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第三章十八話「自慢の仲間たち」

「ケータ様は本当お仲間を見つけるのが上手ですよね」

「褒めんなよ照れるだろ」

「呆れているんです」


 圭太は後ろ手に頭をかくが、ナヴィアに軽くため息を吐かれてしまった。

 収穫があったので圭太はロイを連れてシリルの家まで帰ってきた。

 待つこと数十分。ナヴィアとシリルが疲れた顔で帰ってきた。何も得られなかったのだと表情は語っていた。予想通りだ。だから圭太は反乱軍に接触したのだから。


「おいケータ」


 軽くロイの紹介を終えた圭太にシリルが申し訳なさそうに顔を伏せ、ナヴィアが呆れかえっている状況で。

 声に少々の苛立ちが宿っているロイに肩を叩かれた。


「圭太な。で、なんだ?」

「お前、仲間に会わせてやるって言ったよな?」

「だから連れてきただろうが」


 まったく。何を言っているんだ。

 仲間はそろった。いないとすれば反乱軍の他のメンバーぐらいだ。


「あの女を倒せる仲間がいるって言ったよな?」

「おう。自慢の仲間たちだ」


 とっても強いぞ。下手したら俺よりも。

 圭太はとても自慢げに胸をはる。キテラを倒せる可能性を十二分に秘めた優秀なメンツだ。


「二人しかいねえじゃねえか!」


 ロイの悲鳴にもよく似た叫び声が廃屋寸前のボロ屋に響いた。


「なんだよ言わなかったか? 人手がいるって」

「だからってお前らの戦力なさすぎだろ!」


 おかしいな説明したはずなんだがと圭太が首を傾げると、ロイに胸倉を掴まれ前後に激しく揺さぶられた。

 酔う。吐くからやめてくれ。


「心外です。わたくしは少なくとも普通の人間には負けません」


 ケータ様のことだからまた説明していないのでしょうね。はぁ。

 苦労人の気配を漂わせるナヴィアの顔にはそう書いてあった。失礼な奴隷である。


「なんだお前、耳が長い? まさか、魔族か!」

「エルフです。魔族と一緒にしないでください」

「おっおう……?」


 ナヴィアに修正を求められて、ロイは困惑する。

 魔族を直接見るのは初めてのはずだ。エルフかどうかの違いなんて見分けられるわけがない。


「気にするな。似たようなものだから」

「ケータ様? 言っていいことと悪いことがありますよ?」

「ごめんなさい」


 圭太がロイに助け船を出すと笑顔のナヴィアに睨まれてしまった。

 圭太は素直に頭を下げる。どうやら超えてはいけない一線があるらしい。今度からは気を付けよう。


「よく分からないが、魔族が仲間なのか。魔力を阻害するってのも分かる気がする」


 ロイはまだ困惑した様子だったが、圭太の言っていた根拠を無理やり結び付けて勝手に納得しようとしている。


「違いますよ。わたくしは魔力阻害なんてできません」

「俺は人間だって言ったよな?」


 ロイの期待の眼差しに気付いたナヴィアは首を横に振り、圭太も誤解を解くために首を傾げた。

 ナヴィアが魔力阻害の魔法を使えたら、もっと簡単に脱獄はできていただろう。だけどもイブと共闘するには相性が悪すぎる。


「嘘だろ? じゃあ」


 ロイはそこで言葉を切り、圭太の仲間で残った最後の一人を見下ろした。


「なんだよオレを見下ろすな」

「この子供が、お前らの希望か?」


 話に入れず腕を組んで仏頂面になっていたシリルは、ロイに見下ろされたことに気付いて眉を吊り上げた。

 ロイはどこからどう見ても子供にしか見えないシリルを指差して、震える声でたずねてきた。

 信じられない。嘘だろ否定してくれ。ロイの心境を読むとしたらそんなところだろうか。


「凄いよな。この年で俺たちにはない能力があるなんて」


 圭太はロイの期待を分かったうえで踏みにじった。


「ふざけるな! お前はたった三人で、しかも期待の星はこんな子供で、俺たちに協力しろって言うのか!?」

「お前が協力すると言ったんだろうが」


 ロイに怒鳴られた圭太は、逆ギレするぐらいの勢いで冷たく言い放った。


「それは、ケータが自分たちだけでも倒せるからと言ったからであって」

「ああそうさ。俺たちだけでもやりようはある。お前ら反乱軍が指をくわえて眺めていたいって言うんなら止めないぞ」

「チッ」


 圭太にとって反乱軍とは陽動にしか使い道のない烏合の衆だ。あったほうが楽だが無くても困ることはない。

