肉痛怖いし」


「お前も若いんだからもっと動け.......」


 スポーツを好き好んでする人の気持ちは未だに理解できないが、見るだけじゃなくやってみるのも楽しいということは何となくわかる気がした。

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