 ナヴィアの説得に時間がかかるのだけが問題だが、イブなら我慢してくれるだろう。


「ちょっと待ってくださいケータ様」

「なんだよ」


 ロイと睨み合っていると、ナヴィアに服の裾を引っ張られた。


「わたくしやケータ様以上の手練れが最低でも五人いると伝えましたよね?」

「ああ、知っているし実際に見たぞ」


 圭太もそこそこ戦い慣れしている。一目で自分と相手の実力差を見抜くぐらいはわけない。


「不可能だって言っていましたよね?」

「そうだ。正面からの戦闘だったら俺たちに勝ち目はない。だけど、やり方を気を付ければ勝てないわけでもない。暗殺って方法もある」


 何も正面からぶつかり合うだけが戦いじゃない。

 裏をかき、認識の外から攻撃することだって立派な戦いだ。

 そして圭太はどちらかといえば裏をつく戦いのほうが得意分野だ。


「その代わり、そのときは俺一人じゃないといけなくなるけどな」

「一人での戦いなんて許されません」

「だろ? だから不可能なんだよ。いくらナヴィアでも警戒された牢獄に潜入するのは難しいだろうからな」


 ナヴィアの身体能力や感知能力は圭太よりも優れている。だけど判断力や情報収集能力は圭太のほうが優れている。

 潜入するならゲームで慣れているだけ圭太のほうが有利だ。そしてキテラの牢獄は生半可な相手ではない。圭太一人で潜入しなければ成功は難しいだろう。


「で、どうするんだロイ」


 ナヴィアの疑問を晴らした圭太は、再びロイを睨む。


「お前ら反乱軍は協力するのか?」

「協力、しなかったらどうなる」

「どうもしないさ。ここの二人を説得して牢獄の人間を皆殺しにする。仲間を解放できればキテラも倒せるしな」


 イブがいればキテラは恐るるに足らない。

 魔力量が互角でも魔法の知識量は長生きしている分イブに軍配があがるし、どうせキテラは不老不死のイブを殺す手段を持ち合わせていない。

 圭太の戦いはイブを解放するところまでだ。そこから先は魔王の援護に集中することになる。


「協力したら、お前はどう利用するつもりだ」

「お前らにはそうだな。陽動を仕掛けてもらおうと思っている。俺たちの潜入を手助けしてもらえればそれでいい」


 正面から騒ぎを起こしてもらえれば、ナヴィアを連れていても問題はない。戦力が二分化できれば圭太とナヴィアは正面から迎え撃てるからだ。


「ケータの実力は相当だ。それより上がいるって話だったよな?」

「ああ。そいつらは俺が倒す。どのみち倒さなければならない敵だ。お前らに渡すつもりはない」


 イブを守っている五人だけは反乱軍に任せられない。

 圭太が倒さなければならない相手だ。イブを解放しようとすればどのみち障害となるから、対策を考えておかなければならない。


「俺たちの敵はあくまでも一般兵だけってことか」

「少なくとも一人で蹂躙できるような戦力の相手は全部俺たちで倒す。もちろんキテラもな」


 というか今のところイブの助力ありきでキテラを倒そうと考えている。

 イブが全力を出せば余波だけでもシャレにはならない。あまり人が集まっていてもいいことは一つもないのだ。


「手柄だけくれるってことか」

「俺たちは旅人だからな。あまり有名になりすぎるのも問題なんだ」

「ははっ違いない。そうか。俺たちのリスクはかなり低い、か」


 圭太は勇者を倒すという目的のもと旅をしている。目立っていいわけがない。


「悪いが少し考えさせてくれ。仲間と話がしたい」

「いいぜ。予想よりもお前らのリスクは高いだろうからな。しっかり話し合ってくれ」


 慎重に議論を持ち帰ろうとするロイに、圭太は肩をすくめた。

 つい先ほどは勢い任せで頷いていたから不安になったが、どうやら安易に進むしか能がないわけではないらしい。ちょっと安心した。


「ただし、今動かなければ二度とチャンスは来ないぞ」

「分かっている。それも含めて話がしたいんだ」


 圭太がしっかりと釘を刺すと、ロイは重々しく頷いた。

「俺たちにとっていい話になるのを期待しているよ」

「俺たち反乱軍にとってもな」


 さあ、それはどうだかな。

 圭太は胡散臭くなるのを理解しながらもわざと微笑んだ。

 キテラとの戦いはサンやクリスのときみたいにはいかない。

 勝とうが負けようが、確実に未来は歪む。圭太たちはもちろん、民衆の生活にも影響が出るのだ。

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